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チュートリアル①

 皆さん、初めまして遠山千景とおやまちかげです。


 えー、さっそくですが、ゲーム世界に転生しました。

 こういう場合、前世の記憶は2パターンあります。産まれた頃から持っているパターンとある日、前世の記憶がよみがえるパターン。


 私は後者です。


 そう。()()()()()()()()()()


「おい! お前! 何笑ってんだ!?」


 毛羽だった汚い緑色の軍服を着たおっさんが私に怒鳴る。手には刃こぼれした剣を持ち、切先を私に向ける。


 こいつは列車をジャックした武装テロリストグループの一人で人質の見張り役。


「立場分かってんのか? ああん?」


 私ではなく他の人質が悲鳴を漏らす。


「すみません」


 とりあえず謝っておく。


 私ほどの実力ならば、こんな奴ら瞬殺なのだが、ここは()()()()()()()()


 あっ! そうそう今はどういう状況かというと、この世界は乙女ゲーム『永遠とわのエリーシオ』で、私はそのゲームのアニメオリジナルキャラクターであるノーラ・サルコスに転生したのだ。


 そして王立魔法学院アルビオンに向かおうと列車に乗っていたら、かつての皇帝派の軍人達が列車を占拠ジャックした。


 私達乗客は人質となり、私はその瞬間に記憶を取り戻したのだ。


「いいか! テメエら、怪しいことをしたらぶち殺すからな!」


 見張り役のおっさんが人質の私達に向けて啖呵を切り、椅子を蹴る。


『キャー』


 女生徒の人質達が悲鳴を上げた。それを楽しんでいるのか見張り役はニヤニヤと笑う。


「おいおい、王立魔法学院アルビオンの生徒が可愛い悲鳴を上げるなや!」


 もう一度、見張り役が椅子を蹴る。


『キャー』

「アハハハハッ」


 見張り役が大声で笑う。


(さて、そろそろかな?)


「ちょっと! やめてください!」


 一人の女性が立ち上がり、見張り役に抗議した。


(おっ! 始まった!)


 立ち上がったのはこの乙女ゲームの主人公アリエル・マンティコス。


 ゆるふわ金髪ヘアーの女の子。優しいけど芯が強く、いざという時は前に出て立ち上がるというキャラクター。


(ああ、なまアリエルだ)


「ああん? やんのか?」

「おいおい、嬢ちゃん。ナマ言ってるとシメんぞ?」

「脚震えてんぞ。ゴラァ」


 見張り達がアリエルに詰め寄る。

 そこでドアが開かれ、男が勢いよく入ってきた。


(キター!)


「その手を離せ! 卑怯者共」

「ああん?」、「なんだテメエ?」、「殺すぞ」

「私はヘイジツ・ヒルナンレス! 魔法学院アルビオンの寮長だ!」


 そいつはメガネを掛けた七三分けの学生。


「誰やねん! お前!」


 思わぬキャラが登場して私は突っ込んでしまった。


 周りの視線が私に突き刺さる。


「あっ、すみません」


(でも、本当に誰よ? ここは攻略キャラのシリウス・ガブリエラでしょ? ヘイジツ・ヒルナンレス? どこぞの番組名みたいなやついたっけ?)


「はっ、一人で何ができるんだ?」


 見張り役の一人がナイフを手にしてヘイジツに襲いかかる。


「舐めるな。私は寮長。悪には負けぬ!」


 ヘイジツは握り拳で見張り役に立ち向かう。


  ◯


 ヘイジツ・ヒルナンレスはボコボコにやられ、しかも見張り役に蹴り飛ばされて列車から放り出された。


(弱っ)


「なんか変なやつだったな」

「まあ、いい。嬢ちゃんもあいつと同じ目に会いたくなければ大人しく言うことを聞けや」


 モヒカンヘアーの見張り役がイヤラしい笑みをしてアリエルの首元にナイフの切先を向ける。


「待て!」


 男が車両に入ってきた。


(来たか!)


「俺はゼツディン・ディーティー・ボーケイ。王立魔法学院のニューフェイス!」

「だから誰やねん?」


 私はまた突っ込んだ。そしてまた皆の視線が私に刺さる。


「……すみません」


(だって仕方ないじゃん。シリウス、いつになったら来るのよ! 何よ、ゼツディンって!)


「この悪党共成敗してやる!」


 ゼツディンは見張り役達に人差し指を向ける。


 そのゼツディンも眉なしモヒカンヘアーで、どちらかというと三下悪党風なんだけど。


 モヒカンヘアーの見張り役がちょっと気まずそうに自身の前髪を指でいじってる。キャラかぶっちゃったもんね。気まずいよね。


「どいつこいつも丸腰で来るとは馬鹿ばっかだな」


 見張り役のおっさんが面白そうに言う。


「うるせー」


  ◯


 ゼツディンもまた見張り役にボッコボコにやられて、列車から放り出される。


「王立魔法学院は馬鹿ばっかなのか。丸腰で一人で来るなよ」


 見張り役は声高に笑う。


「なら貴方達は卑怯者です。杖や魔導具を取り上げて自分達は武器を持ってるなんて!」

「さっきから本当に威勢のいい嬢ちゃんだな」


 見張り役のおっさんがアリエルの髪を掴む。


「その手を離せ!」


 また誰かがこちらの車両へと入ったきた。

 誰だと視線を向けると、なんと次はシリウスだった!


(やっと来たか!)


 シリウスが来た瞬間、皆は私がまた何か言うのではと考え、私に視線が集まる。


 けれど私が何も言わないので、見張り役のおっさんがシリウスに尋ねる。


「だ、誰だ? テメエは?」

「俺はシリウス。シリウス・ガブリエラ」


(おー! ついに来た! 生シリウス!)


 私はつい拍手をしてしまった。


 見張り役達が私へと視線を向ける。

 その隙にシリウスは間を詰めて、近くの見張り役の腹にアッパーを決めて気絶させる。


「テメエ、よくも!」


 モヒカンがシリウスへとナイフを振り回す。

 シリウスはナイフを躱して、カウンターでモヒカンを右フックで1発KO。


「う、動くな!」


 見張り役のおっさんがアリエルの首に左腕回して、右手に持つ剣の先をアリエルの顔に向ける。


「この綺麗な顔がズタズタにされたくなけ──」


 ガンッ!


 後ろから人質の誰かがおっさんの後頭部を殴り気絶させる。


「大丈夫かい? 勇敢ならお嬢さん」


 おっさんを気絶させたニヒルな男子学生がアリエルにキザったい笑みを向ける。


「え、ええ」

「皆、見張り役はこのマージ・マンジィーが倒したから安心したまえ!」

「いや、危ないからね。剣先がアリエルに刺さったらどうするの?」


 いらぬお節介キャラに私は怒る。


「ちゃんと横に倒れるようにしたさ」


 マージはキザったく髪をかき上げる。


(ウゼェ)


「て、テメエら、許さ、ねえぞ」


 シリウスの右フックで伸びてた見張り役のモヒカンが起き上がる。

 そして近くにいた私に襲いかかる。


「お前の出番はもうないの!」


 私は裏拳でモヒカンを吹き飛ばし、モヒカンは列車の壁と共に外へ飛ばされる。


『…………』


 皆がキョトンとする。


「あ、やっちゃった。てへぺろ」


  ◯


 忘れてました。


 私はアニメオリジナルキャラクターですけど、アニメの一期と二期を繋ぐオリジナルストーリーではメインを務めるネームドキャラなのです。


 だからクソ強いの。


  ◯


「さて、これから生徒会長を助けに行こうと思うのだが誰か私と共に救出に向かう勇敢な者はいないかい?」


 キザ男マージが人質全員に聞く。


 生徒会長キャサリン・エリザベートは大貴族の令嬢で人質としてはもってこいの人材。

 皇帝派テロリストのリーダーは生徒会長を人質にして先頭車両に向かった。


「しかし、杖や魔導具が奪われてしまったし」


 人質だった生徒の一人が答える。

 杖や魔導具は全て貨物車両に持っていかれた。


「詠唱魔法があるじゃないか。それに我々はいざという時のために格闘術も学ばされているだろ?」

「そうだけど」


 それでも人質となった学生の中で救出に向かおうとする生徒はいなかった。


「自分も行きます」


 シリウスが手を挙げて答える。


「いや、いい」

「え?」

「君、ネクタイのカラーからすると新1年生だろう? ここは上級生に任せたまえ」


 新1年生はネクタイの色が緑で、2年生は黄色、そして3年生は赤と決まっている。

 マージ・マンジィーは赤だから3年生ということだ。


 そしてマージを合わせて5人が貨物車両に向かうことになった。


  ◯


「で、私はどうするの?」


 私は椅子に座っているシリウスに聞く。


「……俺も向かいたいのだが、先輩達が……」


 そこへ大きな振動と悲鳴が響く


 私達は皆、息を飲む。そして先頭車両の方角へと顔を向ける。


 そしてまた振動と悲鳴が。


「……この悲鳴はマージのものだと思うけど」

「かもな」


 そう言って、シリウスは立ち上がった。


「行くの?」

「ちょっと見に行ってみる」

「私も行くよ」


 アリエルも立ち上がった。


(おっ! チュートリアル通りだ)


 チュートリアルでは2人が先頭車両に向かい、テロリストのリーダーを倒して、生徒会長を助けるのだ。


「駄目だ。レディはここに」

「あら、私だって詠唱魔法を使えるのよ」

「しかし……」

「光魔法よ」

「!?」


 この世界では光魔法は攻撃、防御、回復、補助まである万能なもの。


「分かった。そのかわり後衛にいるんだ」

「ええ」

「あ、私も行くよ」

「君も?」

「多少は心得があるの。魔法も使えるわ」

「……分かった」


 私の時は止めないの?


「そうだ、君達、名前は?」

「私はアリエル・マンティコス」

「ルーナ・サルコスよ」


 そして私達は先頭車両へと向かう。


 前の車両には敵が2人いて倒れていた。きっとマージ達が倒したのだろう。


 椅子や壁の一部が燃えていたり、壊れているので戦闘があったのだろう。

 そして倒れた敵はネクタイやベルトで拘束されていた。


 シリウスは離れたところにある剣を手にする。たぶん敵が持っていたものだろう。


 私達は次の車両には入った。


「敵だ! 2人は離れて!」


 シリウスが前を見て、私達に言う。

 なんと敵がいたのだ。


(知ってたけどね)


 そして椅子や車両の壁、床、天井が黒焦げになっていたり、破壊されていた。

 明らかな激しい戦闘の跡。


 たぶんここでマージ先輩達は彼らと戦い、敗れたのだろう。

 マージ先輩達の姿がないことから外へ放られたのかな?


「敵だー!」


 テロリストが後ろに向けて言うと前の車両からドタバタと増援がやってくる。


「下がって」

「うん。でも、その前に」


 アリエルがシリウスに光魔法でバフをかける。


「ありがとう」

「私も攻撃魔法で援護するから」


 私はサムズアップして言う。


「俺には当てないくれよ」

「分かってるわよ」

「それと俺が敗れた2人はすぐに逃げるように」

「「ええ」」


  ◯


 シリウスは私の魔法での援護が必要のないくらいに完璧に立ち回り、敵を倒していった。


(ま、当然よね。チュートリアルでは2人でテロリスト達を倒すんだもん)


 アリエルが光魔法でシリウスの傷を治療する。


「ありがとう」

「いえ、私はこんなことにしか役に立てません」

「こんなことじゃないさ。立派なことだよ」


(おや? チュートリアルでは好感度は上がらないはずだが? シリウス、フライングは駄目だよ)


「しかし、どうしてここだけ敵が多かったのでしょうか?」

「確かに不思議だ」

「前の車両は貨物車両だからだよ。生徒達の杖や魔導具の他に学校へ送る教材とかがあるの。貧困な彼らにとって、それらは貴重な戦利品なのよ」

「そうなの? 貴女、よく知ってるのね?」

「えっ!? いやー、ハハハッ」


 このゲームやったからなんて言えないのでとぼけておく。

 そして私達は貨物車両に入る。


「ここには敵はいないみたいだ」

「あっ、あんなところに宝箱があるわ」


 RPGで見られる宝箱があった。シリウス達は不思議そうな顔をしていた。

 それもそうだろう。たとえファンタジー世界でも宝箱なんて現実にそうそう見ないのだから。


「なんでこんなところに宝箱が?」

「それはきっと私達から奪い取った杖や魔導具があるのよ」


 私は宝箱に近づき、蓋を開ける。


「ほら、こんなにいっぱい」

「本当だわ」

「あら? この杖、立派ね」

「ノーラ、それ他人のだよ。駄目だよ、勝手に持ち出したら」

「ちょっと借りるだけ。緊急時は仕方ないじゃん。ほらアリエルもアイテムも借りておきましょう」

「だ──まあ、いいかな。緊急時だし」


 そして私達は杖とアイテムを手に入れた。


「さあ、2人とも先へ行こう」

「シリウス、待って! もうちょっと探してみない?」


 私は前を進む2人に待ったをかける。


「ノーラ、どうしたの?」

「ほらシリウスの武器もあるかもしれないし」

「俺の剣は先に寮に送ったから、ここにはないよ」

「そうじゃなくて……」

「まさか……他人のを?」

「そうそう。緊急時、緊急時。ほら! あそこの裏とか剣が置いてあるかも」


 ドア側付近にある荷物の山。その裏手を私は指差す。


「何を言って……これは!?」


 裏手を見たシリウスが驚き、そして鞘に収められた剣を引っ張る。


「シリウス? その剣がどうしたの?」

「アリエル、これは我が国の国宝『七宝剣』の一つだよ。どうしてこんなものがここに?」

「テロリストの狙いの一つかもね」


 初見はまさかチュートリアルに『七宝剣』があるなんて思わないよね。

 ちなみにこの『七宝剣』は七つ集めると裏ボスイベントが発生する。


「ボロボロの剣より、こっちがいいんじゃない?」

「しかし、これは国宝。勝手に使えば、大きな罰を受ける」

「でも、このままやられたら国宝がテロリストの手に渡るかもしれないよ?」

「……」

「あー、ここに大貴族様がいればなー。私達は平民だから使ったりしたらお咎めごあるしなー。あー、誰かいないかなー」


 私はチラチラとシリウスに目を向ける。


「……分かった。俺が使おう」

「大丈夫なの?」

「アリエル、心配してくれてありがとう。一応貴族だからね」


(何が一応貴族よ。貴方は()()でしょうに)


  ◯


 そして私達は先頭車両に入る。

 先頭車両はガランとしていて顔に傷のあるテロリストのリーダーと部下2名、そして縄で手首を縛られた女子生徒。この女子生徒が王立魔法学院アルビオンの生徒会長キャサリン・エリザベートである。


「テメエら、よくもやってくれたな」


 リーダーが一歩前に出て言う。


「お前がテロリストのリーダーか!」

「テロリストだぁ? 俺達は偉大なる皇帝復権派だ! このクソッたれた王権派が作る社会をくつがすために活動しているんだよ?」

「その活動がテロリストなの?」

「温室育ちの嬢ちゃんには分からねえだろうよ」

「皇帝はもう死んだ! 跡継ぎもいない。今更、皇帝派が動こうともう傀儡はいないぞ! 結局はお前達が良い地位に就きたいだけだろ!」

「勝手なことを言ってくれる。行け!」


 テロリストのリーダーが部下に命じる。


「2人とも行くぞ!」

「ええ」

「オッケー」


 本当はシリウスとアリエルだけなんだけど、ここにいる以上は私も参加。


 アリエルが光魔法でシリウスにバフをかける。そして私は敵の1人を氷属性魔法のフローズンアローで足止め。シリウスは敵の1人を倒し、私の攻撃で足止めされていた敵の1人も倒した。


「ほう!? 敵ながらあっぱれな連携だ。だが! その程度の連携で俺を倒せると思うな!」


 テロリストのリーダーが手に持つ赤い玉を握り潰すと赤いオーラがリーダーの体から発せられる。すると軍服の上からでも分かるくらい筋肉が膨れ上がる。


「シリウス、気をつけて! この人、強いわ!」

「ああ!」

「俺の名はゲル。皇帝派四天王ミハエル様の直属部下。かかってくるがいい!」

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