凸
学校からの帰り道、私は悩んでいた。
さて、いざローランに魔法書窃盗の件から本当は何を盗まれたのかを聞き出すという任務をどのようにして実行すれば良いのか?
問題は二つ。
一つはローランに会うということ。
ローランはマルコシアス商会のボンボンでイケメン。そして攻略キャラの1人。
無難にいくなら『永遠のエリーシオ』のヒロインであるアリエスを介して、ローランに会うべきだろう。
そしてもう一つが、本当は何を盗まれたのかを聞き出すこと。『ええー? 魔法書? 本当に? 本当はもっと危険な物なんでしょ?』なんて聞かないしな。
探りをいれるなんて私には難しい。
私は女性寮に戻る前に寮内中央にある庭園に入った。ここは女性寮と男性寮の間にある。そのため女子と男子が混ざり合って会話をしていたりする。
私はローランの姿を探した。
あの男はいつも女にちやほやされているので庭園内のどこかにいるのではないかと私は考えた。
だが、いない。
もしかしてこういうところではなく、教室とかでイチャイチャしているのか?
そもそも見つけたとして、どう声をかけるべきか?
今日は諦めようかなと女子寮へ向かおうとしたところで、アリエルに後ろから声をかけられた。
「ノーラ、どうしたの?」
「アリエル! びっくりした!」
「そんなにびっくりする?」
アリエルは可笑しそうに笑う。
「アリエルはここで何を?」
「ローランに会いに」
「ローラン!」
「ど、どうしたの?」
「いや、私も会おうと思ってて。でも、いなくてさー」
「ローランを探してたの?」
「どっかで女子達を侍らせてハーレムを形成しているのかと考えていたんだけど」
「誰が女を侍らしているだと?」
「うおっ!? ローラン!? 急に現れないでよ」
またしても後ろから声をかけられる。
「お前はリアクションが大袈裟だな。で、俺に何か用か?」
「この前のお礼をと思って」
アリエルは鞄から小さい包みを取り出して、ローランに差し出す。
「別に良いのに」
ぶっきらぼうな言い方だが、頬が少し緩んでいる。
「なんだよ?」
私の視線に気づいてローランは私に聞く。
「別に」
「で、お前は何の用だ? 魔法書の件か?」
「なんで分かるのよ」
「お前が誰かを呪いたがっていて、呪いに関する魔法書を探しているって噂だぞ」
「なによその噂!」
「嘘なのか?」
「当たり前でしょ。私は変身魔法の書物を探しているだけよ!」
「なんで探してんだ?」
「……変身や変化が解けない場合はどうすべきなのかなって」
「変化ねえ、そういや、お前の実家って、龍神関係だったよな?」
「なんで知ってるのよ?」
「有名だぜ。なあ?」
ローランはアリエルに振る。
「ええ。ノーラは龍の化身だとか」
「化身? 巫女でなくて化身?」
「お前ががさつなのもそれゆえか?」
「誰ががさつですって?」
か弱い乙女を捕まえてがさつだなんて酷い話ね。
「でも、その変身魔法に関する書物が盗まれたらしいわね」
「ああ。残念だったな」
ローランが私の肩をポンポンと叩く。
「でも、噂だと魔法書ではないと聞くけど?」
(アリエル、ナイス!)
「……いや、魔法書だ」
ローランは目を逸らしながら言う。
「この前の東屋に関係していること?」
「アリエル!?」
「あっ!?」
アリエルは両手で口を押さえ、私を伺うような視線を送る。
「あら? 私には秘密のことかしら?」
2人は互いに視線でどうすべきかとアイコンタクトを取り合っている。
そしてローランが口を開いた。
「しゃーねえ。ここだけの話だぞ」
「オッケー」
「軽いな」
「大丈夫よ。信じて」
しかし、なぜかローランは余計に私を疑うではないか。
私って信頼性がないのかしら?
「ローラン、ノーラなら大丈夫よ」
「そうだな。えーと、つまりだ、この前の破壊された東屋は皇帝派が俺を攻撃して出来たものだ」
「どうして貴方を?」
「皇帝派が欲しいものを俺が持っているらしい」
「で、狙われたと?」
「あれは脅しだろうな。抵抗すると次はもっと酷い目に遭わすみたいな」
そう言ってローランは肩を竦める。
「マルコシアス商会は何を持ってるの? そして何を盗まれたの?」
「皇帝の御旗さ」
私は驚いて、言葉を逸した。
「ま、驚くわな」
皇帝の御旗──軍旗とも呼ばれるアイテム。
これをある人物が掲げるだけで、皇帝派の残党が集まり、国府へと進軍してしまうのだ。
「どうしてマルコシアス商会が皇帝の御旗を?」
「知らねーよ」
ローランは目を瞑り、髪をかき上げる。
「でも、皇帝派は商会が持っていると考えているらしい」
「列車の窃盗も皇帝の御旗を狙って?」
「盗まれたのはただのマジックアイテムさ。でも、奴らは……」
「百歩譲ってマルコシアス商会が持ってたとしても、それを貴方に預ける理由はないよね?」
大切なものを息子に管理させるなんてありえるだろうか?
そりゃあ、学院は魔法のエキスパートである教授達がいる。そしてここは外部との接触を禁じている。
だが、それは完璧ではない。
現に侵入者を許してしまい東屋が壊れた。
そこで私はふと思い出した。
皇帝の御旗はある人物が持つことによって効果が生まれる。逆にとあるキャラの手に渡るとそれは皇帝派にとって厄介なこととなる。
「どうした?」
ローランは私が何かに気付いたことを察したらしい。
ここは話すべきか。
それとも隠すべきか。
「何か気付いたのか?」
「ええと……逆にこの学院内にいる人物の手に皇帝の御旗が触れるのがまずい……とか?」
「学院内の人物に?」
「ほら、この学院って色んな家柄の人がいるでしょ? 例えば大貴族とか……王族関係者とか」
私の言葉にローランは息を呑んだ。
私が何を言おうとしているのか理解したようだ。
「なるほど」
「どういうこと? 王族? そんな大貴族がいるの?」
1人、アリエルだけが分からないようだ。
仕方ないか。シリウスのことは普通は誰も知らない。知ってるのは友人知人、そしてゲームをプレイした私のみ。
「もしいればの話よ」
「そういえば噂を聞いたことがあるわ。眉唾なんだけど……」
アリエルは人差し指を顎に当て、微かに俯く。
「何?」
「確か……1年生のゼツディン・ディーティー・ボーケイ君が王様の隠し子という噂が」
「「絶対ない」」
私とローランはハモって否定。
「アリエル、それを言ったら不敬罪になるから気をつけよう」