表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/40

呆れてものも言えない

 そしてその心配ごとは、すぐに現実のものとなった。

 香華と美琳が皇太子付きの女官となった二日後、皇帝から呼び出しを受けたのだ。

 場所は以前香華が杖刑を受けた場所。

 なにをさせたいのかはすぐにわかった。


「……やはり、杖刑をちゃんと受けないと、許してもらえないみたいですね」


「香華……!」


「大丈夫よ。今度こそなんとか耐えてみせるわ」


 とはいえあれだけの思いをしたのだ。

 香華の顔は青ざめ、手は小刻みに震えている。

 怖いものは怖い。

 どうにかならないかと考えていると、そんな香華の手を白龍が優しく握った。


「なにも心配いらないって言っただろう? あとは僕に任せて」


「ですが殿下――!」


 迷惑をかけたくない。

 そう言いかけた香華に軽く首を振って黙らせた白龍は、そばに控えていた凰輝へと視線を向けた。


「最悪の事態を考えていつでも動けるようにしといてくれ」


「りょーかい。それにしても馬鹿だねぇ」


「そうだね。――本当に、理解力がなさすぎる」


 白龍の背後にドス黒いなにかが見えた気がして、香華は慌てて己の目を擦った。

 もう一度確認した時にはなにもなかったので、もしかしたら見間違えだったかもしれない。


「ひとまず行こうか。大丈夫。――僕を信じて」


「…………」


 香華は白龍の手を見る。

 この手に助けられて今、ここにいるのだ。

 なら信じるのなんてあまりまえだろう。

 白龍がなにをしようとしているのか、どうするつもりなのか、皆目見当もつかない。

 けれどこれだけは胸を張って言える。


「――もちろん、信じています。……殿下を」


 差し出された手に己の手を乗せれば、白龍は引っ張っていってくれる。

 怖いけど大丈夫。

 白龍はそう思わせてくれた。

 少なくとも彼と一緒なら。

 二人は指定された場所ギリギリまで手を繋ぎ向かい、どちらからともなく離した。

 ここから先は、弱みを見せるわけにはいかない。


「大丈夫?」


「…………はい。殿下がいてくださるので」


「――うん。大丈夫だから、香華はそこにいてくれればいいよ」


 そう言って中へと入る白龍の後ろについて、香華も足を進めた。

 中に入ると途端に体が震えてくる。

 嫌な思い出しかないこの場所では、仕方ないのかもしれない。

 十字の板があるそばには天幕が張られ、そこに艶虎と皇帝がいた。

 やってきた白龍に気づいた皇帝は、眉間に皺を寄せる。


「なぜお前がここにいる? 私はそこの娘を呼んだんだぞ」


「皇帝陛下。彼女は僕の女官です。なら主人たる僕がここにくるのが当たり前では?」


 白龍の答えに片眉を上げた皇帝は、膝掛けをトントンと指先で叩き始める。


「――艶妃がな、その娘に酷い仕打ちを受けたと泣いてきたのだ。ただの女官が主人を泣かせるなど、あってはならないことだ」


 涙を流す艶虎を隣に座らせ、皇帝は鋭い視線を香華に向けた。


「ゆえにその娘には杖刑百回を言い渡す――!」


 ギュッと拳を強く握りしめた。

 やはりそうなるのか。

 皇帝の隣に座る艶虎を見れば、彼女は香華に向けてにやりと微笑んだ。

 艶虎はどうにかして香華を白龍から引き剥がしたいらしい。

 そのためなら香華が死んでも構わないと思っているのだ。

 思わず艶虎に鋭い視線を送れば、それを見た皇帝が怒鳴り声をあげた。


「自らの主人を睨みつけるとはなんたるのことだ! 本来なら謝罪する場で、なんという傲慢さか! お前たち、今すぐその小娘を刑に処せ!」


 皇帝の命令に従い、数人の執行人が香華を捕まえようと近づいてきた。

 そのうちの一人が香華の腕を捕まえようと手を伸ばした時だ。

 白龍が力強く言い放った。


「――全員動くなっ!」


 ピタッと動きを止める人々。

 温和な白龍から出たとは思えない大きくも威厳のある声に、香華は大きく目を見開いた。


「動けばその場で斬り伏せる。……静かにしていろ」


「――白龍! 貴様……!」


「皇帝陛下。彼女は陛下から命令されて僕の不調を治しにきたのです。その命令を遂行せず、杖刑にて動けなくなっては困ります」


「だがそやつは艶妃の命令に背いたのだぞ!」


 皇帝からの怒りの声に、白龍は淡々と返す。


「艶妃より、皇帝陛下のご命令のほうを遂行しようとすることは当たり前ではありませんか?」


「だからと言って、艶妃を侮辱していいわけではない!」


 話を聞かないなと白龍はため息をつく。

 埒があかないと今度は艶虎へとターゲットを変える。


「では艶妃。香華はあなたになにをしたと?」


「私を侮辱いたしました!」


「どう侮辱したと?」


「――そ、それは……」


 答えられないのだろう。

 実際香華は艶虎を侮辱なんてしていない。

 ただ艶虎がそう思っているだけだ。

 自分から白龍を奪ったと。

 だがそんなことを皇帝に言えるわけがないのだ。

 だから黙り込んだ艶虎から、今度は皇帝へと白龍はその赤い瞳を向けた。


「これでもまだ香華を杖刑にすると?」


「…………当たり前だ。主人のために動くのが女官であるのに、そのものはそれを怠った。だから罰するのだ」


「…………なるほど」


 白龍は顔を伏せると、クツクツと笑い出した。


「馬鹿だとは思っていたけれど、まさかここまでだったとはなぁ……」


「白龍、貴様――!」


 皇帝が鼻に皺を寄せ、怒りに顔を赤らめた時。

 白龍は前髪をかきあげながら、顔を上げた。


「ならもういいです。父上、今すぐ皇帝の座を降りてください。――今ここで、僕が座ります」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ