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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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恋と恋

 白龍は香華が目覚めたことに安心しつつ、艶虎の元へと足を進めていた。

 香華を自分のところの女官にすると、艶虎に話をつけるためだ。

 足早にやってきた白龍は、艶虎の部屋で彼女と対峙した。


「――殿下……!」


「話をしにきた」


 椅子を倒す勢いで立ち上がった艶虎は、そのまま白龍へと近づくと彼の服の裾を握った。


「なぜ香華なのですか!? ほんとうなら……私があなたに嫁ぐはずだったのに――!」


「香華は僕の主治医だ。そういう目的できてもらったわけじゃないよ」


 白龍は否定したが、艶虎は納得できていないようだ。

 涙に濡れる瞳で、白龍を睨んでくる。


「ほんとうに……? 殿下は昔からあの子のことを――」


 今度は白龍が艶虎を冷めた目で見る番だった。

 どうして彼女はいつもその話になるのだろうか?

 違うと言っても聞かないのなら、話す必要すらない。

 白龍は大きなため息をつくと、もういいと手で制した。


「どちらにしろ君はもう皇帝陛下の妃だ。……余計なうわさを立てられないようにしてくれ」


「…………っ」


 傷ついた表情を見せる艶虎だったが、これでいいのだと白龍は冷たい態度を突き通す。

 ここで下手に優しくするほうが、彼女にとって酷だろう。


「とにかく香華と美琳は僕の女官にする。……いいね?」


「…………このこと、陛下に伝えさせていただきます」


 ふむ、と白龍は腕を組んだ。

 どうやら納得はしてないらしい。

 皇帝の寵愛をいいことに、香華を渡さないつもりのようだ。


「殿下がこれ以上好き勝手するのなら、私は――」


「好きにするといいよ」


 もういいと白龍は艶虎の手を振り払うと、背中を向けた。


「皇帝陛下と僕の関係に亀裂を入れたいならそうするといい。……でも君もわかってるだろう? ――僕にだけは、その脅しは効かないよ」


 これ以上は時間の無駄だと去ろうとした白龍。

 だが白龍が足を一歩踏み出した時、艶虎がその背に抱きついてきた。


「殿下――! 私はずっと……、初めて会った時からあなたのことが好きだったんですっ!」


「…………知ってるよ」


 昔からわかりやすかったと、白龍はほんの少しだけ過去を思い出した。

 あれはいつのことだったか。

 まだ幼い白龍は、母とともにとある名家に向かったのだ。

 なにかの祝いの席だったと思う。

 そこで家の主である男に紹介されたのが、艶虎だったのだ。

 彼女は白龍と対峙した時、ゆっくりと頰を高揚させ瞳を瞬かせた。


『え、艶虎と、申します……!』


 頭を下げつつもチラチラとこちらを見てくる艶虎に、白龍はなんとなく彼女が抱いた感情を理解した。

 だからこそ艶虎がその後言った言葉にも、驚かなかったんだと思う。


『殿下……! わ、私……殿下のお嫁さんになりたいです……!』


『……そっか。なれるといいね』


 今にして思えばなんて冷め切ったことを言うのだと頭を抱えそうになるが、あの頃は自分の娘を妃にと言ってくる人が多くて飽きていたんだ。

 だからそう告げれば、目の前の艶虎は顔を真っ赤にして俯いた。

 これて話は終わったのかと横を向いて、そして白龍の赤い瞳に彼女が映ったのだ。


「――」


 蝶と戯れる少女が、花散るその下にいた。

 真っ白な肌は輝くように美しく、漆黒の髪が花とともに舞う。

 赤い唇が弧を描き、そしてその瞳に白龍が映った。

 お互いを見つめ合ったあの時、白龍の中に確かに知らない感情が芽生えたのだ。

 だがあの頃はまだ幼くて、あれがなんなのかわからなかった。

 けれど今ならわかる。

 あれは――。


「一度だけでいいんです! ……殿下、私を見てください。香華じゃなくて、私を……!」


 力強く回された艶虎の腕を、白龍は静かに引き剥がした。

 これ以上許すことはできない。

 白龍は大きくため息をつくと、改めて艶虎と向き合った。


「君がすべきことは皇帝陛下のお心を支えることだ。自分の想いを遂げることじゃない」


「……全て忘れろと? ……あなたのために私は――!」


「僕のため? 自分のためだろう? 自分のためにやったけれど、ただ結果が伴わなかっただけだ」


「…………殿下……」


「僕が君の想いに答えることはない。……君は皇帝陛下のことを想い続けて」


 白龍はそれだけいうと、今度こそ艶虎の部屋から出た。

 なんだかものすごく疲れた気がする。

 大きめなため息をついた白龍は、早々に足を進めた。

 とにかくこれで香華の件は片付いたはずだ。

 ならもうここに用はない。

 これ以上いて変にうわさを立てられるのも困る。

 なのでさっさと艶虎の住む建物から出て、青空の下深く深呼吸をした。


「………………風が気持ちいいな」


 陽を浴びることも、風を感じることも。

 なに一つ特別なことじゃないのに、今は少しだけこの時間を大切に思っている。

 どうしてだろうかと考えて、すぐに隣を振り返った。

 いつも朝の散歩の時は、ここに香華がいてくれる。


「――僕は単純だなぁ」


 大切にしているのは時間じゃない。

 誰と一緒にいるか、だ。


「…………帰ろう」


 なら少しでも早く帰ろう。

 きっと彼女は待っていてくれるはずだ。

 これからはずっと、一緒にいれるのだから。

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