婚約破棄は起こらなかった
私レアーナ・モルティンは憂鬱な日々を過ごしていた。
「私、やっぱり婚約破棄されるのかしら……」
「最近、そんな噂が聞こえてきますね」
学生寮の自室にてメイドのルイと話していた。
最近、というか1年前ぐらいから学園内で囁かれている噂、私の婚約者であるメラネール・グリスフォード王太子が男爵令嬢のメアリー・スチュールと恋仲になっているらしい。
しかもメラネール様の周囲にいる高位貴族の令息達も夢中になっている、という。
私もチラッとメアリー嬢を見た事があるが確かに可愛さはあるけど何処に夢中になれる要素があるのか、と疑問を持ってしまう。
まぁ殿方の趣味もあるから否定はしないけどさ婚約者がいる相手に近づくのは良い行動ではない。
メラネール様には何度か注意したがのらりくらりと躱されてしまう。
メアリー嬢には言わないのか、と思われるけど基本的に男爵令嬢と公爵令嬢では身分が違いすぎて話すタイミングが無い。
呼び出す事は可能だけど、変な誤解を持たれるのは嫌だし正直余り関わりたくない。
だから、殆ど放置状態にしている。
そして、明日には貴族学院の卒業記念の舞踏会が行われる。
その日にどうもメラネール様は婚約破棄を計画しているようなのだ。
そんな恋愛小説みたいな事を本気で計画している、としたら頭が大丈夫なのか、と不安になる。
それに公の場でそんな騒動を起こしたらメラネール様の未来にも影響が出てくるし無傷ではいられない。
「レアーナ様は何もしてないですし心配する事は無い、と思いますよ」
「それでも、大衆の場でやられるのはダメージが深いわ。 社交の場には出られなくなるかもしれないし……」
「レアーナ様は王妃教育も受けましたし恥じる事は何もしておりません」
ルイにそう言われ少しだけホッとする事が出来た。
そして、その日の深夜ベッドで寝ていた私はふと目が覚めた。
夜風にあたろうと思い窓を開けると何やら騒がしい声が聞こえた。
下を見ると武装した騎士達がいるし、教師達が何やら右往左往している。
えっ、何があったの?
しかも怪我人もいるみたいで担架で運ばれている。
シーツで見えないけど一部真っ赤になっている。
「ル、ルイ! ちょっと起きてっ!?」
私は隣で寝ているルイを慌てて起こした。
「う〜ん……、どうかされましたか?」
「そ、外で何か事件が起こってるみたいなのっ!」
「あぁ~……、遂に起きたんですね」
「えっ!? 何か知ってるのっ!?」
「まぁ、なんとなくですが……、明け方には全てが終わっていますよ」
ルイはそう言ってニコリと笑った。
そして翌朝、私達生徒は急遽教室に集められた。
「えぇ~、昨夜の事ですが一部の生徒が違法麻薬を使用していて集会をしている、という報告があり騎士団が現場に立ち入り、対象となった生徒が捕縛されました……」
えぇ~、という声が聞こえた。
先生は対応していたのかゲッソリとした顔をしている。
「まぁ、そういう事なので本日の卒業式は各教室で行い舞踏会は中止とします。 なお式後に念の為に薬物検査を行います」
そして、本当に簡単に卒業式が行われその後国から派遣された検査官により検査が行われた。
この時はまだ全体が分からなかったけど翌日、両親と共に登城して国王様から全容が明かされた。
「え、それじゃあメラネール様達が関わっていたんですか?」
「その通りだ、我が息子ながら情けない事に誘惑に勝てなかったみたいだ……」
なんと薬物に関わっていたのはメラネール様達高位貴族でその中心にいたのはメアリー嬢だったのだ。
どうも、定期的に薬物を使用する為に集会をしていたらしい。
でも悪い事は必ずバレる訳で、ある人物から告発があったらしく騎士団が密かに調査をして今回の摘発になったそうだ。
その際、抵抗されたらしく仕方無く騎士団も武力行使に出たらしく死人も出たらしい。
その死人の中にはメラネール様も入っていた……。
主犯であるメアリーは捕らえられたけど後日処刑となった。
当然だけど私とメラネール様の婚約は解消となった。
「婚約破棄は無くなったけど……、なんとも言えないわね」
実家に帰ってきた私はのんびりと中庭でお茶を飲んでいた。
「メラネール様に関しては残念な事になってしまいましたがレアーナ様には被害は無かったので良かったではないですか」
「それはそうだけど……、そういえばルイは事前に摘発がある事を知っていたの?」
「えぇ、告発したのは私ですから」
「えぇっ!? 貴女が告発者だったのっ!?」
私は驚きの声を上げた。
「はい、最近のレアーナ様に対するメラネール様の態度が目に余っていたので旦那様に報告して国王様に進言していただこうと思って調査をしていたら薬物使用の件が偶然わかりまして……、騎士団に知り合いがいたので密告させていただきました」
いや、ルイ優秀すぎない?
私の事を思って密かに行動してくれて嬉しかった。