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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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お願い

 皇帝は現在、艶虎に寵愛を与えている。

 そんな彼女の元には三日と空けず通っており、あの事件から二日後にまたやってきた。

 いつも通りイランイランの香りを充満させた部屋へと入ってきた皇帝は今、艶虎の酌で楽しそうに酒を飲んでいる。


「陛下と一緒に飲むお酒は美味いですわ」


「私もそなたの酌で飲む酒は格別だ」


 よかった。

 以前の変な雰囲気は一切なくなった。

 艶虎も楽しそうに皇帝に寄り添いながら酒を嗜んでいる。

 これなら香華はただここにいるだけでいい。

 あとは二人、牀―ベッド―にでも入ってくれれば――。


「そうだ。そなたの妹……名をなんと言ったか?」


「――…………香華、にございます」


「香華をここに」


「………………はい」


 ちらり、と艶虎の目が香華に向けられる。

 どうしてこうなるのだと冷や汗をかきつつも、命じられては動かないわけにはいかない。

 香華は前に出ると、頭を深く下げた。


「香華でございます」


「すまないな。楽にするといい」


 できるわけがない。

 皇帝を目の前にして気楽でいれるはずがないだろう。

 香華は決して皇帝と目を合わせることなく、静かにその場に立ち続ける。


「私の息子……白龍ハクロンを知っているか?」


「……皇太子殿下を知らぬものはここにおりません」


 詳しくは知らないが、名前くらいは流石に存じている。

 皇太子、白龍。

 鋼鉄の皇太子と噂の人だ。


「私はあれのことを心配している。……ここ最近は特に体調を崩しているようでな。――そこで、そなたにお願いがある」


「……なんなりと」


 絶対に面倒ごとだ。

 できるなら断りたい。

 もちろん断れないことはわかっている。

 わかっていてなお断りたいのだ。

 だがもちろん無理だ。

 なのでイヤイヤながら話を聞くことにした。


「白龍の気分転換にでもなればと思ってな。そなたの力を使ってやってくれ」


「…………かしこまりました」


 つまりは香蝶を使って皇太子を楽しませろということらしい。

 大道芸人ではないのだが、皇帝の命令ならばしかたないだろう。


「白龍には話を通しておく。明日にでも向かってくれ」


「承知いたしました」


 さあ、話は終わりだと下がろうとしたが、なぜかそれを皇帝は許さない。

 彼はおお、と思い出したように声を上げた。


「そういえばこの間蘭妃に会いに行ったのだが、そなたのことを聞いた。蘭妃の不調の原因を突き止めたとか。だからそなたを白龍に紹介しようと思ったのだ」


 他の女の話をここでするな!

 と心の中で叫んだ。

 しかもよりにもよってなぜ蘭妃なのだ。

 あんなに興味を失っていたというのに。

 艶虎からの視線が痛すぎて、香華は冷や汗が止まらなかった。


「蘭妃の元に行ったのもそのためでな。久しぶりに話をしたら楽しかった」


「……ようございました」


「これからもちょくちょく通うことになるだろうから、その時はこの香りを蘭妃の部屋に漂わせてくれ」


「…………か、しこまりました」


 皇帝とは人の心がないらしい。

 艶虎の前で他の女の元に通う発言をして、さらにその手伝いを妹にさせようとするのだ。

 ありえない発言にうまく返事をすることができなかった。


「白龍はどうやら眠れていないようでな。医者にも見せたが治らなかったようだ。なにか考えはあるか?」


「……いえ。私にはわかりかねます」


「そうか。まあ実際に本人に聞いてみないとわからないこともあるだろう。蘭妃の時のように寄り添ってあげてくれ」


「…………かしこまりました」


 話は終わりと、皇帝は艶虎と向き合いあれこれ話をし始めた。

 やっと終わったようだと下がりながらも、バレぬよう部屋から出ると大きくため息をついた。


「冗談じゃないわ。なんでこんな目に……」


 皇太子の不調の原因を治せ、なんてできるわけがない。

 香華は医者ではないのだ。

 そもそも医者ですら治せなかったものを、香華が治せるわけがない。

 ただのアロマテラピストになにを望んでいるのやら。


「だいたい蘭妃のことをお姉様の前で話すなんて……」


 嫉妬でもさせて楽しんでいるのかとも疑ったが、どうやらそうではないようだ。

 さすがは殿上人。

 下々の心なんて気にする必要もないのだ。


「これでまたぶん殴られたら、皇太子の前にどんな顔で出ればいいのよ……」


 ただでさえあざが目立つというのに、これで頰が腫れてたら見るも無惨すぎる。

 さすがに姉も世間体があるだろうから、殴らないでいてくれるとありがたいのだが……。


「……明日がこなければいいのに」


 思わず遠い目をしてしまったのは、仕方ないことだろう。

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