エルザとルイージの物語
エルザ 朝ごはんできてるわよー。
一階のキッチンからエルザを呼ぶ声がする
エルザは、はーい と返事をして、大急ぎで二階の階段を駆け降りてきた
急がなくちゃ 遅刻しちゃう
お母さん、ごはんありがとう
エルザは 目玉焼きを一口で頬張ると、パンとりんごを手に持って出かけようとしている
エルザも今日から、しばらく学校の寮生活ね 寂しくなるわ〜
エルザのお母さん ノニアが言うと、エルザは、
本当ね。お父さん、お母さん、しばらく留守にしますが、頑張ってきます!
と、勢いよくドアを開けて、駅のホームに向かった
エルザはこの秋、大学一年間になった
大学は電車で2時間半のところにあるので、エルザは寮生活をすることになっていた。
お母さんのパンを駅に向かいながら平らげたエルザだったが、りんごは食べずにとっておいた。
そう。それは、僕達が出会うきっかけになった あのりんごだった。
大学は、新入生でごった返していた。
エルザは、なぜか一人の男の子に目が行った。その男の子が、校舎の裏側に一人で行くのを見かけて、どうしても気になって、ひっそり後をつけた。
校舎の裏につくと、一匹の猫が、男の子の前に寄ってきた。男の子は、カバンから、紙に包まれた一枚のパンを出して、ちぎって、猫にあげていた。猫に話しかけるでもない、猫を撫でるでもないその男の子は、猫がパンを食べたのを見届けると、その場を去っていった。
昼休みの時間になり、エルザは、その男の子をまた見かけた。昼ごはんは食べていないようだ。きっと、あの一切れのパンが彼の昼食だったのだろうとエルザは思った。
男の子に話しかけてみる、ねえ、昼ごはん食べないの?
持ってきてないから。
彼はそれしか答えなかった。
エルザは、自分の中に何か暖かいものを感じた。
エルザは、朝ごはんに食べきれなかったりんごを彼に差し出していた。
あの、よかったらこれ食べて。
男の子は、戸惑っていたが、エルザのまっすぐな目を見たのちに、ありがとう と りんごを受け取った。
エルザは、男の子に名前を聞いた。
僕は、ルイージだよ りんごありがとう またね。
ルイージはそっけなくその場を後にしようとしたが、エルザは、
ルイージ! 私、今、料理の勉強してて、
明日、ランチを作ってくるから、ルイージに味見して欲しいの! お願い!
エルザは、咄嗟に嘘をついた。そうでも言わないとルイージに断られると思ったからだ。
ルイージは、びっくりした顔をしていたが、必死にお願いしてくるエルザの顔を見て、何か深い事情があるのだろうと思い、わかった、いいよ、じゃあ 明日ね
と返事をした。
エルザは、次の日、お弁当を作った。
エルザは一通りの料理のはできる。
料理の勉強なんて、本当は嘘だ。
昼休みにルイージを見かけたエルザは、彼を木の下に誘って、一緒にエルザの作ったお弁当を食べた。
ルイージは、何も言わず食べていたが、エルザが おいしいかな?と恥ずかしそうに聞くと、うん 美味しいよ もう、料理の勉強しなくていいんじゃない?と答えた。
エルザは美味しいと言われて、嬉しかったが、焦った。 明日も一緒にお弁当を食べたいと思っていたエルザは、今日は、お肉にしたけど、魚はまだいまいちなの。明日も味見してくれない? と恐る恐るルイージに尋ねた。
ルイージは、エルザの潤んだ瞳を見て、なんだか、断れなかった。
こんなやりとりが、大学の授業のない 日曜日以外、一か月ほど続いた。
エルザとルイージは、たわいのない話をたくさんして、エルザとルイージは、二人でよく笑うようになっていた。
大学の中から、この光景を見て苛立ちを感じている男がいた。マックスだ
マックスは資産家の息子だ。スポーツも万能、マッチョで、高級車で大学に来る。
マックスは、エルザを一目見たときから好きだった。
マックスは、なぜ、あんな いつも、よれよれの服を着た垢抜けないルイージがエルザと仲が良さそうに笑い合っているのかが、理解出来なかったし、正直、むかむかしていたが、エルザが料理の勉強をしているから、味見をさせているらしいというのを風の噂に聞いて、本命は、自分だから、ルイージを利用しているのか、と都合良く考えるようにしていた。でも、一向にエルザからは、声をかけられない。しかも、よそよそしかった二人は、いつの間にか、笑い合っている。
マックスは、ルイージを許せないと感じはじめていた。
そんなある日、ルイージが、大学に忘れ物をした。忘れ物をとりに教室に入ると、
ルイージの野郎がムカつくけど、どうしてやろうか?みたいな話をしていた、マックスとその取り巻きが、ルイージに話しかける。
おー、おー、これは、これは、
こっちから、出向かなくても ネズミがのこのこやってきてくれたぜ ルイージさんよー
マックスがルイージに近づいて教室の入り口をふさいだ。
ルイージは何の事か、わからなかったが、マックスが日ごろ自分を良く思っていないことは知っていた。
ネズミ呼ばわりされて、腹の立ったルイージは、どけよ とマックスに言った。
マックスは、なんだとー!とルイージの胸ぐらを掴んで、黒板に押し付ける。
マックスみたいな大男と取り巻きが数人いたんじゃ、勝算は0だろう。
でも、ルイージは何も悪いことをしていないのに、屈服する気はなかった。
なんだよ、どけよ ルイージは胸ぐらを掴まれた状態でマックスに言い放った。
マックスは、手を離し、取り巻きを見て言った。
どけよ、だってさ、この俺様に!
お前は貧しい家の出だろうが、俺の親父は金持ちだ、大学を出たら親父の会社を継ぐ事になってる、エルザを幸せにするのは、この俺だ ルイージ どくのはお前だ!
とルイージを睨みつけ威嚇して怒鳴り散らした。
ルイージは、それはエルザが決めることだろ
と言い放った。
マックスが勢いよくルイージに殴りかかる
ルイージは、床に倒れた。
激しい音を聞きつけて、大学の見回り警備員が お前たち 何をしている!と教室に入ってきた。
倒れて顔にあざの出来ているルイージに、警備員が大丈夫か? 殴られたのか!?と尋ねたが、ルイージは、僕が転んだだけです。
僕は帰って、宿題をしたいので、これで
と言った。
マックスと取り巻きは、そうです。あいつが勝手に転んだだけです、と言っていたので、警備員も、今日は遅いからみんな帰りなさいと言うしか出来なかった。
翌日、ルイージがマックスに殴られたという噂は広がっていた
ルイージの顔は腫れてあざができていたし、マックスの取り巻きの誰かが、話したんだろう
エルザは、マックスに怒りを覚えた
エルザは、ルイージに何があったか、尋ねたが、ルイージは、転んだんだよ。しばらく一人になりたいんだごめんよ。とエルザとも距離をおこうとした。ルイージは、マックスにびびっている訳ではなかったが、エルザに対する自分の気持ちもうやむやなままで、エルザと一緒にいる気にもなれなかった。
エルザとルイージが仲睦まじくしている姿を見なくなって、マックスは、エルザを映画に誘ったが、エルザは、冗談じゃないわ、とマックスを一蹴した。
マックスは、やばいと思って、エルザに謝りに言った。花を持って。
ドアを空けたエルザは、正直、またマックスか、と思った。ルイージが来てくれたんだと思ったのに。
何か用? エルザがマックスに問うと、マックスは、あの、本当に悪いと思って、俺、花を持ってきたんだ。君に用意した花だから、君が受け取らないなら、この花は捨てるよ エルザは、マックスはどこまでも卑怯だと思った。花を捨てられるのが嫌だと感じたエルザは、マックスを部屋の中に招き入れた。
それをたまたまルイージが見てしまっていた。ルイージは自分はエルザが好きなんだと言う気持ちに気付いて、エルザと距離を空けるなんて言った事を悔いていた。いつもお弁当をご馳走になっていたから、今日はりんごをエルザと一緒に食べようと思って持ってきていた。
エルザがマックスを招き入れて、エルザは、マックスにまた問うた。なんのよう?
マックスは、つれないな。謝ろうと思って、花まで用意してきたのに。
エルザ、私に何を謝るの?ルイージを殴ったこと? だったら、私に謝ることなんてないんじゃないの?
マックスは、じゃあ、ルイージを好きじゃないってことか!?と聞いた。
エルザは、鼻で笑って、貴方が謝るべき相手は、私じゃなくて、ルイージでしょって言ってるのよ!と力強く答えた。
とても綺麗な花ね。ありがとう。でも、もう出て行って。
エルザは、マックスを部屋から追い出した。
ルイージはマックスが部屋から出てくるのを待っていた マックスが無理やりエルザの部屋を尋ねたに違いないからだ
部屋から、出てきたマックスは もう、花を持っていなかった エルザは花を受け取ったんだ ということはーーー。
ルイージは頭が真っ白になり、りんごを手から落としてしまった。
りんごが二階から落ちる大きな音を聞いて、エルザは、部屋の外に出てきた。
階段を降りたエルザはりんごを見つけて、ルイージが来たのだと、そして誤解したのだと察知した。
エルザはルイージの名前を大声で呼びながら、ルイージをあちこち探し回ったが、ルイージの姿はどこにもなかった。
ルイージはその日からから大学に来なくなった。
大学の教授に聞くと、ルイージは自主退学をしたらしかった。違う大学に編入したことも教授から聞きだせたが、どこの大学に編入したかは、プライバシーだから、と教授は教えてくれなかった。
エルザは、マックスに話しかけられても、マックスの事を無視するようになった。
マックスもまた、エルザに嫌われたと感じて激しく落ち込んだ。
数ヶ月が過ぎた。
とても暑い季節になっていた。
つづく