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インタビュー

 翌朝、ライザに案内してもらって私は寮の食堂に向かって、朝食のトレイを持って移動していると、「1年生はこっちだよ」と声をかけられた。


「あっ!?」

「やあ」


 声をかけてきた人は新聞部のジニー先輩だった。ジニー先輩はにんまりと笑っている。


「どうも」


 私とライザは食堂左奥の席に座る。

 ジニー先輩は私の対面に。


「別に誰がどの席を使うかは決まってないんだけど、暗黙の了解ってやつで、1年が左側で、2年が真ん中、そして3年が右って決まりなのよね」

「……何か御用で?」

「いやあ、まさか君がノーラ・サルコスだとはね。昨日、君の部屋を訪ねたんだよ」

「名乗ろうとはしたんです」

「うん。わかってる。あの時は私の判断ミスだ。あ、気にせずに食べて」

「で、どのような御用件で?」


 私はもう一度聞いた。


「テロの件なんだけどさ、インタビューさせてくれない?」


 やはりインタビューか。


「私なんかよりご活躍したシリウスやアリエス、それと人質になったキャサリン生徒会長はにインタビューした方がよいのでは?」

「もちろん、3人方ともインタビューするよ。生徒会長とシリウス君の方には別の人がインタビューする約束を手に入れたわ」

「早いですね」


 テロは昨日の出来事なのに。


「それが新聞部よ」


 ジニー先輩が誇らしげに言う。


「で、どう? インタビュー受けてくれない?」


 ジニー先輩が両手を合わせて頼み込んでくる。

 正直面倒だが、のちの生活のため引き受けたほうが良いかもね。

 エリーの件もあるし、情報をたくさん持ってる人と仲良くなったほうが良いだろう。


「……まあ、少しなら」

「ありがと。それじゃあ、朝食を食べたら向こうの東屋に来て」


 ジニーは先輩は東屋のある方角を指す。


「分かりました」

「よろしくね」


 そう言ってジニー先輩は手を振って食堂を出る。


「ご馳走様」


 なんといつの間にかライザが朝食を食べ終えていた。


「もう食べたの?」


 私なんて全然だよ。スープを飲むとぬるくなっていた。


「それじゃあ、僕はこれで」

「えっ?」

「ノーラは新聞部のインタンビューがあるんでしょ?」


 僕は関係ないからと空の食器を載せたトレイを持って、食器返却口に向かう。


(昨日、約束したしね)


 人付き合いや協調性が苦手と言っていた。


(仕方ないか)


  ◯


 東屋は寮の隣にある庭の中にあり、一つ二つではなく、いくつもあった。


(というか庭広っ!)


 どれがジニー先輩の指定した東屋なのかと探しまわると、ある東屋からジニー先輩が手を招きしてながら、呼びかけてきた。


「すみません、遅れました」

「全然。さ、座って」


 私は向かい側に座った。


 東屋にはジニー先輩の他にもう1人──昨日いた背の低い殿方がいた。


「庭、広いでしょ」

「はい。庭というか整った茂みしかない森ですね」

「茂みしかない森。その表現いいね」


 ジニー先輩が八重歯を見せて笑う。


「ジニー、そろそろ」

「そうね。あっ、この人はイーサン、新聞で2年」

「雑な紹介だな」

「だったら自分で自己紹介すれば」


 イーサン先輩は溜め息をつく。


 そして私へと自己紹介を始める。


「2年のイーサン・コーソン。新聞部だ」

「……それだけ? それだと私の紹介とかぶるよ」

「実家はここから南にある港町ベネットの隣町ガヴァンケント……これいらねえだろ?」

「アハハ、それじゃあ、次は君の番だよ」

「私ですか?」

「そう。名前と出身を教えて」

「1年のノーラ・サルコス。出身はミーティアで父が地元神社の神主をやってます」

「なるほど」


 ジニー先輩は相槌を打ちつつ、ノートに書き記す。


「お父さんが神主ならお母さんは巫女?」

「元巫女です。今は社務所で働いています」

「ノーラは巫女経験あり?」

「ええ。あります」

「魔法の強さもお家柄?」

「……強くありませんよ」

「本当?」

「はい。昨日のテロはシリウスとアリエルのお陰ですよ。私なんて補佐したくらいで、全く活躍しておりませんよ」

「ほー」


 それはどういう反応なのか。


「シリウスは剣術がすごくて、アリエルは光魔法を詠唱で使える人ですよ」

「光魔法は本当なんだな?」


 イーサンが私に確認の質問をする。


「ええ」

「テロリスト達は皇帝復権派というのも本当か?」

「本当です」


 私は強く頷く。


 かつてこの国は皇帝が支配していたが、私が生まれた頃に皇帝が近衛軍に倒されたことで皇帝政治は無くなり、君主制が復活した。


 だが、今でも皇帝復権派が暗躍していて、列車テロも皇帝派の残党によるものだった。


「皇帝派の残党も諦めが悪いよね」


 ジニー先輩が肩をすくめる。


「そうですね。あれだとますます皇帝派のイメージが悪くなるだけですよね」

「あいつらはイメージなんてどうでもいいんだよ」


 イーサン先輩が吐き捨てるように言った。


「皇帝政治なんて言ってるけど、軍による恐怖政治だ」

「ごめんね。イーサンはガヴァンケント出身だから」

「あ、確か……」

「色々あったんだよ」


 イーサンは険しい顔をして明後日の方を向く。


 皇帝が近衛軍に倒された後、生き残った皇帝派の一部が港町ベネットを支配した。


 その後、国は港町ベネット解放のため新政府軍を動かして、大きな衝突が生まれた。その時、隣町のカヴォンケントが被害に遭ったと聞く。


「それで皇帝派の残党は何か言ってた?」

「特に何も。きっと身代金と力の誇示のためにテロを起こしたんでしょうね」

「迷惑な奴らね。ええと、リーダーを倒したのはシリウスなのよね?」

「ええ」

「話だと殴られて気絶していたらしいけど?」

「違いますよ。テロのリーダーは最後の悪あがきで列車を暴走させたんですよ。その時に破魔石で周囲を大きく爆破させたから、その衝撃で気絶したんですよ」

「なるほど」


 ジニー先輩はノートにパンを走らす。


「シリウスは辺境のガブリエラ家という貴族の出らしいけど知ってる?」

「いいえ」


 嘘です。ゲームプレイ済みなので実はシリウスが王家の者で、身分を隠していると知っています。


「あれはたぶんもっと爵位のある出だと思うのよね」

「まあ、カッコいいですからね。そういえばヘイジツやらゼツディン、マージーといった人もあのテロで活躍……頑張ってましたよ」


 私は話題をシリウスからヘイジツ達へと変える。


「それはいいの」

「えっ?」

「実は彼らの親達から記事にはするなと言われているのよ」

「正確には新聞社で学校の新聞部は言われていないがな」

「でも、書いたらきっと面倒なことになるわよ」

「あの、どうして記事にはするなと?」

「ヒルナンレスやマンジィー家はそこそこ地位のある貴族だからね。皇帝派に逆恨みされて狙われるのが嫌なんでしょう」

「なるほど」


 皇帝派は表舞台からは消えたが、裏ではまだ暗躍していて、時折、国王や周辺貴族に攻撃を行っている。

 シリウスが辺境の貴族出という理由もそこにある。


  ◯


 東屋でのインタビューが終わって、部屋に戻るとライザの姿はなかった。


「あれ? どこかに行ったのかな?」


 部屋で1人の私は昨日買ったものを整理をすることに。

 そしてその中に黒い箱があり、私は手を止めた。


 と、言うのも夢について思い出したから。

 私は黒い箱の蓋を開けて、中の杖を取り出す。


「あれは……やっぱり夢? おーい、起きてる?」


 返事がなかったので、やはりあれは夢かと思っていたら、頭の中に杖からの返事が届いた。


『聞こえてるわよ。てか、念話とか出来ないわけ?』

「まじか? 夢じゃなかったの?」

『そう、本当のことよ』

「念話って、どうすればいいの?」

『杖にコネクト……魔力を注ごうとする感じ。初めは私がキャッチするから』

「オッケー。やってみるね」


 私は魔力をほんの少し注ぐようにして杖に繋がりを求める。


『それで頭から話してごらん』

『こんな感じ?』

『そうそう。で、私に何か聞きたいことあるの?』

『特に……ライザがどこ行ったか知ってる?』


 箱の中にいたから知らないかなと半分諦めていたらエリーから思わぬ答えが返ってきた。


『1人で帰ってきた後、呼び出されて外に出たわよ』

『え? 見てたの?』

『見えないわよ。聞こえたのよ。聞くくらいならなんとかなるわよ』

『誰に呼び出されたの?』

『知らない』


 寮で仲良くなった子かな?

 誰だろう?


 ……いやいや、ライザとは昨日今日知り合ったばかりだもん。深く考えるのもおかしいよね。


『で、私を元に戻す方法分かった?』

『あのね、飯食べに行っただけで分かるわけないでしょ?』

『それにしては遅いじゃない』

『新聞部にインタビューを受けてたの』

『新聞部! 情報屋ね。何か知ってるかもしれないわよ!』

『ないないない。あれはゴシップ。魔法関係なら図書館とかに行かないとね。もしくは教授とか博士に聞くとか』

『なら図書館へ行きましょう』

『無理よ。今は閉館中よ』


 今は春休み中だから開いてないはず。


『本当に? 開いてるかもしれないわよ?』

『ないない』

『確かめに行きましょう!』


 学校はお隣だから、そう遠くはない。


『どうせやることないんでしょ?』

『まあ、ないけどね』

『ならレッツゴーよ』

『仕方ない。その代わり開いてなかったから今日は諦めるのよ。無理に潜入とか言ったら怒るからね』

『オッケー、オッケー』


 ずいぶん軽い返事だな。

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