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授業

 国立魔法学院なだけあって、生徒の皆は優秀な子ばかり。私もこう見えてアニメオリジナルストーリーで活躍するネームドキャラなんだけど、それでも全体で中の上くらい。


 優秀は当たり前って感じ。


 トップはやはり才能があるものばかり。自分の才能を自覚して上できちんと伸ばしている。


 今日は敵対する者に対しての防衛魔法の実技授業。


 この授業は新一年生必修科目。組み分けされているも、大勢の生徒がいる。ざっと30人くらいだろうか。


 授業内容は人型の的に対して、スタンの魔法をかけるもの。

 その人型の的はマネキンのようなもので、指定された魔法を当てると両手を上げる仕組みになっている。


 新しい杖のせいか力加減が分からず、1度目はミスをすること人もいた。それでも2度目以降はきちんとクリアしていた。


 そんな中、ある生徒が教師に名前を呼ばれ、前に出た。


 ヴェラ・モデルアート。


 アリエルの同室の子で眉目秀麗、成績優秀。王立魔法学院アルビオン首席合格者。入学式では新一年生代表を務めていた。


 そして次期生徒会長とも言われている。


 それまでぼそぼそと喋っていた生徒も黙り、皆が固唾を飲んで注目する。


 ヴェラは右足を一歩前に出して、腕を地面に対して水平に上げる。


 その仕草だけで人目を引く魅力を持っている。


 凛とした顔、まっすぐで意志の強い目、そしてその小さな唇から呪文が発せられる。


 杖先が光ると、マネキンは鞭に打たれたような音を立てて、両手を上げた。


 そして一拍置いてから皆が拍手した。


 ヴェラはそんな皆に軽く一礼して、その場を離れる。


「すごい」、「惚れるわー」、「さすが次期生徒会長候補」、「才能って、すごいわね」など皆は褒め称えるが、私は彼女が努力家であると知っている。誰よりも才能がないため、寝食を削って、必死で努力していると。


 そして彼女は褒められたいから、頑張っているわけではなく、目的があって勉学を頑張っているのだ。


「……ラ! ノーラ! ノーラ・サルコス!」


 教師が怒鳴り声で私を呼ぶ。


「あっ! はい!」


 私は急いで持ち場に向かう。

 自分の順番をすっかり忘れていた。


 私はエリーこと杖を袖から取り出して、構える。


 息を整え、きちんと呪文を発する。


 杖の先が光り、マネキンにスタンの魔法がかかる。ヴェラほどではないが鞭打ちの小さく音が鳴り、マネキンは両手を上げる。


「よし! 次、ユースト!」

「はい」


 私の代わりに別の子が持ち場に着く。


「1発じゃん」、「あの状態でよくいけたわね」、「ミスるかと思ったよ」

「まあ、なんとかいけたよ」


 正直、教師に怒鳴られ、変な形で皆の注目を浴びた時はすくんでしまった。

 それでもなんとか気持ちをかえて、魔法を唱えた。まあ、一回は失敗しても構わないと考えていたけど、運良く成功した。


「ライザーーー!」


 教師の怒鳴り声で私は驚いて振り向くと、ライザが持ち場にいた。

 そしてライザの杖先が伸びている先を見ると、マネキンが真っ黒になっていた。


「加減しろ!」


 しかし、スタンの魔法でマネキンを黒焦げにするとはある意味すごかった。


「ライザって、魔力量が半端ないのね」


 戻ってきたライザに私は小声で言った。


「……難しい」


 どうやら本人も自覚はあるらしい。


  ◯


 お昼に私はアリエルと一緒に校舎内の食堂でお昼ご飯を食べることになった。そこにはライザとヴェラがいて、私はライザをアリエルはヴェラを紹介した。


「さっきの魔法実技すごかったね」


 私はヴェラを褒めた。


「ありがとう。でも、そちらもすごかったじゃない」


 と言って、ヴェラはライザを見る。


 ライザは自分のこととは気づかず、黙々と食事をとっている。


「マネキンが真っ黒焦げだもんね。ライザは魔力量がすごいから調整が難しいのよね」


 私がフォローして、ライザにバトンを渡す。


 やっと自分のことと気づいたライザはフォークを止める。


「細かい魔法は苦手。簡単でもっと大きい魔法なら得意」

「どんな魔法が得意なの?」


 ヴェラが聞いた。


「サラマンダー、アグニ、ライトニングシャワー、アークウェイブ、テンペストとか」


 ライザの答えにヴェラは口を開けたまま驚く。そしてすぐに口を閉じて、「食事中に失礼」とちょっと恥ずかしげに言う。


「今のって高等魔法よね」

「ん。初めは難しいけど、慣れたら基本魔力を注ぐだけのようなものだから」


 なんて簡単なことを言うが、高等魔法は3年生以上が専門課程の授業で扱うもの。


「もう会得しているなんてすごいのね」

「会得していない」

「え?」

「……調子が良い時は使える。けど普段は……たまに失敗することもある」


 この話は終わりだとライザは右手に持つフォークを動かし始める。


「そういえばもうすぐオリエンテーリングが始まるよね」


 アリエルが別の話題をふる。


「そうね。なくならずになって良かったわ」

「それで班決めなんだけど、4人で1つの班なんですって」

「そうなんだ」

「どう? ちょうど4人だし。私達で班を作らない」

「いいと思うけど、勝手に作っていいの?」

「大丈夫。先輩曰く、寮室メンバー同士で作るらしいから。教師から作るようにと言われたら後は申告するだけ」


 と、ヴェラが教えてくれた。


「それじゃあ、このメンバーで!」

「ライザもいいよね?」

「ん」


 こうしてオリエンテーリングの班決めが決まった。


  ◯


 私が『永遠のエリーシオ』内でアニメ第2シーズンを繋ぐためのアニメオリジナルキャラであり、アニメオリジナルストーリーでは私は死ぬ運命にあるというのは以前に伝えたが、ではアニメオリジナルストーリーはいつ始めるのかというとそれは原作ゲーム第3章の後。


 ならばそれはアニメオリジナルストーリーは第3章が終わるまでは始まらないということでもある。


 けれどだ。マルコシアス商会の積荷を載せた列車がテロリスト達に狙われた。

 この事件はアニメオリジナルストーリーの導入部。


 つまり第3章が終わっていないにも関わらず、アニメオリジナルストーリーが先に来てしまったということ。


 このままこの件を進めたら私はアニメオリジナルストーリーと原作が被り、最悪な事態になってしまう。


 なんとしてもそれを阻止しなくてはいけない。


 私は原作もアニメも知っている身。

 ゆえにこの後に起こること、誰がどう動くか、そして誰が皇帝派と繋がっているのかも知っている。


  ◯


「ミルトン先生が捕まったらしいわね」

「それと2年生のジラノイ先輩達も」

「まさか皇帝派だったなんて」

「先輩達はどうなるのかしら?」

「退学でしょ?」


 朝の寮の食堂では逮捕された先生と2年生の先輩方の話でもちきりだった。


 ライザと共に席に着きながら、朝食を食べつつ、周りの会話から情報をまとめる。


 でも私は驚かない。なぜならこの件は私が動かしたのだ。


 私は校長とも仲の良いキャサリン生徒会長と近衛団長の父を持つローランに匿名で皇帝派と繋がりのある者の情報を与えた。


 さて、これで第一の危険は回避できた。


「オリエンテーリングどうなるのかしら?」

「ごたついたからね」

「でも、2年生でしょ?」

「先生も捕まったのよ」

「自粛?」


 こいつは大変だ。

 まさかオリエンテーリングにまで影響してしまうのか?

 これは想定外。


 オリエンテーリングの後にすべきだったか?

 いや、それだと遅かったはず。


「どうしたの?」


 ずっと聞き役だったライザが食事を止めて、悩んでいる私に聞く。


「えっ!? あ、うん、なんでも……いや、オリエンテーリングどうなっちゃうのかなと思って」

「ノーラは楽しみにしてた?」

「まあ、そりゃあ、イベントがあるし」

「イベント?」

「えっと、ほら、あれよ。皆と仲良くなるというイベントが」

「なるほど」


  ◯


 杞憂であった。


 オリエンテーリングは無事執り行われることとなった。


 場所はクロム平原キャンプ地。王立魔法学院アルビオンから徒歩1時間半の場所にある。

 クロム平原キャンプ地は文字通りに広い平原と飯盒炊爨はんごうすいさん場があり、そこで寝食をして過ごす。


 日中は近隣のダンジョン型古墳跡で指定されたアイテム探し。

 それを1泊2日。


 先に告げるとこのオリエンテーリングでもアリエルと攻略キャラの仲が深まるイベントが発生する。


 アリエルと班を同じにするということは、それを近くで目撃するかもしれない。


 もしくは……私が誘導をしないといけないのかもしれない。


 今回はゲームとは違う形で物語が進んでいっているのだから。


  ◯


 休み時間、私は1階の渡り廊下でキャサリン生徒会長と会った。


「ごきげんよう」

「ごきげんよう」


 お嬢様風挨拶で終わらせようとしたのだけど、「ノーラさん、ちょっとよろしいかしら」とキャサリン生徒会長に呼び止められた。


「なんでしょうか?」

「この前、匿名で学内で皇帝派に繋がるお方についての情報提供があったの」

「そうなのですか」

「その方、なんですけど、学内で教わる魔法ではなく、地域性……クセの強い魔法なのです」

「……へえ」


 やばい。気づかれたか?


「調べてみるとノーラさんの……ご実家周辺の地域なんですけど……どなたかにお心当たりはありませんか?」


 キャサリン生徒会長は切れ長の目を私に向ける。


「さ、さあ? この学内で同郷の方とはお会いしてませんね。あっ!? もしかしたら、フェイクなのかも。送り主が特定されないよう地域性の強い魔法を使ったとか?」

「そう。そうですか」

「でも、学内に皇帝派の人間がいて、びっくりです。東屋の件も彼らの仕業ですか?」

「いえ、それは知らぬ存ぜぬらしいですね。あの破壊跡から察するに魔法ではなく物理の可能性でしょうね」

「物理……ですか」

「例えば──」


 意味深な目をしたまま、キャサリン生徒会長は口を閉じる。


「例えば?」


 私は首を傾げて続きを聞く。


 キャサリン生徒会長は一度唇を横に伸ばしてから言った。


「獣人とかね」


 そしていつものような誰に対しても優しい生徒会長の笑みを張り付ける。


「ごめんなさいね。お引き留めして」


 キャサリン生徒会長は一礼して、その場を離れる。


 私はキャサリン生徒会長の背を見つめ、不思議に思う。


 最後のは一体?


 東屋の件が獣人の線があると言っていた。

 それは私も考えていた。

 しかし、この学内に獣人はいただろうか。


 それにあの目は一体どのような意味があったのか。

 私に関係する何かか?

 けれど、獣人とは関係がないはず。

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