4.大通公園、場の持つ力と魅力
さて、音楽素人である筆者の当てにならない音楽的印象は以上として、他にも魅力があるのでそれについてを書いていきたい。
素人ながら音楽的な素晴らしさ(格好良くてお洒落)や技術の高さ(多分高いと思う)に魅力を感じているのは当然の事ながら、それ以外にもお薦めできる大きな要因はある。
それは音楽と共に場の持つ力といえばいいのか、夜の暗闇の持つ効果とそこに内在する人達の有機的な動きによるものか。
それによって多分筆者は、初めて通しで見た初回、二回目辺りにそこに幽玄を見てしまったからなのだろうと考える。
例えば。
最前列で地べたに座り込んでフードを深く被り、リズムに合わせて頭を振っている若者達がいた。
かと思えば、近くの花壇の縁に座って、リズムを取りながら前屈みになって聴いていた外国人観光客のおねーさんは、途中疲れたのか移動して、今度は近くの芝生の上でごろりと横になってリラックスした様子。きっと目も閉じているのだろう、この寝ている状態で演奏に聞き入っていた。
この二組の脇目も振らずに自分と音楽だけに耽溺し没頭している姿は、ちゃんと音楽に向き合って自分なりの聴き方、楽しみ方が出来る人といった風で、筆者からみれば音楽玄人のように感じられて格好よかった。
またある時は、青少年のグループがバンドの近くで、曲のリズムに合わせてダンスしている姿を、友達同士代わるがわるスマホ撮影して楽しんでいたり。
ダンスに馴染みのあるカップルは、音に合わせて互いにあーでもないこうでもないと振り付けし合って遊んでいたり。
筆者の隣に来た外国人観光客の子供は、音楽を聞いて演奏する姿を目に焼き付けるようにして見ながら、ぎこちないながらも一所懸命、力いっぱいに身体全体を使ってリズムや音楽を表現しようとしていた。
彼らはさも”それが当然だ”とでも言うように、ごく自然体でやっており、何だかこれも格好よかった。
そうしたリズムに乗って音を楽しんだり身体を使う層がいる一方で、逆にどっしりと構え動かない人もいる。
例えば、芝生に胡坐をかいてじっとバンドを見つめながら演奏に聞き入るおじさんや、仕事帰りにぐったりとした様子で腰を落ち着けて静かに耳を傾けている若いサラリーマンもいるし、胸の前で祈るように手を組んで、うっとりした面持ちで食い入るように奏者を見つめているおねーさんもいる。
かと思えば、演奏しているバンドの前を、彼らを撮影しながらピューっとスケートボードで通り抜けていく若者なんかもいたり。
もっと目を広げれば、我関せずとスマホを弄っている人もいるし、お喋りに夢中の人もいるし、テレビ塔を背景に写真撮影をしている観光客なんかもいて、皆自由にこの場を満喫しているのだ。
色んな人がいる。
実に様々で多様な人と、音楽やバンドへの関わり方がそこにはあった。
この色んな人達が、本当に一時だけ重なる瞬間が発生する。
演奏が盛り上がり、この場にいる人間の心が揺り動かされて万雷の拍手が湧き起こった時だ。
この時、何かが繋がったかのような錯覚めいた感覚を、ふと筆者は覚えてしまうのである。
皆それぞれ独立していて孤独だが、どこか一体感がある。
一体感はあるが、どこか孤独だ。
ある種カオスじみていながら一体化もしている、この不思議空間(異界)。
この様な感覚。
そこには統制や制御の類はなく、そういう部分に能的幽玄さを感じて惹きつけられるのだ。




