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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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母と息子

 吐き気のある体質とはなんだろうか。

 淑威から話を聞いた翌日、香華は皇后の住まいそばにある道を、行ったり来たりしていた。

 考えごとをするのにはちょうどいい距離なのだ。

 なのでいつも通り、むにむにと下唇をつまみながら思考を巡らせていた。

 もちろん内容は皇后のことだ。

 昔からの体質のせいで吐き気があるらしいが、それが一体なんなのかを考える。

 吐き気となるといろいろあるが、昔からとなると絞れる気がした。

 可能性として高いのは偏頭痛だ。

 脳の血管が広がることで三叉神経を刺激し、脳の嘔吐中枢にまで影響を与えてしまうことがある。

 ゆえに偏頭痛と吐き気は同時に起こり得るが……。


「それなら頭痛も起こるはず」


 しかし皇后の症状に頭痛は見られなかった。


「なら偏頭痛じゃない……。貧血? 女性なら可能性は高いけれど」


「なにが高いの?」


 突然聞こえた声に無意識に下げていた顔を上げれば、目の前に白龍が立っていた。


「殿下!? なぜこちらに……!?」


「母上に挨拶にきたんだ。……まあ、それは建前で、一番の目的は君だよ。大丈夫そうかい?」


 心配してわざわざきてくれたらしい。

 なんて優しく慈悲深いかたなのだろうかと感激し、今にも崇めそうになる気持ちを抑える。

 こんなところで拝んでも白龍に迷惑がかかるだけだ。

 ぐっと我慢して、香華は頭を下げた。


「はい。つつがなく過ごさせていただいております」


「そう……。でもダメだよ? ちゃんと帰ってきてね?」


 まるで皇后との会話を聞かれていたかのような白龍の言葉に、香華は目をぱちくりとまたたかせた。


「元よりそのつもりです。……ですが殿下、もしや聞いていらっしゃったのですか……?」


「なにが? 母上ならそんなこと言いそうだなーって思っただけだよ」


 洞察力が凄すぎる。

 香華はまたしてもさすが殿下! と拍手を送りそうになるのを必死に絶えた。

 才能豊かな主人に仕えられる喜びに震えつつも、話を続ける。


「皇后陛下にはよくしていただいておりますが、私の目的は認めてもらい、殿下の臣下として働くことです」


「うん。がんばってね」


「もちろんです!」


 白龍から激励の言葉をもらえたことが嬉しくて、思わずニヤけてしまう。

 むふふっと笑いつつも白龍と共に皇后の元へと向かえば、案の定ものすごく嫌そうな顔をされた。


「……珍しいわね。普段なら寄り付きもしないのに」


「迷惑でしたか?」


「いいえ。……ただ、目的が見え透いているなと思っただけよ」


 皇后の鋭い視線を受けて、香華はそっと白龍の背後に隠れた。

 別にやましいことがあるわけではないのに、なぜか彼女からの視線に真っ向から向き合えなかったのだ。


「香華は僕のところの女官ですから。粗相をしてないから心配するのは当たり前ですよ」


「いじめられてないか心配、の間違いでしょう」


「よくしていただいてるようで安心しました」


「……まったく」


 皇后は大きくため息をつきつつも、白龍を追い返すつもりはないらしい。

 お茶を用意させると、白龍に進めた。


「少しは休んでいるのかしら? あなたは根を詰めるでしょう」


「最近は休んでますよ。香華に言われたとおり、朝は散歩に行ってますし」


「――散歩?」


「母上もいかがですか? 朝体を動かすと頭が冴えますし、なにより寝つきがよくなります。……聞きましたよ? 最近眠れていないと」


 皇后の視線が白龍から離れる。

 少し気まずさを覚えたのか、彼女の表情が固くなった。


「……眠れていますから心配無用です。――それよりあなたのことです。皇帝陛下と言い争ったと聞いています。龍まで出して……!」


「あれは皇帝陛下が悪いかと」


「それはわかってます! しかしあなたには立場というものがあるでしょう!?」


 どうやら皇后は全ての真相を知っているようだ。

 知っていてなお、女官一人を助けるために皇帝に喧嘩を売った白龍を叱っているらしい。

 いくら白龍のおかげでその座につけているとはいえ、相手は皇帝。

 この国のトップに楯突いたのだから、皇后の心配も当たり前だろう。

 とはいえ白龍はそんなこと一切気にしていないのか、ゆっくりとお茶を飲んでいる。


「母上は僕が皇帝陛下に負けると、本当に思っているんですか? なんのために僕が眠る時間を削って仕事をしていると……?」


 なにやら白龍から圧を感じる。

 これ以上面倒ごとを言うなと、彼の後ろから放たれるオーラが言っている気がした。

 皇后も同じことを感じたのか、さすがに黙り込んだ。


「とにかく心配無用です。それより香華のことです。彼女を信じて任せてください」


「……どうするか決めるのは私です」


 頑固な親子だ。

 どうやら白龍は見た目も中身も皇后似らしい。

 二人はしばし見つめあった後、ふいっと顔を逸らした。


「………………」


「……………………」


 黙り込む二人。

 それにまずいと思ったのか、淑威が皇后に耳打ちしている。

 確かにこの状態で二人が仲違いするのはよろしくないだろうと、香華もまた白龍に耳打ちした。


「殿下。このままでは皇后陛下に認めてもらうことができません」


「でも……」


「殿下。私は殿下のおそばにいたいです。そのためには皇后陛下に認めていただかないと、難しいかと」


 香華の話にむぐりと口をつぐんだ白龍は、しばしの沈黙ののちに皇后へと向き合う。

 すると皇后も白龍へと向き合い、視線を合わせた。


「まあ、少しくらいならその娘の話を聞いてあげましょう」


「僕も次は少し気をつけることにします。少しですが」


「…………」


「……………………」


 ひとまずなんとかなったようだ。

 だがこれ以上は気まずいと思ったのか、白龍は立ち上がると部屋を出ていく。

 香華がちらりと皇后を見れば、目で追うよう指示される。

 なので出て行ってしまった白龍を追えば、彼は出てすぐのところで立ち止まり大きくため息をついていた。


「殿下!」


「香華……。ごめんね、面倒をかけたね」


「いえ、そのような……」


 まあ実際とても気まずかった。

 あの淑威すら若干顔色を悪くしていたくらいだ。


「どうも母上とは話がうまくいかなくてね。まあ言ったことを曲げるような人ではないから、話は聞いてくれると思うよ」


「ありがとうございます。必ず、皇后陛下に認めてもらいます」


 せっかく白龍が作ってくれた機会を、みすみす逃すわけにはいかない。

 両手をぐっと握りしめ、決意を新たにする。

 するとそんな香華に笑いつつも、白龍はそっと手を上げた。


「無理はしないで。――でもがんばって」


 そう言って香華の頭を優しく撫でた白龍は、じゃあね、と告げてその場を後にした。


「………………」


 香華はそっと己の頭を撫でる。

 白龍が触れたその場所を二度三度と撫で、じわじわと頰が熱くなるのを感じた。

 なんだか少し恥ずかしかったのだ。

 でもなぜだろうか?

 恥ずかしくて、少し嬉しい。

 ぽぽぽっと赤くなった頰を冷ますため、香華は少しだけその場で立ち止まり、白龍が行ってしまったほうを眺めていた。

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