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入学式と歓迎会

 今日は王立魔法学院アルビオンの入学式。

 そしてシリウスとアリエルの再会の日でもある。


 庭園内を迷ったアリエルは噴水広場でシリウスと再会するのだ。そして遅刻すると知るや急いで手を取り合って、入学式の会場へと向かうのだ。


 こんなイベントを逃すわけにはいかない──はずだった。


 恥ずかしながら私が迷いました。


 だって、広いんだもん、この学校。

 そりゃあ、ゲームをプレイ済みとはいえ乙女ゲーム。

 背景でしか知らないから校内については全く知らない。


 それに実際に校舎を見てみると城のように大きいのだからびっくり。


 まじで迷った。


 庭園にいるのは分かるのだが、シリウスとアリエルが出会う噴水広場が分からん。


 何よこの庭園。ガチで生垣で出来た迷路じゃん。


「どこだよー」

「何してるの?」


 不満を漏らすと声をかけられた。


「うおっ! ライザ!?」


 振り向くとライザがいた。


 気配消すの上手いな。


「びっくりした。ライザ、どうしたの? こんなところで?」

「いや、それはこっちのセリフ。入学式が始まるというのに全然来ないから探しにきたんだよ」

「ああ、ごめん。それより噴水広場ってどこか知らない?」

「噴水広場?」

「ほら女神様の像があって、その女神様が持つ壺から水が流れ出るやつ」


 私は女神ポーズやら持っている壺をジェスチャーをしてライザに教える。


「あれね。それならこっち」


 ライザがこっちだよと進んでいく。


「待って」


 私は後ろからライザの肩を掴む。


「何?」

「噴水広場には……ほら、男女がいたりするじゃん。邪魔しちゃあ、悪いよ」

「じゃあ、どうしたいのさ?」

「ちらっと噴水広場を見たいだけよ」

「分かった」


 顔にめんどくさなと感情を出しながらライザはゆっくりと庭園内を進んでいく。

 そしてライザが止まった。


「着いた。人がいる」

「えっ、どこ?」


 私は茂みの陰から噴水広場を覗き見ようとする。


「ねえ、何やってんの」

「静かに。2人にバレるでしょ?」

「誰がいるの?」

「誰ってそれは──」


 シリウスとアリエルのはずだった。

 ヘイジツ・ヒルナンレスとゼツディン・ディーティー・ボーケイだった。


「何やってんだ? あの2人?」


 なんか熱く手を取り合ってる。しかも2人とも笑っている。

 友情?

 そんなシーンはいらねえんだよ。


「あいつら邪魔なんだけど。ねえ、ライザ、あの2人どうにかしてくれない?」

「どうしろっていうの?」

「早く入学式に出席しろって注意してきて?」

「仕方ないな」


 ライザが2人のもとに向かう。

 急に現れた闖入者に2人は手を離して、気まずい顔をする。

 

 そんなことを知らずにライザはあれこれと2人と話す。そして会場の方角を指した。

 2人はライザに礼を言って、会場の方へとそそくさと向かった。


 いっそのこと嘘の方角を言えば良かったにと私は考えてしまった。


「これで良かった?」

「グッジョブ。さあ、2人を待ちましょう」

「誰を待つの?」

「シリウスとアリエルだよ」

「その2人ならとっくに出席してるよ」

「そうかそうか。…………ん? 出席してる? ホント?」

「うん。人だかりができていて、なんだろうと思ったらシリウスとアリエルだった」


 なぜ?

 ゲームではここで2人は再会するはずなのに?

 何か異変が起こってる?


「それよりそろそろ行かないと遅刻だよ」

「分かった。行こう」


 私は有名な一大シーンを諦めて入学式へと向かう。


  ◯


 入学式の会場となる体育館。そこにあるフロアにて新入生が集められていた。私はそこでアリエルと再会し、いくつか話をした。


 するとアリエルはシリウスとは昨日、再会したことを知った。

 なんでも新聞部のインタビューの後、偶然街で再会したとのこと。


 もしかしたら私が新聞部にインタビューを受けたことで、本来の予定がズレたためかもしれない。


 その後、入学式はつつがなく執り行われた。


 校長はテロのことを語り、そして生徒に普段からの危機への注意を促した。

 生徒会長のキャサリン先輩も壇上で新入生へ祝辞を述べた。


  ◯


 入学式の後、学院内にあるホールにて新入生の歓迎会が執り行われた。


 テーブルの上にはケーキやパン、お菓子の載った皿。そして取り皿とフォーク。


 歓迎会といっても、実質は新入生同士の顔合わせみたいな社交場。

 各々はジュースの入ったシャンパングラスを持って、話し相手を見つけては話しかけている。


 中でも1番人気がシリウス。男女問わずに話しかけられている。

 次に人数が多いのが浮き名の多いローラン。こちらはもっぱら女性に。


 あといくつか人の多いグループがある。


(向こうはなんだろう? 中心が見えないな)


 そんな私は1人でシャンパングラスの中身をちびちびと飲んでいる。中身はオレンジジュース……いや、パインにマスカットも少し入っているな。


 ううん? まあ、つまりジュースだ。オレンジがメインのミックスジュースだろう。


 さて誰かに話しかけるのかというと、コミュ障の私には無理。


 知らない人に話しかけるのは苦手。


 ライザを探すも、なぜかあの子は行方知れず。


 情けなくちびちびとジュースを飲んでいると人にぶつかった。


「すまねえ」

「いえ」


 まさかそういうていを使った口説きかと相手を見た。


「ブルー・コルデアス!?」


 攻略キャラの1人で名前はブルー・コルデアス。


 青の短髪イケメン。だが、近衛団長カールス・コルデアスを父に持ち、自身もそんな父の背を見て近衛兵を目指す真面目な次男坊。ただ兄である長男坊が優秀なため、ブルーは引け目を感じている。魔法学院に入ったのも兄にはない魔法技術を習得するため。


「ん? どこか会ったか?」

「いえ」

「ならなんで俺の名前を知ってんだよ」

「……有名だからですよ」

「は? なんで──」


 ブルーが何かを言いかけたが、ブルーの右腕に抱きつく女性によって言葉は遮られた。


「ちょっと、ブルー、逃げないでよ」


 ブルーの右腕に抱きついた女性が文句を言う。


「もう勘弁しろよ」

「いいじゃない。もう少し付き合い……誰?」


 女性が目を細くして私に視線を向ける。


「どうも私はノーラ・サルコスと言います」

「ふうん」


 女性は私を上から下まで値踏みする。

 向こうは名乗る気はないようだ。


(ま、名前は知ってるんだけどね)


 彼女はサラス・マントニー。ブルーの幼馴染みで、ブルーに恋する赤髪の乙女。それゆえブルー攻略ではライバルとなって立ちはだかる。


「お前も名乗れよ」

「サラスよ。よろしくね」

「ええ」

「じゃあ、ブルーこっち」

「あっ、おい」


 ブルーはサラスに引っ張られて、あるグループの一団へと誘い込まれる。


 また独りになった私。

 何かパンでも食べようかなと人の少ないテーブルへ近づく。

 右手にトング、左手に小皿を掴んで、ケーキを物色。


(まずはチョコからいこうかしら)


 私はトングでチョコを取る。そして皿に載せてフォークで上品に食べる。

 ケーキはミニサイズで指で取って食べれるサイズだが、ここでそのようなことをしてはいけない。

 一応、作法は学んでいる。

 チョコは舌の上で甘さと苦さがほどよく溶けて美味であった。


「美味しそうだね」


 声の方に向くとライザがいた。


「貴女、どこにいたの?」

「質問攻めされてた」


 どこかお疲れ気味のようだ。


「逃げたくても囲まれてしまって」


 なるほど囲まれていたから見つからなかったのか。


「疲れた」


 まあ、少年のような可愛らしい見た目だもんね。可愛いものが好きな女子は放ってはおけないだろう。


 ライザはチョコケーキを指で取ろうとした。


「ダメよ。トングで取らないと」

「え? マナー違反よ」

「ん。分かった」


 ライザはトングで取り皿にチョコケーキ、チーズケーキ、ショートケーキ、モンブランを載せていく。


「取りすぎよ」

「つい美味しそうだから」

「あと、フォークで食べること」

「うん」


  ◯


 ふと空気が変わったことに気づいた。

 最初に気づいたのはライザだった。

 ライザの視線の先を見るとシリウスとアリエルだった。


(イベントだ)


 2人は談笑を始め、周囲は気にかけてはない体を見せているが、耳は2人の会話に集中している。


 そこへローランがやってきて、2人を揶揄し始める。


 ちょっと悪目立ちを始めるとそれをいさめようとブルーがやってくる。


 そのブルーとローランが睨み合うと副生徒会長のキースがやってきて2人を叱る。


「眼福だね」

「え? どこが? 喧嘩してたじゃん」

「あれは喧嘩でなくて挨拶よ」

「……はあ?」


 ライザは小首を傾げる。

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