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【完結】あざ顔女官の宮廷アロマテラピー〜鋼鉄の皇太子を香りで骨抜きにしました〜  作者: あまNatu


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一緒にいられる

 白龍の部屋で目を覚ました香華が一番最初に見たのは、瞳に涙を浮かべて喜ぶ部屋の主だった。


「香華! よかった……。目が覚めたんだね」


「……殿下? あれ? わたし……」


 どうして目を覚まして最初に見るのが、白龍なのだろうか?

 普段はなんの変哲もない自身の部屋の天井のはずなのに……とそこまで考えてハッとした。

 そうだ。

 自分は確か、艶虎の命令で杖刑を受けていたはず。

 そこで意識を失って、目が覚めたらここにいた。

 ということはつまり……。


「――あれ? 夢じゃない……?」


 白龍が助けにきてくれた。

 そんな都合のいい夢を見ていたと思っていたけれど、もしかして。

 香華が白龍へと視線を向ければ、彼は優しく微笑んだ。


「美琳がね、知らせてくれたんだ。それで急いで行ったんだけど」


「――も、申し訳ございません! 殿下の手を煩わせるなど……!」


 なんてことをしてしまったのだ。

 皇太子にそんなことをさせたなんて、と香華はベッドから降りて慌てて土下座しようとする。

 しかし地面に擦り付けようとしたその額を、白龍に素早く押さえられてしまった。


「いくら傷が治ってるとはいえ、無理はしないように」


「え? 傷治ってる……? あ、そういえば……」


 杖刑でかなり深い傷を負っていたはず。

 だというのに動いても体に痛みが走らない。

 どういうことだと己の体をあちこち確認していると、白龍が水を差し出しながら教えてくれた。


「凰輝にお願いしたんだ。君の傷を治すようにって」


「――あ、だから……」


 かなり深い傷だったはずなのに、それが綺麗さっぱりなくなっている。

 改めて守護獣の力の凄さを思い知った。

 癒しの力を持つ鳳凰もそうだが、香華の香蝶だってこの世界にない香りを再現できる。

 守護獣に感謝をしつつ、後日改めて凰輝と鳳凰にお礼を言うことを決めた。


「本当にありがとうございます。……まさか助けていただけるなんて」


「香華は僕の主治医だ。……君を失いたくはない」


 なんだろうか。

 以前とは違う、なんだかこそばゆい気持ちが胸に宿る。


「……本当にありがとうございます」


「うん。無事でよかったよ」


 鳳凰の力のおかげで、痛みを感じることもない。

 これならまたマッサージもできると喜んでいると、なぜか白龍は険しい顔をした。


「それでね、今後のことだけれど」


「今後?」


 なんの話だろうか?

 小首を傾げた香華に、白龍は深く頷いた。


「杖刑の途中で君を攫ったからね。……君の姉はまだ納得してないだろう?」


「――そう、ですね」


 そうだった。

 白龍に途中で助け出されたということは、艶虎の怒りはまだ治っていない。

 いや、むしろ白龍に香華が助け出されたところを見ているのなら、怒りはもっと強く燃えたぎったことだろう。

 戻ったらきっと、もっとひどい目にあうはずだ。

 あれ以上のこと……と想像するだけで寒気がした。


「……私…………っ」


「香華。僕は君を手放すつもりはない。意味がわかるかい?」


「えっと……?」


 手放さないとは主治医として、という意味だろう。

 だが残念ながら艶虎の元に戻れば、どうなるかわからない。

 悲しげに瞳を伏せた香華の肩を、白龍が優しく掴んだ。


「君を僕付きの女官にする。だからもう、大丈夫だよ」


「……私が、皇太子殿下の女官……?」


「そう。それなら君は姉に怯えることもない。――あ、美琳も一緒に連れてくることにしたから安心してね」


 香華は瞳を大きく見開いた。

 そんな都合のいいことがあっていいのだろうか?

 皇太子付きなんて、本来ならもっと厳選な審査などを経てなれるものではないのか?

 それを、本当に……?


「……いいんですか? 本当に」


「僕としてもそのほうが都合がいい。君が毎日夜遅くに帰っているのを見て、心配していたんだ」


 心配をかけていたなんて知らなかった。

 それは申し訳ないことをしたと思いつつも、同時にうれしくもなる。

 誰かに心配してもらえるというのは、大切にしてもらえているということだ。

 白龍との心の距離が少しでも近くなっているといいなと思う。


「ちょうど女官を入れたいと思っていたんだ。だから……君さえよければ」


 美琳には事前に了承を得ていると言われ、香華はふと笑ってしまう。

 そんなの断る理由がない。

 本当に、白龍には救われてばかりだ。


「ありがとうございます。――ぜひ、よろしくお願いいたします」


「よかった。これで僕も安心してまっさーじ? を受けられるよ」


 香華はその場で頭を下げると、ゆっくりと顔を上げた。

 まっすぐに、白龍の瞳を見る。


「皇太子殿下。このご恩は忘れません。――必ず、殿下の体の不調を治してみせます」


「……ありがとう。よろしく頼むよ」


 ここまでしてもらったのだから、期待に応えなくては。

 白龍の苦しみをなくしてあげたい。

 改めて決意を新たにしていると、白龍はそれじゃあと踵を返した。


「君は寝てて。――僕は今から君の姉に話をつけてくるよ」


「――え!? 今からお一人で……?」


「君と会わせたくないからね。大丈夫、安心してて」


 それじゃあ、と軽く手を振って部屋を出て行った白龍の後ろ姿を、香華は見つめるしかできなかった。


「…………殿下付きかぁ。想像もしてなかった……」


 白龍とはマッサージを施す間だけの関係だと思っていたのに。

 まさか彼の女官になるとは。

 これからもずっとそばにいれるのだと思うと、なんだか嬉しい気持ちでいっぱいになった。


「――えへへ……!」


 嬉しさを誤魔化しきれなくて、香華は布団に入りながらくすくすと笑った。

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