表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/19

学生寮と杖②

 私とライザはあの後、インクやペン、多少の生活用品を買ってから寮へと帰宅した。


「疲れた」


 私は買った物を机の上に置いて、ベッドにダイブした。

 テロ騒動もあったため、脚はパンパン。


「ノーラ、そろそろ夕飯だけどどうする?」

「あー、ここって食堂なんだっけ?」

「うん。でも、パンやサンドウィッチくらいなら部屋でも東屋でも食べれるよ」

「ならサンドウィッチにでもしましょうか」


 私は疲れた体を動かす。


(ううっ、しんどい)


「僕が取りに行こうか?」

「そんな悪いよ」


 買い物にも付き合ってもらったのに、サンドウィッチを取りに行ってもらうなんて。


「気にしないで。これは僕のためでもある」

「どういうこと?」

「新聞部さ。きっと食堂で待ち伏せしているよ」

「うえっ。それはきつい」


 今はインタビューを受ける気力もない。


「だから、僕が行ってくるよ」

「ありがとう。恩に着るよ」


  ◯


「ノーラ、ノーラ」

「……ん? あっ、ごめん、寝てた」

「はい、サンドウィッチ」


 ライザが紙袋を私の顔の前に差し向ける。


「ありがと」


 私は上半身を起き上がらせ紙袋を受け取る。


 ライザはテーブルを二つのベッドを間に置く。

 私はベッドを椅子代わりにして紙袋からBLTサンドを取り出す。


 ライザも向かいのベッドに座り、BLTサンドを食べ始める。


「新聞部はいた?」

「うん、いた。ジニー先輩に会った」

「あー、ごめんね。何か聞かれた?」

「ノーラはどこだって。買い物に行ってまだ帰ってないって答えた。飯も外で食べてくるらしいと伝えておいたよ」

「何から何までありがとうね。助かるよ」

「いい。ただ、お願いがある」


 おや? 頼み事とな。

 今までのはその頼み事のためにしてくれていたのかな?


「なあに?」

「実は僕、少し普通じゃないの」

「普通……ではない?」


 普通のボーイッシュな僕っ娘だけど。

 それとも僕っ娘というのが、この世界では普通ではない?


「僕ね、協調性がないの。大浴場は苦手だし、大勢での行動も苦手」

「人が嫌いなの?」

「嫌いではないけどちょっと苦手。だから先に謝っておく」

「別に謝ることではないよ。私も陰キャだし」


 前世は腐女子で、どちらかというと陰キャ。

 友達も多い方ではなかった。


「インキャ?」

「初対面の人が苦手というか……自分から相手に話しかけるのが苦手みたいな」

「そう。同じ。でも、僕とは違う」

「違う?」


 ライザは強く頷く。


「とにかく……違う」

「そ、そう」


 その後、私達はBLTサンドをもくもくと食べる。


  ◯


 食事の後、ライザは大浴場が苦手ということで室内のシャワールームを使った。


「ノーラはどうするの? 大浴場?」

「私も部屋のシャワールームでいいや」


 部屋を出る体力がない。できればシャワーも浴びたくない。しかし、今日はテロやろ動き回ったりしたから匂いが気になる。

 私はバスタオルと寝巻き、シャンプーボトル、石鹸を持って、脱衣所に向かう。


 脱衣所で服を脱ぎ、シャワールームへ。


 室内に設備されたシャワールームはバスタブもない一畳ほどの狭い空間。


 シャワーは魔力による温水調整型。破魔石に魔力を注ぎ、ノズルを回すと温水がシャワーヘッドから出る。


 私は頭からシャワーを浴びる。


「ふう」


 一息つくと肩の力が抜けていく。

 明日は休みで、明後日は入学式。


「……学校生活か」


 上手くいけるかな?

 このゲームのストーリーを知っているとはいえ、人付き合いはちょっと萎縮しちゃうな。

 メインキャラは皆、イケメンだし。

 てか、私、死亡フラグを回避しないといけないのよね。


 シャンプーで髪を石鹸で体を洗う。途中、湯がぬるくなったので破魔石に魔力を注いで温めた。


 シャワーの後、私は脱衣所で体を拭き、寝巻きに着替える。


 魔法で髪を乾かし、寝室兼リビングに戻る。


「ちょっと早いけど、私もう寝るね」

「うん。私も寝る」

「それじゃあ、ランプ消すね」


 光の破魔石を利用したランプを消して、私達は就寝する。


  ◯


 暗闇の奥、光の玉が現れた。


 それはゆっくりと近づき、強く瞬くと羽を生やした小人──妖精が現れた。

 黄色の羽にレオタード風の赤色の衣装、左耳に涙型のイヤリングをした金髪の妖精。


「私は杖よ!」


(変わった名前だ)


「名前じゃなくて! あんたが今日買った杖よ!」


(私の声が聞こえる?)


「そりゃあ、あんたの夢の中だからね」


(ああ! ここは私の夢か)


「どこだと思ってたのよ」


(じゃあ、喋らなくてもいいわけだ)


「喋りなさいよ!」


 妖精が腰に手を当ててプリプリ怒る。


(でも、夢でしょ?)


「思考を汲み取るのが面倒なの?」


 そう言って妖精は地団駄をする。


「分かった。話す」


 とは言ったものの、喋るというのがよくわからない。


 私の本当の体は寝ているんだし、ここにあるのは夢の中の実在しない体。

 その体を使うというのは違和感がある。


(喋ったら現実では寝言を言わないかな?)


「言わないわよ!」

「わかったからそう怒らないで。それで貴女は……ええと、杖が妖精に具現化したってこと?」

「違う。私は妖精だったの。訳あって杖にさせられたのよ」

「悪いことしたんだ」

「違うわよ!」

「そんなにプリプリしないでよ」

「こちとら、月日も忘れるくらい杖にさせられて、やっと話がわかる奴がきたと思ったらこんなのほほんとした奴なんだから! 何十年? いえ、百何年待って……」


 妖精は失望したように頭を抱える。


「失礼ね。こっちは疲れてご就寝中だったのよ。で、貴女の名前は?」

「エリザベート・マーキュライト・リュー・エーデルライト・ザルバートル・アンヌカルトル・ド・メサイア……」

「待って、長い、長い」


 人間の王族だって、そんな長い名前はないよ。しかもまだ続きそうだし。


「だって本名だもん。エリザベートが名前でマーキュライトが家名、リューが長女の意味、エーデルライトが出身の森、ザルバートルが階級でアンヌカルトルが師匠の名前、それで……」

「もういいから。意味が知りたいわけではないから。名前と姓だけで十分」


 てか、階級なんてあるのか。


「何よ」

「ええと、それじゃあ、エリザベートだから……エリーでいいわね」

「仕方ないわ。それでいい」

「それでエリーは私に何か伝えたいことがあったのでしょ?」

「おや? のほほんとしたわりには物分かりがいいのね」

「次にのほほんした奴とか言ったら杖をへし折るゾ」

「へし折って困るのはあんたでしょ?」

「新しい杖がきたら折るわよ」


 ミルーナ魔法店で一応予約したからね。


「……分かった。言葉を改めるわ。私はあんたより大人なんだから」


 なんか急に大人マウントを取り始めたぞこの妖精。


「ありがとう。お婆ちゃま」

「あん?」

「それで私に何の用なの?」

「簡単よ。私、元に戻してくれない?」

「どうやったら元に戻るの?」

「知らないわ」

「…………」

「知らないから何とかして」

「むちゃぶりかよ」

「仕方ないでしょ。私だって分かんないんだから!」

「原因は何なの? それさえ分かれば多少は解決のヒントにはなるんじゃない?」

「…………」

「どうしたの? まさか悪いことして?」


 封印系か? もしかしてこいつ悪い奴?


「違う。妖精狩りをしている悪い魔女から、身を隠す術を使ったら戻れなくなったの」

「戻り方を忘れたってことね」


 呆れた。それで何十年かもしくは百何年も杖になっているなんて。


「お願いよ。元に戻るのに手を貸してよ。ね? ね?」

「……仕方ない。暇な時に解決手段を見つけてあげるわ」

「ありがとう。助かるわ」


 嬉しさで妖精がくるくると回り始める。


「もしかして、その悪い魔女ってもしかしてあの店主のお婆さん?」

「それは違うわ。私を襲ってきた魔女をもっと醜悪で強い力を持ってたわ」

「なら、あのお婆さんに助けももらえばよかったんじゃない?」

「それが……声が届かないのよ。あんたが初めてなのよ。声が届いたの」

「なぜ私が?」

「さあ? あんた、普通ではないよね?」

「まあ、ちょっとね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ