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事件現場

『ほらみなさい。怪しかったじゃない!』


 部屋に戻り、エリーに東屋の件を念話で語るとエリーが息巻いた。


『ライザが犯人じゃないでしょ』

『犯人よ!』

『だからなんでよ。夜中にちょっと外に出ただけで犯人扱いはおかしいでしょ』

「どうしたの?」


 支度を終えたライザが私に聞く。


「んん、なんでもないよ」

「その杖を持っていくの?」

「え? あー、どうしよっかな〜」


 新しい杖はもうあるし……。


『ちょっと! 私も連れて行きなさいよ!』

『なんでよ?』

『事件現場を見てみたいわ』

『あのね、事件現場はクレバリー寮の近くの東屋よ。行くわけないでしょ?』


 学校に行く前に寄っても、今だと人は多そうだし、昼に伺おうにも学校から遠い。それに今回の件は少し心当たりがあった。


『それでも事件の話とかするでしょ? 聞きたい』

『聞いてどうするの? あんたの変身魔法と関係ないでしょ?』

『お願いー』

「ノーラ、どうしたの? 険しい顔をして?」

「ううん。なんでもない。とりあえず、この杖を持っていくわ」


 仕方なく、私はエリーを持っていくことにした。


  ◯


 夕方、私は事件現場のグラバリー寮の東屋にいた。

 現場には人の姿はなく、閑散としていた。


(数人くらいはいると思ったのだけど)


 くだんの東屋は巨大な獣の爪で破壊されたような痕があった。


(やはりこれは……)


『すごい爪痕ね。きっと犯人は魔獣あたりかしら?』

『……前から気になってたけど、どうやって見てるの?』


 杖には目はない。さらに今は袖の中。


『えーとね、視界があって、上下左右色んな角度で見える……みたいな。それと服とか箱くらいな透視出来るみたいな?』

『へえ。それなら袖の中でも見えるの』

『見えるよ。でも、出してくれた方がよりクリアに見える』


 なるほど。

 見える理屈はそういうことだったか。


『さて、もう見るものもないわね。帰るわよ』


 破壊された東屋だけで犯人に繋がる証拠となるものはない。


『待ってよ。裏側見てない!』

『何もないわよ』

『あるかもしれなわよ。ほら!』


 仕方ないので壊れた東屋の裏側へと回る。

 すると裏側にアリエルと……ローランがいた。

 隠れようにもすぐに私の姿を見られた。


「ノーラ?」

「なんだお前が犯人なのか?」


 永遠のエリーシオの攻略キャラであるローラン・マルコシアスが私に疑惑の目を向ける。

 ウェーブのかかった長めの茶髪と切長の目に涙ぼくろ。攻略キャラで随一のセクシーキャラ。そしてBL界隈では総受けとして描かれることが多い。


「は? 犯人? どうしてそうなるの?」

「犯人は現場に戻るというだろ?」

「その理論を使うならあなたが犯人では? それにここは女子寮の側ですわよ」


 女子寮に男子がいるのは御法度。


「俺は女の子に用があって寮にきたんだよ。で、現場が目に入ったから見に来ただけだよ」

「女の子? あら、もしかして私、お邪魔だったかしら?」


 私はアリエルに視線を向ける。


「違うよ、ノーラ。私はたまたまローランに会っただけ」

「アリエル、こいつは知り合いか? ん? 待てよ。……ノーラ……ああ、あの!」

「『あの』とは何ですの?」

「この前の列車ジャックのだよ。それのお転婆さんだろ?」

「お転婆って失礼ですわね」

「現に有名だしな」

「あらあら、有名なのは貴方でしょ? 商会の長男坊ローラン・マルコシアス」

「お前、俺のこと知ってるのか?」

「そりゃあ、イケメンで商会長男坊といえばね。あと入学早々たくさんの女性にお声をかけたこともお耳には入ってますよ?」

「ちょっ! 違うぞ。あれはほとんど向こうから寄ってきたようなもので」


 ローランは私ではなくアリエルに弁明する。


「ローランも大変なのね」


 アリエルは端的に返す。

 その反応にローランは肩を落とす。


「……まあな」

「ノーラはこの東屋の件どう思う?」

「ん? そうね。大きな爪痕みたいだから魔獣かしら?」

「この学院の領地に野良の魔獣が入ってくるかよ」

「なら、獣人かしら?」


 そう言って私はローランの反応を見る。


 ローランは険しい顔つきになり、何か思案している。


「列車といえば──」


 私は朝から気になってた事をローランに聞こうとした。


 けれどそこで邪魔が入った。


 パシャリ。


 一瞬眩い光が私達を襲う。


 経験のないアリエルは悲鳴を上げたが、私とローランは驚いて、光源の方へと振り向いただけだった。


 さすがは坊ちゃん。写真経験はおありのようで。


「おい! 何勝手に撮ってんだよ」


 ローランは苛立ちの声を出す。


「犯人かと思って」


 カメラで私達を撮ったのはジニー先輩だった。


「なんでだよ?」

「ほら、犯人は現場に戻ると言いますでしょ?」


 その返答に私達は苦笑する。


「なら、お前は犯人か?」

「いえいえ、私は一介のジャーナリストですよ」

「新聞部だろ」

「ジャーナリストです。で、グラバリー寮の目撃者にインタビューした帰りにここに寄っただけです」

「目撃者がいるのか?」

「いると言っても、夜中でしたし、窓からちらりと見た。というか戦闘の音を聞いた、ですね」

「で、犯人に繋がるものは?」

「残念ながら」


 ジニー先輩は両手の平を空に向ける。


「それで3人方は現場の裏手で何をしていたんですか?」

「私は何かないのかなと、裏に回って……そしたら後ろから」


 アリエルはローランを見る。


「そこで俺が危ないぞと声をかけたんだ。その後に」


 そしてローランは私を見る。


「私の登場ってわけね。自己紹介が終わった時にシャッターの光が」


 私はジニー先輩へ手を向ける。


「なるほど」

「写真は使うなよ。肖像権で訴えるぞ」


 この世界では勝手に写真を撮ることにはうるさい。


「ええ。でも、事件のためなら問題ないですよね」

「犯人じゃないからな!」

「マルコシアス商会長男坊、深夜の女子寮で痴話喧嘩。挙げ句の果てには東屋を破壊。面白いですね」


 ジニー先輩は満面の笑みで答えるが、ローランは額に青筋を立てる。


「んなわけねえだろ。痴話喧嘩で東屋を壊すかよ」

「ええっ!? そっちの方が断然面白いのに」

「出鱈目を書くなよ」

「新聞部は渇いた学生生活に潤いのあるエンターテイメントを与える義務が……」

「さっきジャーナリストって自称していたよな?」

「そうでした」

「とにかく書くなよ」


 そう言い残してローランは去っていく。


「どうしてでしょうか? 私、彼に嫌われてます?」


 ジニーは少ししょんぼりする。


「まあ、彼は商会の長男坊ですからね。メディア系には警戒しているのでしょう」

「それじゃあ、私もこれで」


 アリエルがその場を去る。


 私はというと、その場を去らずにジニー先輩へ近づく。


「あのう、ちょっとお聞きしたいのですけど、もしかしてまたテロがありました?」

「えっ!? 知ってるんですか?」

「いえ、噂で。で、本当なんですか?」


 噂というのは嘘である。

 もし私の推測通りなら、これは──。


「ええ。本当です。昨日、ナーヴェ峡谷で列車がテロリストに襲われたらしいです」


 ナーヴェ峡谷!

 私やアリエル達が前に乗った列車とは別のルート。


「もしかしてマルコシアス商会が被害に遭ったとか?」

「ええ、そうです。あっ! そうだった。彼にそのことを聞こうとしてたんだ」


 あっちゃあとジニー先輩は手のひらで額を打つ。


「怪我人とかは?」

「軽傷を合わせると十数名はいるかと」

「犯人の特徴とかは?」

「前と同じ皇帝派ですけど。今回は貨物を狙っての犯行らしいですね。どうしたんです。そんなに気にして?」

「いえ、前のテロで被害に遭ったから、つい警戒して……」


  ◯


『で、どうしたの? あんなに気にして? 何か心当たりがあるの?』


 帰り際、エリーが念話で尋ねてきた。


『ん? ないよ。それより早く帰りましょう。夕食に遅れたら大変』

『私は食べれないんだよねー』

『はいはい、戻れるようにちゃんと調べるから』


 部屋に戻ると、同居人のライザがいなかった。


(あれ? 先に帰ってると思ったんだけど。もしかして食堂に行った?)


 私は床にバッグを置いて、ベッドに座る。

 そしてライザのバッグが床に置いてあるのを見つけた。


(一旦、部屋に帰ってきてる。ということはやはり食堂?)


 そこでドアが開き、ライザが入ってきた。


「ただいま」

「おかえり。もしかして先に食堂に行ってた?」

「ううん。まだ行ってない」

「それじゃあ、どこかに行ってたの?」

「破壊された東屋を見に行ってた」

「え? 実は私も見に行ってたのよ」


 でも、あの現場にはライザの姿はいなかった。

 私より後に帰ってきたということは……あの後なのかな?


「知ってる。見た」

「え? あそこにいたの?」

「うん。人が多かったから隠れてた」

「多いって……私とアリエルとローランだけだよ」

「あと、新聞部もいた」


 そこまで人が苦手なの?

 まあ、新聞部はどこか迂闊なことを言ってはいけないと気が引き締まるよね。


「3人となんの話をしてたの?」

「東屋の件をちょっと。誰がどう破壊したのかなって」

「ローランは何か言ってた?」

「ローラン? 特に何も。どうしたの? ローランが気になるの?」

「……別に。食堂に行こう」


 ライザはそう言って部屋を出た。私はすぐに立って。その背を追う。


  ◯


 食堂では東屋の事件と同じく列車襲撃事件も話題であった。

 というのも──。


「2、3日早かったら杖が届かなかったよ」

「そうなるとオリエンテーリングも延期してたのかな?」

「いや、最悪延期ではなく中止になってたよ」


 という具合であったから。


 やっと杖が皆に行き届いて、実技の授業も始まったばかり。もし杖が届かなかったら実技だけでなくオリエンテーリングにも支障が出ていただろう。

 それゆえ食堂ではその話題でもちきりだった。誰もが杖の件で安堵していたと共に最近のテロについて憂慮していた。


「オリエンテーリングか。確かに危なかったよね」


 私が食堂内の会話を耳にして呟く。


「オリエンテーリング?」

「ほら、新入生が親睦も兼ねて1泊2日で行われてるやつよ」


 ライザは少し宙を見て考える。


「あったような。……うん。あった。今月末だったはず」

「それがテロと杖の件でびていたのよ。来月の中頃になったはずよ」

「……中頃」

「どうしたの? 難しい顔をして。何か予定でもあった?」

「別に」

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