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オリエンテーリング①

 ナスコ高原で1泊2日のオリエンテーリングが始まった。


 1日目はまずキャンプでテントを張り、終わった頃には昼になっていて、飯盒炊爨はんごうすいはんでカレーを作った。


 午後からは実習で、ナスコ高原の奥にあるダンジョンから、アイテムを取りに行くというもの。


 そのアイテムは教師から指定されたもので、各班とは内容が違う。

 私達の班はラクリサの花と月の砂、ファラエア旧硬貨3枚、水属性の魔石。


「明日もダンジョン探索はあるので今日中に全部集める必要はありません。それとダンジョン内には少なからずモンスターもいますので功を急いではいけません。ダンジョンというものに慣れるだけで構いません。指定されたアイテム収集に評価はいたしません。あくまでアイテム収集は()()だと思ってください」


 私達生徒はダンジョン前で教師から説明を受けていた。


 教師はアイテム収集は評価しないと言っているが、実は評価している。


 4つのアイテム収集のうち、稀少性の高いものが1つ。モンスター退治でしか得られないものが1つ。残り2つは普通にダンジョン探索で発見されるもので比較的簡単である。


 もちろん、これは生徒達には周知化されているため、功を焦った()()()()()が問題を起こすのだ。


「ダンジョンは東西南北に四つの出入り口があります。プリントに指定された通りの出入り口を使用するように」


 そして私達はプリントに指定された出入り口に向かう。私達は12班で、南の出入り口からダンジョンに入るように指示されている。


「あら、貴女も南口から?」


 ヴェラとアリエルに声をかけてきたのはマーガレット・オハラで、攻略キャラであるシリウスを狙っている令嬢。つまりアリエルのライバル。さらに次期生徒会長の座を狙っているためヴェラとライバルでもある。


「ええ。そういう貴女も南口なのね」


 ヴェラが渇いた声で返す。


「お互い頑張りましょうね」

「そうね」


 マーガレットが背を向けて去る際にちらりと私とライザを値踏みして、ほくそ笑んだ。


(舐めてるな、あのクソ令嬢)


「では第4班、南口に」


 そしてダンジョン探索が始まり、南口にいる教師から、順番に班が南口へと入っていく。インターバルは10分。4巡目に私達の班が呼ばれた。


  ◯


 ダンジョンは神殿型で壁や柱には凝った意匠が施されている。通路は広く、天井も高いため、荘厳さを感じ、さらに凝った意匠からは妙な圧を感じる。もし悪魔の彫像がガーゴイルだったとしても驚かない。


(パルテノン風かな)


 灯りは魔法で光を作り、私達は進んでいく。

 このオリエンテーリングというイベントもゲームによって私は知っているが、背景絵は少ないため、新鮮味を感じる。そして何が起こるか知っているのに別の何かが起こりそうで胸が躍る。


「どうしたのアリエル?」

「いえ、私、こういうところ初めてですので」


 アリエルは目を輝かせて柱や壁を見ている。


「劣化しているから床に気をつけてね」


 ヴェラが注意する。


 年の風化のためダンジョン内はあちこちが欠けていて、余所見していると床の割れ目に足を引っ掛けてしまう。


「うん。気をつける」


 そして三叉の道に私達は行き当たった。

 左は劣化具合がひどい道。

 真ん中は進んできた道の延長。

 右からは風の音が鳴っている。


「どちらにする?」

「指定されたアイテムに旧硬貨があるから左かしら」


 ヴェラが左のボロボロの道を指差す。


「どうしてそこに旧硬貨が?」


 アリエルが不思議そうに聞く。


「ファラエア国は700年以上前にあった国。しかも金貨や銀貨はお宝であっても銅貨以下の旧硬貨は普通には発見されないでしょうね」

「そうなんだ。でも、どうして暗い道に?」

「先生も言ってたでしょ? モンスターが少なからず出るって。なら、旧硬貨はスカル兵が持ってるわね。これはスカル兵を倒して、旧硬貨を取ってこいということよ」

「……戦闘」

「怖いの?」

「モンスター退治はあまり経験がなくて」


 アリエルは指をもじもじさせながら答える。


「テロリストを退治したじゃない」

「あれはシリウスがやったことで私はサポートだけだし」

「故郷でモンスター退治の経験はないの?」

「モンスターや害獣の退治は村の男性達が退治をしていたので」

「なるほどね」

「私はせいぜい幽霊とか悪霊の除霊です」

「そっちの方がすごくない?」

「まあ、いざとなったら私が魔法が蹴散らしてやるわ」


 私、龍の巫女だからね。パワーにはお任せあれ。


「僕もやるよ」

「ライザは駄目」


 ヴェラが止める。それにライザは口を尖らせる。


「なぜ? 僕も魔法を使える」

「この前の授業を見たけど、ライザって魔法の威力が高いでしょ? モンスターだけでなく、床や壁、天井を壊したら大変でしょ。それに相手はスカル兵。低級魔法で十分じゅうぶんよ」

「なら、肉弾戦でもいいわけだ」

「肉弾……接近戦ね。ライザは格闘経験おありで?」

「ある」


 そう言ってライザは胸を張る。


「分かったわ。なら、スカル兵が接近してきたらお願いね」

「うん。僕に任せろ」

「なら行きましょう」

「でも、右の通路はいいのか? 右から花の匂いがするぞ」

「花?」


 私達は右の通路から吹く風を嗅ぐ。


「…………分かる?」


 私はアリエルに尋ねる。


「分かりません」

「ライザは分かるの?」

「皆は分からないのか?」

「全然分からない」


 私とアリエル、ヴェラは首を横に振る。


「ライザって鼻がいいのね」

「そうか?」


 ライザはどうして皆は分からないのだと不思議がっている。


  ◯


 左の通路は天井、床、壁、柱、全てがボロボロで足元だけでなく、色々と注意をしないといけないため私達はゆっくりと進んでいく。


「なかなかスカル兵に遭遇しないわね」


 私は誰ともなしに聞いた。


「先行組が倒したのかもしれないわね」

 ヴェラが答える。


「でも、戦闘の音がしないわ」


 時間差でダンジョンに入っているが、それでも他の班がモンスターとの戦闘があるなら音の一つはあってもおかしくはない。


「皆、向こうの分かれ道を使ったのかな? それともスカル兵は弱いかな?」

「奥から戦闘の音はする」


 ライザが奥を指差す。


「本当? 今も?」

「うん。でもすぐに終わる」

「低級ってだもんね。教師も1年生のオリエンテーリングで強いモンスターの出るダンジョンを選ばないでしょうし」

「でも、このダンジョンにはまだ隠された何かがあるって噂よ」

「ヴェラ、その噂って?」

「弱いモンスターが出てくるから、ここは初心者冒険者にとっては初体験としてはもってこいなの」

「初体験って……なんだかやらしい響きね」

「あら、ごめんなさい」


 ヴェラはいやらしく笑う。


 対してアリエルとライザは意味がわからずにキョトンとしている。


「つまり大勢の人に探索されて、もう何もないはずなのに、今でもまだアイテムが発掘されるから、何かがあると言われているの」


 そう。このダンジョンにはまだ誰も倒していないボスが眠っているのだ。


 これまで初心者向けのダンジョンとして扱われていたため、練度の高い冒険者は探索はしないし、探索をする初心者は経験不足から見落としていた。

 そしてそれを()()1年生が2日目に見つけてしまい、ボスが覚醒してしまうのだ。


「ヴェラは何があると思うの?」

「そうね……スカル兵の王様……とか?」

「もう! 怖いことは言わないでよ」


 アリエルが困ったように言う。


「あら? アリエルは苦手? 故郷では悪霊退治とかしてたんでしょ?」

「悪霊とスカル兵は違うよ!」


  ◯


 その後、通路を進んで行くとスカル兵に遭遇した。

 初めは怯えていたアリエルもスカル兵が脆くて、簡単に倒せると知ると怖くなくなったのか堂々とし始めた。


「さて、やっと旧硬貨も手に入れたし、次のアイテムを探しましょうか?」


 ヴェラがスカル兵から手に入れた旧硬貨を布袋に入れて言う。


「まさか手間がかかるとは思わなかった」


 スカル兵は弱いのだが、旧硬貨を持っている個体と遭遇することがなく、先程の戦闘でやっと手に入れたのだ。

 

 たしか二十体ほど倒したはず。


「残りはラクリサの花と月の砂、水属性の魔石よね」

「ええ。三叉路で花のにおいと言ってたわよね」


 ヴェラがライザに聞く。


「うん。においがした」

「ラクリサの花のにおいだとわかる?」

「それは判らない」


 ライザは首を横に振って答える。さすがに何の花のにおいとかは判らないか。


「どうする? 戻る?」

「いいえ、ここまでだいぶ歩いたし、今日はこの通路の奥を進んで、アイテムを探しましょう」

「そうね」


 三叉路に戻って、花のにおいがするルートで必ずしもラクリサの花が見つかるとは限らないし。


「それにしても他の生徒に会わないよね? 引き返したりするグループがいてもおかしくないのに」


 アリエルが疑問を口にする。


「ずっと一本道というわけでもなかったしね。途中で違う道で別れちゃったのかな?」


 私は考えを答える。


「その可能性もあるとは思うけど……」

「ライザ、何か聞こえる?」

「……」


 ライザは目を閉じて、耳を研ぎ澄ます。


「……人の音は聞こえない。けど、この先で水の音がする」

「水? なら、このまま進みましょう。水があるなら水属性の魔石も転がってるかもしれないし」

「そうね」


 そして通路を進んで行くと、徐々に湿度が高くなり、気温が低くなってきた。


「本当に水がありそうね」

「信じてなかった?」

「ごめんなさい。そうじゃないの。驚いただけよ」


 ヴェラは慌てて弁明する。


「あ! 光だよ!」


 通路の奥に微かな光が入り込んでいる。

 奥は光のある部屋なのだろうか。もしくは私達以外の生徒か?

 そして通路の奥を抜けると広い吹き抜けの大広間だった。


「光はあれね」


 ヴェラが穴の空いた天井を見て言う。


「下に大きな沼があるわね。あの穴から雨が入って、ここに貯まったのかしら」


 私達は沼に近寄る。


 沼というから茶色い水溜まりを想像していたけど、うっすらと底が見えるくらい透明であった。


「どこかに水属性の魔石がないかしら?」


 アリエルが岸辺を歩きつつ、下を見て探しまわる。

 決して池や川などの近くに水属性の魔石が転がり落ちているわけではないが、ここはダンジョンだし、偶発的に魔石が発生していてもおかしくはない。


「あっ! ごめんなさい」


 下を見ていたアリエルが誰かとぶつかったようだ。


 ライザは後ろ、ヴェラは少し離れたところに。

 ならアリエルは誰とぶつかった?

 アリエルの方に視線を向けると──。


「アリエル! モンスターだよ!」

「きゃっ!」


 ぶつかったのは水色のタコ型モンスターだった。


「くっ!」


 私の位置からだと魔法を放てばアリエルに当たってしまう。

 躊躇っているとライザが高速で動いてタコ型モンスターとの距離を縮める。


「やあっ!」


 ライザはタコ型モンスターに蹴りを入れて吹き飛ばす。


「2人とも伏せて!」


 アリエルとライザが伏せるとヴェラがタコ型モンスターに向けて光弾を放つ。


「アリエル、怪我はない? 大丈夫?」

「ええ。ありがとう。怪我はないよ。それとライザも、本当に助かったわ」

「ん。怪我がないなら良かった」

「それにしてもすごい速さだったわね」


 ヴェラがライザのスピードを褒める。


「そう?」

「何か訓練経験がおありなの?」

「特にない」


  ◯


「おっ! あったよ!」


 沼の中に一際青色の石があり、私は掴み取る。


 大きさは小さいがそれはちゃんとした水属性の魔石であった。


 私は魔石を掲げて皆を呼ぶ。


 ヴェラは離れたところにいて、駆け足で戻ってきた。


「ほら。水属性の魔石。これで残りは2つね」

「でも、小さいわね」


 ヴェラは少し不服そうであった。


「別に大きさ関係ないでしょ?」

「それもそうね。それでは今日はこれくらいにしましょう。私──」

「あら? 貴女達もここに?」


 ふと、お嬢様風の声が降ってきた。

 振り返ると声の主はマーガレット・オハラであった。


「なんか馬鹿みたいにデカい戦闘音が聞こえたけど、貴女達だったのね」


 マーガレットは呆れたように言う。


「タコ型のモンスターがいたのよ」


 私は高飛車なお嬢様に教えてやる。


「それなら私達わたくしたちも遭遇しましたわ。けど雷魔法で焼いてしまえば楽勝ですわよ」

「知ってるわよ」

「で、貴女達はアイテムは見つけたの?」


 マーガレットは私からヴェラへと視線を変える。


「ええ。2つ。そちらは?」

 ヴェラが答える。


 するとマーガレットは人を小馬鹿にするような表情をして嘲笑う。


「あらあらあら。1年生代表を務めた方がまだ2つなの? 私達はもう3つ。あと1つで終わりよ」

「それはすごいわね。私達は馬鹿みたいに焦る必要もないので」


 ヴェラが笑みで返す。ただ目は笑っていない。


「レア度が高いアイテムも指定されているのよ」

「知ってるわよ。あとは簡単なものだから問題なく集めます」

「……ふうん。頑張ってね」


 最後に鼻を鳴らして、マーガレット達は離れて行った。

 彼女達がいなくなって、私はヴェラに聞く。


「いいの? あんなこと言って。残りの2つはレア度の高いものでしょ?」

「ラクリサの花について目星が付いているし、それに月の砂もたぶん見つけたわ」

「見つけた?」

「こっちよ」


 ヴェラが少し離れたところへと私達を誘導する。

 そこはヴェラが調べていた場所で、白い砂があった。

 普通に考えたら岸辺にある砂みたいだけど。


「これが月の砂なの?」

「それはちょっと調べてみないとわからないわ」


 ヴェラはしゃがんで砂の上に手のひらを当てる。

 どうやら魔力を注いでいるようだ。


「ピンク色に光ったわ!」

 アリエルが驚く。


「本物ね」


 ヴェラは小瓶に砂を入れる。そして説明を聞きたい私達に語り始める。


「月の砂はね、一見ただの砂のようで見分けが難しいの。でも魔力を注ぐと淡くピンク色に光るの」

「よく見つけたね」

「指定に月の砂があったからね」

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