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チュートリアル②

 シリウスは鞘から剣を抜き、テロリストのリーダーであるゲルに向けて駆ける。


 そして上から縦一線に剣を振る。


 しかし、それを敵のゲルは片手で持った剣で悠々と防ぐ。


「軽い! 軽いぞ!」

「クッ!」


 シリウスは何度も剣を振るうが、ゲルはその全てを簡単に防ぐ。


 なぜ敵は強くなったのかというと、それは戦闘前に握り潰した赤い玉が理由である。


 あの赤い玉は魔法のアイテムで、使用者に加護を与えるもので、赤い玉は筋肉増加の魔法アイテムということ。


 まあ、見てたら分かるよね。


 ゲームではナレーションが入って、こちらも魔法のアイテムを使おうとか弱体魔法を使用して敵を弱らせようとか出るんだけど。ここではナレーションなんてものはなかった。


(仕方ない)


「アリエル! 魔法のアイテムを持ってない? あいつ、魔法のアイテムで強化しているんだよ。もしくは弱体魔法で相手を弱らせよう」

「分かった。魔法のアイテムだね」

「ん?」


 アリエルは魔法のアイテムをポケットから取り出して、それをシリウスに投げる。


「シリウス! 使って!」

「ああ!」

「え、まって、なんでアリエル、魔法のアイテムなんか持ってるの?」

「さっきの宝箱に魔法のアイテムがあったから、もしかしてのために」


 アリエルはいたずらっ子のように舌を出す。


(おいおい)


 シリウスは緑色の玉を壊す。

 するとシリウスの体から緑色のオーラが発せられる。


「これは何の効果なんだ?」

「ノーラ、分かる?」

「……状態異常無効」


 今は不要の産物。


「ええ! どうしよう?」

「弱体魔法だよ。それであいつを弱らせよう」


 アリエルは光魔法でゲルを弱らせようとする。


「小娘が!」


 ゲルは闇魔法の魔弾たまでアリエルの邪魔をしようとする。


「きゃあっ!」


 魔弾がアリエルの肩に当たる。


「貴様!」

「魔法はやらせねえぞ」


 ゲルは魔弾をアリエルに向けて何発も放つ。それをシリウスが剣で防ぐ。


「シリウス、アリエルのガードは私に任せて、あんたはあいつを攻撃して」

「了解」


 私は魔法でシールドを発生させ魔弾を防ぐ。


 シリウスは剣で斬りかかり、アリエルは魔法を詠唱──ん? 詠唱?


 アリエルは杖があるのにわざわざ詠唱している。

 この世界には杖や魔導具などによる魔法と詠唱による魔法の2つがある。


 2つの違いはスピード。


 杖や魔導具は詠唱がいらないため魔法をすぐに発動できる。

 それゆえほとんどの魔法使いは杖を使う。


 だが、詠唱魔法は魔力をたくさん込めれるため威力が高い。


「……光よ! 彼のものに祝福を! リュミエール・カーテン」


 光のカーテンがシリウスを包むとすっと消えた。


「すごいよ。力がみなぎる」

「はっ! なんだ、弱体魔法ではないのか。それで俺を倒せると思ってるのか!」


 ゲルは嘲笑い、シリウスに向けて力一杯に剣を振るう。


 ガンッ!


 なんとバフで強くなったゲルの一撃をシリウスは剣で受け止めたのだ。


「な、なに!」


 そしてシリウスはゲルの剣を跳ね返した。


「くぅ!」

「でやぁ!」


 シリウスの袈裟斬りがゲルの剣を割り、ゲルを斬った。

 さらにシリウスは回し蹴りでゲルを機関室まで吹き飛ばした。


「すごいじゃん」


 私はシリウスに駆け寄り、肩を叩く。


「いや、これはアリエルの魔法のおかげだよ。ありがとう、アリエル」

「私は魔法使っただけです。敵を倒したシリウスの力とシールドでガードしてくれたノーラのおかげです」

「謙遜しなくていいよ。あの魔法すごかったよ。杖でなく詠唱だもん」

「敵を倒すには杖による魔法では足りないと思って」


 そこでアリエルは少しふらつく。


「大丈夫?」

「ちょっと多く魔力を使ったから。少し休めば元通りです」

「無茶しちゃあ駄目よ」

「ねえ、それより、早く縄をほどいてくれないかしら? 私も心配してちょうだい」


 人質のキャサリン生徒会長が私達に向けて文句を言う。


「あ、すみません」


(やべ、忘れてたわ)


 シリウスがすぐにキャサリンのもとへ駆け寄って縄を解く。


「ありがとう。さて、あとは機関室に行って、暴走列車を停めましょう」


 私達が機関室に近づくと先程吹き飛ばしたゲルがボロボロの姿で立ち上がった。


「えっ!? まだ生きてる」

「殺してはないよ。でも、まだ動けるのか?」


 シリウスが剣を構える。

 けれどゲルの方はもう立つのが精一杯のようだ。


「もう立つのも辛いんだろ? 降参したらどうだい?」


 というかゲームではこんな展開はなかった。

 ゲームではゲルを倒して戦闘チュートリアルはクリアのはず。


「まだ終わっちゃあいねぇ」


 ゲルは右手に握る赤い鉱石を私達に見せる。


「これが何か分かるか?」

「破魔石か」

「正解だ」


 この世界には魔力が宿った魔石がある。そしてその魔石を加工したものを破魔石と呼ばれる。破魔石は攻撃だけでなく、色々な用途で使われている。例えば、この列車も石炭でなく火と風、水の破魔石の力で動いている。


「それで俺達を倒すと?」

「いいや」


 そしてゲルはニヤリと笑う。


「こいつまさか!?」


 キャサリン生徒会長が気付いたようだ。


「早くこいつを──」


 止めろと言う前にゲルは背後へ振り返り、破魔石を機関室へ投げた。


 すると破魔石は爆発し、さらに機関室の破魔石を誘爆さて、機関室は大爆発した。

 爆風と爆炎が私達を後ろへと吹き飛ばす。


「み、皆、大丈夫か?」


 シリウスが起き上がり、私達に問う。


「ええ。大丈夫」

「私も」


 キャサリン生徒会長が頭に右手を当てながら立ち上がる。


「アリエル?」

「だ、大丈夫です」


 アリエルはなんとか立ち上がる。でも、ふらふらでキャサリン生徒会長が肩を貸す。


「ありがとうございます」

「いいってことよ。それより」

「はい。これでは……」


 シリウスが機関室側を見て渋い顔をする。


 機関室は吹き飛び、跡形もない。

 というか私達のいる先頭車両の半分も吹き飛んでいて、開いた前方には外の景色が伺える。


 ゲルの姿もない。きっと爆発で吹っ飛んだのだろう。

 そして列車は機関室もないのにまだ高速で走っている。


「これ、どうやって停めるの?」


 私は誰ともなしに聞いた。


「まあ、敵も倒したし、お国が何かしてくれるかな?」


 そして自分で空笑いして答える。


(誰か何か言ってよ!)


「でも、間に合うかしら」

「えっ? どういうことです? 生徒会長?」

「このままだとキアヌ海岸沿いを進んでしまうわ」

「それが何か?」

「あそこは崖が多いのよ。それにカーブしているし」

「つまり……このまま進むと崖へダイブ?」

「そうよ」


 キャサリン生徒会長は溜め息をつく。


「ど、ど、どうするんですか?」

「確か緊急時のブレーキがあったはずよ」

「どこにですか?」

「4両目と最後尾の車両だったはず」

「それで止まるんですよね?」


 キャサリン生徒会長は残念そうに首を横に振る。


「あくまで減速ね。すぐには止まらない。ま、崖の前には間に合うかもね」

「なら早く行きましょう。シリウスとアリエル、生徒会長はブレーキを」

「ん? 貴女は?」

「私は風魔法を使って逆噴射で少しは減速させます」

「それなら私も」

「生徒会長、杖持っていないでしょ?」

「なら、私も」

「アリエルは魔力切れでしょ?」

「あ、はい。……そうでした」


 アリエルは申し訳ない顔をする。


「それなら杖がなくても私なら詠唱で風魔法を……」


 キャサリン生徒会長がアリエルの代わりをと名乗り出る。


「ブレーキのことを知ってるのは生徒会長だけなので、生徒会長はそちらに」

「そうね」

「ということで、ここは私に任せてください。こう見えて魔力は一杯あるんですよ」

「分かった。無茶はしないでね」


 話し合いの結果、私を残して皆は後続車両に向い始める。


「さーて。やりますか」


 私は彼らとは反対方向へ。袖から高価な杖を取り出す。


「あれ? 今、私の杖……気のせい……かしら?」


 後ろからそんなキャサリン生徒会長の声が聞こえた。


(この杖、キャサリン生徒会長のか。壊したらごめんなさいね)


 私は大きく息を吸い、そして吐く。


(よし! やるか!)


 魔力解放してオーラを纏う。


 私はアニメオリジナルキャラクター。そして1期と2期を繋ぐオリジナルストーリーのメインキャラ。


 そのメインキャラの私には強い力がある。それは代々受け継がれた水龍の力。


 オリジナルストーリーではこの水龍の力が暴走して大変なことになる。それを抑えるためにあれやこれやとのちょっとした冒険譚が生まれる。


 おっと、長く説明してしまった。


 私は水龍の力で風の魔法を放つ。トルネードが杖の先から生まれ、前方に伸びる。


「…………あれ? これ意味ある?」


 相手を吹き飛ばす魔法。

 当てるべきものがないなら意味がないような。


「ううん? 前方のレールに向けて放つべきかな」


 私は前方斜め下に向けて風魔法を放つ。

 トルネードがレールに当たる。


「おっ、いい感……痛っ!」


 押し切れない風は私を上へと飛ばす。そして天井に頭を当ててしまった。


「私を固定しての風魔法か。いや、もう少し前方をそれと巨大なトルネードなら……」


 私の手からではなく、周囲から発生するトルネードならばいけるのではないか。

 私は杖をしっかり構え、私の魔力を杖に流し込む。


(さすが生徒会長の杖。これだけ魔力を流しても軋むことないようだ)


「テンペスト!」


 私は風魔法を名を唱える。


 本来は自身を中心に巻き起こる大型トルネード。それを私は前方斜め下に向けて放つ。

 私を──いや、列車を巻き込む形でトルネードが発生。


 ガガガッ。


「おっ! いい感じ!」


 車輪が悲鳴を上げる。

 どうやらちゃんと減速できているようだ。

 そして先頭車両はボロボロと巨大トルネードで削られて、天井や壁、床が落ちていく。


「やばっ!」


 少しずつ後退しながら巨大トルネードで地面を押す。

 そしてある事実に気づき、私は風魔法を止める。


 それはレールを風魔法で歪ましていたということ。さっきの揺れは減速でなく、歪んだレールによるものだった。これって、列車を後ろ向きで押し返しているんでなくて、ただレールを壊しているだけでは。


(ううむ。どうやって押し返すのか……そうか!)


 押し返すのでなくて、()()()いいんだ。


 私は先頭車両と貨物車両を風魔法のカマイタチで切り離す。

 そして私は先頭車両から貨物車両に向けて風魔法テンペストで押す。

 貨物車両は弾けて、天井や壁が壊れる。荷物も外へ吹き飛んでいく。


(ごめんね、皆。これも命のため!)


 そして先頭車両だけが速く進み、貨物車両はゆっくり後退していく。


 私は風魔法で空を飛び、貨物車両へと飛び移る。着地すると声をかけられた。


「お前、何者だ?」


 消えたはずのゲルが貨物車両の壊れた天井穴から現れたのだ。


「はあ? なんでいるのよ?」

「吹き飛ばされて、屋根にしがみついていたのさ。まさかこんな方法で停めようとは。だが、それは認めん!」


 ゲルがふところからナイフを取り出す。


「新1年生のくせに何だその魔法は? 魔力量も魔法も3年生、いや、魔法省の役人クラスだぞ」

「乙女の秘密です」

「この化け物が!」


 ゲルは刃物を握りしめて、私へ突っ込んでくる。

 それを私は目にも止まらぬ速さで間合いを詰めて、渾身の一撃で相手の顔を殴り飛ばす。


「うぉらぁ!」

「グハァッ!」


 魔力解放し、オーラを纏っている私はパワーが増幅している。

 その力はクマをも簡単に吹き飛ばすほど。

 水龍パワーぱねえ。


 さて、風魔法再開。

 私はもう一度、風魔法「テンペスト」を唱えるが、杖が折れてしまった。


「うっそー!」


 そこでシリウスが戻ってきた。


「どうしたの?」

「ブレーキを作動したこと伝えに。それよりさっきものすごい音が聞こえたけど」

「たぶんそれはこいつ。いきなり降ってきたのよ」


 本当は私に顔を殴られて気絶しているゲルを指す。


「……ゲル、だよな?」

「それ以外に何に見えるのさ」

「いや、顔の原型が……」


 うん。めっちゃ凹んでる。


「爆発で顔がおかしくなったのよ」

「殴られたのようにも見えるが」

「気のせいよ。それよりブレーキを作動したのならもう大丈夫なの?」

「生徒会長もこのスピードなら問題ないと言ってる」

「なら後ろの車両へ行きましょうか」


  ◯


 あの後、列車はカーブを曲がる前に停まった。それからすぐ騎士団がやってきて、私達は保護された。縄で締められたテロリストは騎士団によって連行される。


 私達も疲れたので帰りたかったがテロリストと戦ったことで取り調べを受けることになった。

 取り調べが終わり、無事だった荷物が返された。


「あれ? 私の杖がないのだけど?」


 キャサリン生徒会長は杖がないことを兵に問う。


(やばっ!)


「たぶん吹き飛ばされたのでしょう。大半の荷物が飛ばされたらしいです」


 兵が残念そうに言う。


「あれ高かったのに!」

(ごめんなさい)


 解放された私達と人質となった学生達は王立魔法学院アルビオンへ馬車で移動した。


 ゲームだとマップで選択するだけで移動できたけど、ここは実在するゲーム世界で選択で瞬間移動は出来ない。


 ちなみに馬車代はお国が負担してくれるのでタダ。

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