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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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傀儡

「香華」


「皇太子殿下……!?」


 皇帝が帰ってからすぐ、今度は白龍が険しい顔をしてやってきた。

 どうやら皇帝が皇后に会いにきたことを聞いたようだ。

 香華の姿を確認すると、少し安心したように笑った。


「怪我はない? 嫌な思いはしてないかい?」


「大丈夫です。皇后陛下が守ってくださいました」


「そう……。よかった」


 白龍はそれだけいうと、すぐに皇后の元へと向かった。

 心配だったのだろう。

 部屋に入った白龍は、香蝶と戯れる皇后を見て安堵のため息をついた。


「……母上」


「殿下。……きてくれたのですね」


「はい」


 座るよう指示を出した皇后に従い、白龍は膝を折った。

 彼の周りを飛び始める蝶を眺め、深く息を吸い込んだ。


「いい香りだ。これは?」


「マンダリンオレンジの香りでございます。柑橘系の果実です」


「ああ……。なるほど。確かにいい香りだ」


 白龍の言葉に、皇后も深く頷いた。


「香華のおかげで落ち着くことができたの。とても素敵な守護獣よね」


「……はい。とても」


 白龍といい皇后といい、なぜこんなに嬉しいことを言ってくれるのだろうか?

 無能だと蔑まれた香蝶を、国の長たる二人が素敵だと言ってくれた。

 これ以上の誉があるだろうか?

 香華の気持ちを察知したのか、香蝶がパタパタと飛び回る。


「皇帝はなんと?」


「……あなたの行動を責めていました」


「……僕に言ってくればいいものを」


「皇太子殿下」


 白龍の言葉を皇后が止めた。


「陛下といらぬ争いを生まぬよう動くことも大切ですよ」


「わかっています。いつもはそうしていますが……」


「…………今回は我慢ならなかったのね」


 まあそれは仕方がないと、皇后は静かに告げた。


「しかし皇帝陛下があれだけ強気に出ている理由。……わかっていますね?」


「………………」


 白龍の顔が険しくなる。

 どうやら皇后の言うとおり、理由がわかっているようだ。

 だがその理由が、白龍にとってよくないものなのだろう。


(確かに。皇帝は皇太子殿下のおかげで、今あの地位についている。なのにあれだけ強気なのはなぜ……?)


 その答えはすぐに、皇后の口から告げられた。


「あなたが妃を娶り、跡継ぎを作らないからです」


「――」


 ああ、そうか、なるほど。

 と香華は心の中で納得した。

 皇帝は白龍の歳にはもう二、三人御子がいた。

 それなのに今の白龍には妃すらいない。

 そこを馬鹿にしているのだ。


「陛下はあなたが不能だとお考えよ。だから例えあなたが皇帝になろうとも、その次の代は自分の子どもだと考えているのよ」


「第ニ皇子ですか?」


「そうよ。皇帝陛下の傀儡」


 第ニ皇子は確か白龍の一つ下の年齢だったはずだ。


「あれがあなたの次に皇帝になれば、結局現皇帝は実権を握れると思っている。だからあれだけ強気でいられるの」


 なんとも難しい関係性だ。

 現皇帝は白龍のおかげで皇帝になれた。

 だがそれも白龍が皇帝になる繋ぎ。

 しかし白龍に子どもができなければ、お世継ぎの問題が生まれてしまう。

 そこでその次の代を自分の子どもであり、なんでも言うことを聞く次男に任せようと画策しているのだ。

 そうすれば結局は、自分が実権を握れると。

 どうして偉い人というのは権力にしがみつこうとするのだろうか?

 面倒ごとばかり作るなと、皇帝の顔を思い出しては首を振って消した。


「――あなた、男性が好きなわけではないでしょう?」


「母上。ありえないのでやめてください」


「けれど皇帝はそう、もしくは不能だと思っているのよ」


 なんて会話だ。

 女官たちは顔には出さないが、さすがに少しいたたまれなさそうだ。

 ちなみにそれは香華もである。

 敬愛する白龍のそんな事情、できれば知りたくはない。


「だからこそ、そうではないのだと皇帝陛下に知らしめないといけないわ。そうでもないと、陛下は暴走するでしょうから」


「……僕の即位を待たずして、第二皇子を皇帝にすると?」


「可能性はあるでしょう。……けれどそれでは反感を買うことになる。……国を二分するわけにはいかないのです」


 皇后の憂いはそこなのだろう。

 皇帝派と皇太子派で分かれ争うこと。

 それを危惧しているのだ。

 いくら白龍が優秀と言えど、皇帝にももちろん味方はいる。

 そこがどれほどの力があるのかわからないが、双方無事ではすまないのだろう。

 それにもし仮にその戦いに勝ったとしても、白龍の名に傷がついてしまうかもしれない。

 父親から玉座を奪った、簒奪者と。


「だからこそ、あなたはすぐにでも妃を迎えなくてはなりません」


「…………ですが相手がいません。母上も妃選びは難航していたでしょう」


「そうね。ええ、そのとおりだわ」


 さすがにこの歳まで妃候補が一人も挙がらなかったわけではないのだろう。

 実際香華も幼い頃、皇太子の妃にと名前が挙がったのだから。

 だがそれもこのあざでなくなったわけだが、その後なにもなかったはずがない。

 きっとたくさん数多の女性が候補になったのだろうなと、己のあざを撫でた時だ。

 皇后の瞳が、きらりと光った。


「だから今ここで、白龍。あなたの妃に香華を推薦するわ」

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