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第四話

「言っても俺ら総出で仇討ちするわけじゃー無いぜ?」


上の空。


「それに、魔法使いなんて一人もいないから、その点も安心していい。

イメージとしては、仇討ってより決闘って呼んだほうがいいかもな。

決行は明日だ。時間になったら迎えに来るから待っとけ。」


奈津子はサッパリ上の空。


「おい聞いてんのかよ。」


「・・・。」


ガシャァンと、名木田はその足で鉄柵を蹴った。

奈津子はビクッと反応して、ようやくその口を開く。

「冗談ですよ冗談。」しかしそれは至って冷静な口調だった。

「あ、魔法使いって呼ぶのはよして欲しいですね。子供臭いです。ちゃんと『E型障害特異型』って読んでください。」

「俺はそれこそダッセー呼び名だと思うんだが・・・まあいいか。」


「あれ、バーレルって法律ないんでしたっけ。」

「あぁ。ここじゃあ人殺したって問題ねーさ。」


「私はどうなるんですかね。」

「知らねーよ。一応お前の付き人っぽいのも一緒に来てるから、そいつらに聞けよ。」


再び頭上にパックリ花が咲いた。


まじでええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん?????

「え、おかしくね??なんでそいつら居ないの?

普通、お前じゃなくてその付き人が私の前に居るべきじゃないの?」


「しらねーよ、あいつらここに着くなりずっとパソコンで映画見てるもん。」


そんなん知らねええええええええええええええええええ!!


「ありえねーーーーーーーーーーーー!!!」これまで押さえつけていた感情が一気に溢れ出した。


やばい、この数十分の間に脳味噌混乱しすぎだ。

落ち着け。

落ち着け。

落ち着け落ち着け落ち着け私。


「そいつら連れてこい」

「いやー、来ないと思うぜ。」

「連れてこいよ」

「あいつら多分来ないよ。そんな人間だった。」

「連れてこいよォ!!」

腹の底から、格子が震えんばかりに奈津子は怒鳴った。


「・・・じゃあ俺らの方から出向こうぜ。来いよ。」

そう言うと、名木田は腰を持ち上げて扉を開いた。

奈津子はあ"ぁ~と嘆息し、仕方なぃ・・・かぁ?・・・と呟いた。

「鍵」

奈津子は牢屋の扉をチョイチョイと不快そうに指さしながら、言った。

「開けてくれないとここから出れませんよ。」

「ん?鍵なんかかかってないぜ。」

「これ牢屋ですら無いのかよ!!」

「面会室だよ。いかしてるだろ?」

「え、お前の?」

「うん。本来は俺が牢屋側で、客がこの椅子に座るんだぜ。」

「えあああああああああ!!」

奈津子の拳が名木田の背後を鋭く抉った。



「グフッ・・・。いいパンチ打つじゃねぇか・・・。さすが魔法使いだぜ・・・。」

「魔法関係ねえよ。お前の鍛え方が悪いんだ。」

言いながら2人は廊下を歩き続ける。

廊下には多種多様のナイフが無数に掛けられていた。

野蛮なイメージの強かったバーレルだが、先程の部屋と言いこの廊下と言い、意外と小奇麗な印象ばかりを受ける。


「ここだ。」

名木田は足を止め、コンコンと二回ノックする。

ガチャリと扉が開くと、小さい金髪がいた。

「ナニー?」

ショッキングピンクと黒が複雑に織り交ざったフリフリのパジャマだった。

って言うかギャルだった。

「なんなのあんたタチー?」

「言いたいことがあるんですよ。入れてもらっていいですか。」奈津子が答える。

「あー、あんた奈津子ちゃんでしょー?ほんっとアンタのせいでウチら迷惑なんだヨネー。」

「はい、その事で。言いたいことが。」

「んー、これから寝るから、手短にネッ。」

そう言い、ギャルはズイッと扉をこちらへ押し開いた。


部屋の奥に入ると、全身真っ白のパジャマの男がベッドの上であぐらをかき、本を読んでいた。

そこだけ空間がネジ曲がっているような、見ているこっちが腹を壊しそうな、奇っ怪な雰囲気を醸している。

ので。

視線はギャルにガッツリ固定して、奈津子は話し始める。

あいつは多分、ヤバイ奴だ。

「早速なんですけど、その・・・例の殺人犯って、本当に私なんですか?誤認だと思うんですけど。」

「うん。どう考えたってあんただよ。なんで?違う?」ギャルのテンションは玄関先で見たものより心なしか少し下がっていた。

「はい。全く違います。さっぱり記憶にございません。

いやそれ以前に、そもそも普通そういうのって本人に確認取るもんじゃ無いんですか?

なんでいきなりこんなことになるんですか?意味がわかりません。」

「アーー、そう?でも目撃証言も状況証拠も一致してるし、なによりあいつを殺せるのなんてあの町にはあんた位しかいないもの。どう足掻いたって言い逃れはムリ。」

「んなこと言ったって、本当に憶えてないんですもん。仕様がない。ただ、絶対私じゃありません。」

「じゃあ17日から21日まで、何してた?」

「今更アリバイ調査ですか・・・。」奈津子は嘆息した。

「17日ね・・・17日・・・。うーん覚えてないですね。」

「23日まで、何してた?」

「あれ、今日は何日でしたっけ。」

「24。」

「あぁ、だったら23日、つまり昨日は・・・家で朝ご飯を食べた後、ちょいと出かけたんですよ。」

「ん・・・?そんなはずはないなぁ。昨日のあんたの家にゃーポリスメーンが沢山いたはずだよ。」

「え・・・」

「ついでに言うと、17日の朝に家を出てから23日の昼に逮捕されるまで、あんたは家に一度も帰ってないんだけど。」

「いや・・・そんなはずは・・・」

「ありゃ、本当に覚えてないの?記憶喪失ってやつ?あんた表情の変化に乏しいから真偽がイマイチつかめないなー。」

ギャルは見た目に反し、意外にも真面目に取り合ってくれた。

しかし今日何度目になるかもわからない混乱に陥った奈津子の頭にそんな事を考える余裕など無い。


奈津子は憔悴していた。

もうわけがわからない。


わけがわからない。

わけがわからない。

わけがわからない。

わけがわからない。

なにもわからない。

いいやもう。

牢屋(面会室?)に戻ってさっさと寝てしまおう。

面倒臭いことはまたあとで考えてしまおう。


「E特(E型障害特異型)の別人格やら記憶喪失やらの発現率って一般人に比べれば大分高いもん。

 力を受け入れるキャパシティが無いと、案外精神って簡単に壊れちゃうのよ。知ってタ?」

ギャルはそのままつらつらと喋り続けていた。

それを遮るように、

「はぁ、どうも。明日は色々となんかあるらしいので、もう今日はこの辺で失礼させていただきます。」

と奈津子は俯いたまま、言った。

「あっそー?。なんかお疲れちゃんだね。やっぱりあんたメンタル弱いのかねー?マジで記憶喪失っぽいカモ。

 まぁ、E特が罪に問われることはないから安心しといてよ。わかってるとは思うけどサ。」

「はーいおつかれさまでーす。」

投げやりにその台詞を吐き捨てて、奈津子はトタトタと歩き出す。



あ"ー

あ"ー

まだ起床してから2時間と経ってないだろうに、なんだこの濃密すぎる時間は。

死んでしまう。


E型障害特異型ってのは例外無く国家機密だ。

仕事なんてせずとも国から無償で多額の補償金が舞い込んでくる。


それにかまけて何もしなかった代償が、コレか。

ギャルの言っていたことはきっと正しいだろう。

弱すぎるメンタル。浅すぎる思考。

私は、この20年間、何をしてきたんだろう。


なんという体たらくだろうか。


無様だ。

低俗だ。

下劣だ。


無能だ。

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