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戦闘

『シリウスが来たわよ! 皇帝派のやつが鍵を開けようとこっちに来た!』

「しゃあぁぁぁ!」


 私は杖にありったけの魔力を込めて、魔法を発動させる。


「テンペスト!」


 なぜ火魔法や雷魔法ではなく風魔法かというと扉の向こうには敵だけでなくシリウスもいる。

 彼に被害が及ばないよう考慮してのもの。


 超特大の横殴りの竜巻が扉をドリルの如く抉り、粉々にしていく。


 風の勢いはそのままで扉を破壊した後、竜巻は奥へと突き進む。倉庫内で怒号と悲鳴が聞こえた。


 読み通り。


「アリエル、お願い!」


 アリエルは頷き、両手を前に向け、詠唱を始める。

 そして最後に魔法名を唱えた。


「シャイニング・ライト!」


 光の玉が扉の奥に向けて飛ぶ。

 私達は示し合わせた通りに目を瞑った。


 光の玉は倉庫内で強く瞬いた。

 それは瞼を閉じていてもその光は届くほどに。


「よし行くよ!」


 私達は部屋を飛び出した。


 扉の向こうでは視界を潰されて、うずくまる皇帝派の人間が数名しかいない。


 さすが元軍人か。

 そして何より──。

 私はすぐに頭上にバリアを張った。


 ダガンッ!


 大きな衝撃が倉庫内に反響する。


「ほう! 防ぐか。見事だな」


 頭上のバリアを叩いた獣人が私を称える。


「あんたは絶対に目潰しが効かないと思ったからね」

「ノーラ!」

「アリエルはシリウスと合流!」

「させるか! いけ! お前ら!」


 皇帝派の無精髭男が部下に命じる。


「アリエル!」


 シリウスがアリエルのもとに駆け寄ろうとするも皇帝派の軍人が邪魔をする。

 アリエルに近づく軍人達。

 私はこいつの相手をしないといけないし、馬鹿2人で対応できるか?

 その時、槍が降ってきてアリエルと皇帝派の間となる地面に突き刺さる。


「誰だっ!」


 イーサンが叫ぶ。


「ブルー・コルデアスだ」


 攻略キャラのブルーが現れた。


 しかも──。


「この馬鹿! 勝手に投げるな!」


 ブルーの後に現れた荘厳な制服を着た年配の男が、ブルーの頭を小突く。


「痛えな。良いタイミングだったろ?」

「近衛団長カールス・コルデアス!」


 皇帝派の無精髭男が驚く。


 そのカールスの後ろには近衛兵達がいる。


「なぜここに?」

「まさか本当に再度も盗みに入るとはな」


 カールスの後ろから現れた顔の良い男が言う。


「ローラン・マルコシアス!」


 イーサンが恨みがましく彼の名を言う。


「人様のものを盗んでんじゃねえよ。コソ泥が!」


 皇帝派の一部が場が悪いともう一つの扉に目を向けると別の者達が現れた。


「これは登場してベストなタイミングなのかな?」

「キース・ジェラルド! どうしてお前が!?」

「それはそこの彼女のおかげかな」


 キースが私に視線を向ける。


「ライザが?」

「ああ。帰ってこなければベネット港の倉庫B329に連れ去られていると聞いていてね」

「なんだって!? 君は俺が怪しいと踏んでいたのか?」

「いや、偶然」


 まさかゲームプレイで場所を先読みしていたとは言えない。


「さあ、無駄な抵抗は止めて、お縄につきな!」


 カールスが倉庫内を震わせる声を発する。


「はっ、そう簡単にお縄につくかよ! 行くぞ! テメェら! 皇帝派の意地を見せてやれ!」


 無精髭男が部下を鼓舞する。


『おー!』


 近衛団長も剣先を皇帝派に向ける!


「行くぞ!」

『おー!』


 こうして両軍がぶつかり大戦闘が始まった。


  ◯


 夜の帳が下り、下弦の月が海を照らしている。

 戦闘が行われている倉庫から少し離れた倉庫の屋上で獣人は振り返る。


「俺に何か用か?」

「逃げるの?」

「負け試合に参加する気はない。それに奴らとは思想が違し、あいつらは馬鹿だ。一緒にやられる気はねえよ」

「これだから傭兵は」

「俺に勝てるとでも?」

「……さあね?」


 てか、なんで誰も来ないの?

 イキってはいるけど、内心焦ってた。


 こいつは強い。自分がどれだけの実力かを把握しているし、相手や状況を良く判断している。


 戦闘も力任せにバトルアックスを振り回す奴ではない。


 本気でいかないとやられる。


 獣人がバトルアックスを上段に構える。


(来る!)


 私は広範囲の火魔法を放つ。


 獣人はそれをものともせずに高速接近。


 すぐにバリア張り、私はバックステップで距離を取る。

 バリアは一瞬で破壊され、もしバックステップを取っていなければ真っ二つになってたかもしれない。


「やはりこれで倒せんか」

「どうする? このままだとそっちがジリ貧じゃない?」


 少なくともあいつは私の火魔法をモロに受けた。ダメージはあるはず。


()()()()()()()


 獣人は余裕のある笑みを向ける。


「奥の手でもあるわけ?」

「忘れたか? 俺は()()だ」


(まさか!)


 獣人が体が大きく膨れ上がり、服が破け始める。そして体毛が増え、獣耳と尻尾が生え、顔は徐々に人の顔から狼の顔になり、爪は太く、鋭利に尖る。


「さあ、いこうか」


 狼男に変身した獣人がバトルアックスを捨てる。そして右腕を引いた──。


 理解する前に私の体は屋上に転がっていた。


「なっ! がっ!」


 狼男が先程まで私がいたところにいる。そして右腕を振り下ろしたような姿勢。

 つまり、私は攻撃を受けたのだ。


(見えなかった)


 なんとか立ち上がることはできたが、左腕に爪痕が走り、血が出ていた。

 背中も強打して痛い。


「ふむ。タイミングを間違えたか。獣化すると速くなりすぎて、腕を振るタイミングが間違えてしまう」


 狼男は独り言のように呟く。


 そして私に振り向く。


 私は敵が攻撃モーションを取る前に雷撃の魔法を放つ。


 バチンッ!


 狼男が羽虫を払うように雷撃を防ぐ。

 私は何度も雷撃の魔法を繰り出す。


 バチッ、バチッ、バチンッ!


 ゆっくりと獣人は近づく。


「こっち来るな!」


 私は魔力を膨らませて、特大の魔法を放つ。


「フレイムバースト!」


 特大の火球が獣人にぶつかる。

 炎が燃え盛る。


(これで──まじかよ)


 炎の中に人型の黒い影がゆらりゆらりと近づいてくる。

 そして影は炎の中から出てきた。

 影の主はもちろん狼男。

 ピンピンしていた。


 なんだよ。こいつはチートか?


 今度は風魔法で連続のカマイタチを放つ。

 それらを獣人は軽々と爪で割いていく。時折、カマイタチが当たるが、体毛を少しカットする程度。


「すまんな強くて」


 狼男が左手を上に伸ばす。

 私は先の経験からとっさに杖を構える。


 ガンッ!


 構えた瞬間と同時に敵が一気間合いを詰めて、私の杖に爪を当てていた。


『痛っ!』


 エリーが悲鳴を上げた。


 それで私は力を緩めてしまった。

 その隙をついて、狼男が私を蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた私は弾丸のように飛び、隣の倉庫の壁にぶち当たる。

 隣の倉庫はトタン製だったおかげかダメージが軽減された。


「どうした急に力を緩めて」


 狼男が下へ飛び降りる。


「うっ、うるさい。……ぐっ!」


 起き上がろうとするも、力が入らず起き上がれない。


「なんだ、もう終わりか?」


 狼男が私の首を掴む。

 掴んだだけで鋭い爪が私の首に食い込み、血が流れる。


「さらばだ」


 殺られる。


 その瞬間、狼男の腕を誰かが切り落とそうとした。

 狼男は瞬時に手を離して、距離を取る。


「あぶねぇ。誰だ?」


 私の前に見知った姿が映る。


「ラ、ライザ?」

「遅れてごめん」

「どうして?」

「手伝うと言った。それにこいつは獣人。獣人の不始末は獣人の私がとる」

「はっ! テメェも獣人か? 面白い、来いよ! お稽古してやるよ!」


 狼男は面白そうに笑った。


  ◯


 ライザの体から莫大な魔力がみなぎるのが伝わってくる。


 でも、ライザは満月の夜にしか獣化できないはず。

 今は下弦の月だ。それなのにライザには獣耳と尻尾が生えている。


「なんだ? 中途半端だな。それで俺を倒せると?」


 敵の狼男は見下したように笑う。


「やってやるよ」


 ライザが消えたと思った瞬間、ライザの右蹴りが敵の頭に当たる。

 敵は吹き飛ばされて地面をバウンドする。


「なんだ?」

「どうした見かけだけか?」

「貴様っ!」


 敵は高速に動き、鋭い爪の斬撃を繰り出す。それをライザは飄々と避け、拳で敵のボディを殴る。


「ぐっ」


 相手はよろめく。


「ほらほら、先程までの威勢はどうした?」

「ガキが舐めんなよ」


 敵の体から魔力が膨れ上がり、体毛の色が赤色へと変化する。


「どうだ? この真紅! すごいだろ」


 確か体毛が真紅になる人狼は獣人の中で最強格と言われている。


「うぉらぁっ!」


 狼男の渾身の一撃をライザは両腕で防ぐが力負けしたのか、タタラを踏んでしまう。さらに狼男は回し蹴りでライザを吹き飛ばす。


「どうだ! どうだ!」


 狼男が勝ち誇ったかのように吠える。


 ライザは立ち上がり、高速移動で狼男に攻撃を繰り出す。


 狼男は攻撃を捌き、カウンターを放つ。それをライザが防ぎ、別角度から鋭い攻撃を放つが、敵もまた瞬時に防ぎきる。


 2人の攻防はすさまじく速く、なんとか目で追うのがやっと。


 私は見ているのがやっとなのか。

 そんなのはいやだ。私だって!

 私は杖に魔力を込める。


『どうする気? 魔法は通じないのよ!』


 エリーが私を止めようとする。


『攻撃魔法はね』

『仕方ない。私も手伝うわ』

『えっ?』


 杖が光り輝き、浮遊する。

 そして溶けるかのように形が変わっていく。

 光は強まり、杖の陰影が消える。


「エリー?」


 光が弱まった時、シルエットが判明する。


 小さい羽を生やした人型。

 黄色の羽にレオタード風の赤色の衣装、左耳に涙型のイヤリングをした金髪の──妖精。


 それはかつて夢の中で見たエリーの姿。


「私も魔法を使うわ」

「……エリー。分かった! やろう! 使う魔法はサンダースネイクよ!」

「なるほど。そういうことね。オッケー!」


 私は今待てる最後の魔力を使う。


「ライザ! 離れて!」


 私の声にライザは離れる。

 その瞬間、私達は雷魔法を狼男に当てる。


 バッチィーン!


 鞭がしなる音が響く。


「どうした? さっきまで攻撃とは違い弱いぞ。もう魔力がないのか?」

「これでいいのよ。これは攻撃魔法ではないの?」

「何?」


 狼男が体を動かそうとすると電流がそれを妨害する。


「麻痺か。フッ」


 狼男が小さく笑った。


「フハハハッ!」


 そして次第に大きく笑い、


「こんなもので俺が止まると思うな!」


 狼男の体から膨大な魔力か放出し、私の麻痺を無理矢理打ち消した。


「まじで」

「ふん。時間稼ぎにもならんな」


 狼男は鼻で笑った。


「そんなことはない」


 ライザが否定する。


「変身にちょうどいい時間稼ぎだったよ」

「変身? 何も変わってないではないか」


 狼男のような顔が狼になるわけでも、体毛があるわけでもない。


(ん?)


 一つ違う可能性があった。

 ここでは月明かりのせいでライザの体が白く輝いている。

 髪も尻尾も。

 もしそれが月明かりではないとしたら──。

「白……いや、灰色なのか?」


 狼男も異変に気付いたようだ。


「正解」


 ライザがそう呟いた瞬間、ライザの姿は消え、狼男の姿も消えた。

 ただ爆発のような大音が私の耳朶を叩いた。


「な、何?」


 先程まで狼男がいたところにライザがいて、倉庫の壁が破壊されていた。

 破壊された壁から狼男が起き上がる。


「その力、その神秘性、お前、まさか、ライカンスロープか!?」

「そうだよ」

「ふざけるな。伝説のライカンスロープがお前みたいな小娘のはずがない!」


 狼男は体内の魔力を膨らませて、膂力りょりょくを上げる。


「うぉらっ!」


 そして狼男は目に見えぬ超高速の連続パンチをライザに向けて放つ。


 しかし、それは当たったようには見えない。

 私の目ではまるで絶対に食べられないニンジンを目前にぶら下げられて走る馬のようだ。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 何十、いや百発以上はパンチを繰り出したのではないだろうか。

 そしてその全てをライザはかわした。


「そろそろ終わりにしてあげる」


 その攻撃は──私の目ではライザが狼男に近づいたと思った瞬間に狼男とライザが消え、別の場所に2人が瞬時に現れた。その時は立ち位置が変わっていた。そしてまた消え、次は上空に2人がいた。残像からライザが攻撃している姿が窺えた。


 最後は地面が抉られ、土煙が発生。


 後から大音が四つ生まれた。


 土煙が消えるとそこには倒れた狼男とそれを踏みつけるライザの姿が現れた。


「すごい」


 私はゆっくり立ち上がり、ライザのもとに近づく。


「終わったよ」

「殺したの?」

「ううん。手は抜いた」


 狼男の顔が人間に戻り、体毛も消えた。そして体も元のサイズに戻り始める。


「でも、どうして変身出来たの? 満月の夜じゃないと無理ではなかったの?」


今は月が欠けた下弦の月。


「それは完全獣化。部分的なものは問題ない」

「そうなんだ」


そしてライザは元の姿に戻る。


「それじゃあ、アリエル達のもとに戻りましょう。あっちもたぶん終わったいる頃合いかな?」

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