【番外編】……何か、いる。
今回から【番外編】をちょろっと書いていきます。
エピソードタイトルが何かホラーな感じになってしまったが、別にホラーな話ではない。
……が、”何か”がいる。そういう話だ。
日記をペラペラめくって日付を確認してみると、その日は7月11日。
朝5時台に満月を向かえたその日は、いつもより夜の気温が涼しかったらしく、筆者はその日七分袖のチェックのシャツとデニムというスタイルで夜の散歩へと出掛けた。
いつも通り大通公園で路上ライブの演奏を聴いた後、夜の涼しさからまだまだ歩けると確信した筆者は、そのまま夜の街へと歩き出した。
まずは大通公園をまっすぐ西へ向かって歩く。
その頃既にさっぽろ大通ビアガーデンの大規模な設営は終わっており、それを眺めながら歩くのは楽しかった。
まるで閉園後の人のいない遊園地みたいで、特にドイツビールエリアなんかは独特なファンシーさを醸し出す小型テントや、飲食受け渡しブースの特徴からして、夜にみるとまた違った雰囲気があってとても良かった。
例えるなら、【寂れた夜のテーマパーク】感だろうか。
そういうものを楽しんだ後は、一度東側へと戻ってそして北上した。
【北大植物園】へと向かったのだ。
北海道大学植物園。
JR札幌駅から徒歩10分で行ける、大学が運営する植物園である。概要には広さ13.3haと書かれているが、それが大きいものだか小さいものだか筆者には分からない。
多分、都市部にある植物園としては大きめなのではなかろうか。
園内には鬱蒼と生える大きい木々や、四季折々に咲く花や植物(高山植物)。
そして川とか沼とかそれを渡れる橋なんかが架けてあり、また栗鼠なんかもいる。
秋には木から胡桃を落としてせっせと割って頬に詰めたり、隠したりする栗鼠の姿もみれたりするので札幌お薦めスポットの一つに数えてもいいかもしれない。
ちなみに、入園料は高校生以上420円である。(リーズナブル!!)
一つ注意があるとすれば、道は舗装されているわけではなく土で出来ているため、雨の日や雨が降った翌日(場合によっては翌々日あたりもか)にはぬかるむ箇所ができて靴が汚れるかもしれないという点だ。
その辺に気をつけて、行く人がいるならば是非楽しんできて欲しい。
さて、話は戻って夜の散歩である。
北大植物園は夜には開放されていないので中に入る事は出来ないが、しかしその周りをぐるりと回る事は出来る。
広々とした敷地は塀と柵とで歩道との境界を作っているが、ちょっとだけ茂っている木々を見ることはできるし、信号に邪魔されずにもくもくと歩けるのも魅力だ。
たまに走っているランナーも見かけるが、路面状況に気をつけないと石の材質からして滑りそうではあるが……、筆者は走らないのでその辺の問題はない。
そんな訳で、筆者はこの北大植物園をぐるりと回る散歩コース(勝手に指定)にやってきたのだった。
南から北へ向かい、【北5条・手稲通】を西へ向かって進んでいた時の事である。
左手にある北大植物園から突如として、何かが落ちるような枝葉を大きく揺らす音と共に「キィーッ」か「ピィーッ」という甲高く切り裂くような、そんな声が響いた。
それはまるで噛まれて痛い、みたいな声だったので筆者は慌てて北大植物園へと近寄り、柵に手をかけて目を凝らした。
栗鼠か小鳥のような小動物が、喧嘩したか襲われでもして落下したのだろうと思って見てみたのだが、それらしき姿はない。
が、代わりに別のものが筆者の目に映った。
それを最初は熊かと思った。
しかし熊にしては、色合いがどうにも明るく感じられて熊っぽさが感じられない。
では狐だろうか?
しかし狐にしては、どうにも体格が大きく感じられる。
距離があるのと、暗闇と、そして筆者の目の悪さによって、ソレはいるのは確かなのだが何の動物なのだか判明しない。
随分とリラックスして寝そべっているソレは、雌ライオンにもみえるし、カンガルーにも見えるのだが、流石にそれらが北大植物園どころか北海道の野生で生息しているわけがないので、似ているが却下するとして……、そうなってくると、鹿なのだろうかと当たりを付ける。
鹿(仮)は筆者の前で、寝ながら後ろ足で後頭部、耳の後ろ辺りを掻いたりして自由気ままに過ごしている。野生と思しき鹿(仮)がこんなにリラックスした姿を見せるなんて、奈良公園くらいのものじゃないのかと思うのだが、現に筆者の前にそれらしき獣がいた。
個人的にはどうやって塀と柵で仕切られた北大植物園に侵入できたのか謎であり、一瞬北大植物園で飼ってるのかな?とも思ったのだが、植物を食べてしまう鹿(仮)を飼うわけがないのだし、やはり勝手に侵入して寝転んでいるのだろう。
(実際、植物園職員に怒られない限りは安全である。)
結局それ以上の動きは見られないので、暫く鹿(仮)を見つめていたが諦めて筆者はその場を後にした。
後で北大植物園で検索をかけると、狐も園内にいた目撃例もあるようだし、今回も鹿(仮)の脅威のジャンプ力か何かで乗り越えたものとして、筆者はどうにかこの件を飲み下したのであった。
以上が、今回のエピソードタイトル「……何か、いる。」(鹿っぽい何かがいる)の顛末である。
ちなみに、結局木から落ちたであろう小動物の姿は最後まで確認できなかった。
恐らく、筆者が立ち去った後に動き出したか、暫くじっとして身体を休めていたのかもしれない。
怪我なく無事でいてくれればいいのだが。