【番外編】別の人の彼女になったよ その2
そんな訳で「共感」の素について、ちゃんと歌詞を見て考えてみようと思ったのである。
当たり前だが、やはり詳しい歌詞については書けないので歌詞抜きで書くとするなら、今彼が現実的・社会的判断によって理性によって選んだ窮屈で退屈な相手であるなら、元彼は共通点があったり一緒にいて気楽で素の自分を曝け出せる相手であり、素直な気持ち(好き)で選んだ相手。
歌詞の1番で今彼をたいそう褒めながら、しかし聞き手に微かな違和感を残しつつ次の2番へと進むと、その違和感の正体がそこで明らかになる……そういう歌詞構成の妙もある作品だった。
端的にいえば、元彼に未練があるのが分かる曲であり、現実VS夢という構造の中で現実を既に選びながら今もまだ夢に心惹かれている。だから、私の未練を断ち切って……という感じだろうか。
断ち切っていいものかどうか、正直応援しかねるが。
筆者としては、まずはだいたいこのような解釈をした。
確か昔、情報番組か何かにWacciが出演した際にされたインタビューか何かで、女友達からの相談だったり聞いた話から歌詞を起こしている……みたいな内容の事を言っていたような気がする。
そうであれば女性からの共感が得られるのも当然なのかとも思えるし、条件を付けた社会的評価の高い現実を選択せざるを得ない状況がずっと続いているという、今の社会的背景や構造の影響もこの曲がバズった原因としてはありそうだとも思った。
こうした女性視点の哀しみや悲壮感を感じる歌詞を男性歌唱がうまく中和して、マイルドに聞きやすくしているのだが、果たして効果はそれだけなのだろうか?
筆者としてはここにもう一段階、男性歌唱=男性視点というレイヤーが入るように思うのだ。
歌詞……はもちろん書けないのだが、歌詞の2番は現実を殊更に重視し、不確実性の高い浮ついた夢や希望を語る事を嫌い、(恐らく社会的に)正しいことだけしか言わない今彼の事が書かれている。
歌詞では1番からずっと今彼と元彼を対比して表現している。
もっというならば存在として間逆なのだ。
なので先程の部分を逆に反転させると、夢や希望を彼女に語って聞かせていたのは元彼になるのだろう。
なんとなく、そこから元彼の人物像みたいなものがじわじわと見えてこないだろうか?
現実を見ず、浮ついた夢や希望を語り、社会的に正しいこと(例えば世間一般の常識とか規則めいたもの)を言わない男。
筆者は歌詞を見ていて、なんだか夢追い人のような印象を受けた。
これは夢を追った経験がある男性側からすれば元彼側に感情移入しやすい歌詞なのかもしれない。
少しだけ冒頭に戻ろう。
3B(だけではないと思うが)が何故彼氏にしてはいけない職業と言われるのかというと、女性との接触や言い寄られる確率が高く浮気が心配……という側面ともう一つ、収入が不安定なため将来に不安があるという要素も挙げられる。
夢や希望や自分の未来を語りつつも、その将来は不確実。
結婚を意識する年齢になった女性にとって、嫌いではないけれど別れを選択するには妥当な相手ともいえる。
さて、この曲を歌っているのは男性バンドマンである。
歌詞の元彼のイメージにとても合致していそうな存在である。
なんとなくだが、この曲に対してバンドマンのボーカルというのは、感情移入や没入を促す一つの舞台装置にもなっているようにも思うのだ。
女性からしてみれば、自分にとっての元彼像をボーカルに重ねて没入する事が出来るし、逆に男性からしてもボーカルを自分のアバターとして捉えて、別れた元カノが自分に未練があるという世界観に浸る事ができる。
こういう効果もあるんじゃないか、と筆者は考えた。
更にもう一つ付け加えるなら、この曲で書かれている今彼という存在は「人」ではなく「象徴」としても置き換え可能にもみえるのだ。
社会圧とでもいえばいいのか、多くの人が社会(もしくは世間や親)から長らく強いられてきた模範的な正しい現実、有り体に言えばいい大学行って、いい就職して、いい結婚して家族をつくって、何歳までにいくら貯めて歳を取ったら……というその人の老後まで決められた正解とされるライフプランやレールの擬人化みたいなもの。
だからこういう現実を選ぶというのは、社会に合わせて自分を押し殺して無くすことだから、とても悲しくて苦しくて実は辛い。
そういう悲哀めいたものをこの歌詞からは薄っすらと感じるのだ。
途中でも書いたが、現実VS夢という構造の中で現実を既に選び取りながらも、今もまだ夢に心惹かれているし、そこに戻りたいとも思っている。
男性女性問わず、こういう人が多い時代だからこその「共感」もあるのではないだろうか?
筆者はどちらかというと、ここでようやく理解と共感をしやすかった方である。
さて、簡単にまとめるならば、表層に女性視点(元カノ視点)を置きつつ、一方で男性視点(元彼視点)のレイヤーも挟みつつ、しかし内部には今彼を象徴とする社会や世間が太鼓判を押す現実に飲まれた人間の悲哀が通低して存在している……そういう恋愛ソングでありながら、割と社会派な内容でもあるような、そんな曲なのかもしれないと筆者は思った。
もちろん、解釈違いで違うのかもしれないが。
結構長くなってしまったし抜けもあるかもしれないが、以上が筆者の考察である。
隣に座った女性の「共感」の素について簡単に考えるつもりが、思いのほか長くなってしまった。
けれど色々考えられて良かったのかもしれない。
いつの間にかお盆も過ぎ、8月も終盤へと向かっている。
まだまだ暑い日はあるが、気温のほうは徐々にだが下がってきている気がしないでもない。
皆様も季節の変わり目の体調の変化には気をつけて、楽しくお過ごしください。
それでは、また。
これで【番外編】も終了とします
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