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「とう!」
俺は異世界に着地した。
周囲を見渡してみる。
どうやらここは森のようだった。
空を見てみる。俺のいる地点は枝葉の密度が薄いところのようで、太陽が視界に収まった。太陽は赤い太陽、青っぽい薄い太陽と二つあった。
「うっわ、本当に異世界だ……しかし森スタートか。一番途方に暮れるやつだな。マジでこれからどうしたらいいんだ」
一旦おさらいするか。
神様が言うにはここは剣と魔法のファンタジー世界らしい。
そこへ俺は孤独にも一人で転生した。
神様いわく、俺には魔王とやらを討伐してほしいらしい。
まぁどんなやつかもよく分かってないが、仕方ない。それが俺の使命だというのならやってやろうじゃねぇか。
「まずは街とかに言って旅支度を整えよう。今の俺には何もないからな」
俺は異世界風の衣服に着替えられていた。
新品のようだが、よく馴染む気がする。
ポケットをまさぐるが当然何も入っていない。頼りになるのは俺の体一つということだ。
「近くに道でもあればいいのになぁ、まぁ流石に森の奥深くに転生ってことはないだろ、その場合流石にブチギレることになると思うし」
「きゃあああああああ!!」
道があればとキョロキョロしていたところで、唐突に悲鳴が聞こえた。
うわお、びっくり。
ちょっと離れた位置だと思うけど、これは間違いなく人の悲鳴だったぞ。
やばい、ちょっと興奮してきた。これが俺の初ミッションってこと? 一大イベント発生だ!
俺は声のした方向へと走った
。
あれ、なんだか妙に体が軽い気が……
近づくにつれ、金属音や、怒声なども聞こえてくる。
間違いない、この先で戦闘が起きている!
俺は藪から現場を覗いてみた。
そこには複数人の男女がいた。
馬車っぽい乗り物があり、それを守るようにして数人の人物が立っている。
その周りには十数人の野蛮っぽい感じの人間が包囲していた。
おお、どうやら馬車の人たちが盗賊やら山賊やらに襲われて防衛してるって感じかな。
地面には何人か倒れちゃってる……あれ、一人ローブを着た女の子っぽい人も血を流して倒れてるぞ……やられちゃったのかな。うわ、今炎が飛んだ! 盗賊っぽいやつが火だるまになった。すごい! おお、あの剣士、盗賊の攻撃をことごとく剣でいなしてる……すごい、動きも速いしレベルが違う。やっぱ異世界ってすごいなぁ。
俺は思わず感嘆しながらことの成り行きを見守っていた。
防衛側の男女は、うまく連携を取りながら華麗に立ち回っている。
しかし流石に多勢に無勢ということなのか、後ろで魔法を放っていた女の子が隙をつかれて刺されてしまった。
女の子は血を撒き散らしながら、驚愕の表情を浮かべ倒れていく。
あー、やばい。このままじゃ確実に全滅しちゃうよ……個々の力は勝ってるけど、人数差を引っくり返すのは難しいってことなのかな。
「俺にもなにかできればいんだけど……そういや俺神の力とやらがあるんだっけ」
すっかり忘れてたが、俺が魔王を倒せる肝となっているのがその力だ。
これが嘘っぱちだったら全てが崩れてしまう。
やべ、なんか不安になってきた……せっかくの機会だしここいらでちょっくら試してみるか? そうだな、そうしよう。
俺は手に意識を集中させた。
何をすればいいのか一瞬迷うが、異世界といえば魔法。ということで、さっき見た炎を放出する魔法を唱えてみることにする。
とはいえ魔法の知識なんてゼロ。
完全に見様見真似で、適当にイメージを膨らませただけだったが、次の瞬間俺の手に炎の塊が現れた。
おお! すごい! これを放出すればいいのか?
「こんなもんで……えりゃ!」
俺は魔法を放った。
炎の球は俺の狙った通りに、戦っている奴らに向かい吸い込まれていく。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
大爆発が起こった。
俺が今まで体験したことのないような轟音と閃光が襲ってくる。
「うわあああああ」
俺は衝撃に耐えられず後ろ向きに転がってしまった。
しばらく経ち、目を向けてみる。
そこには何もなかった。
地面が円錐上にすり鉢になっていて、そこには何も残ってなかった。
「えぇ……もしかしてこれ……俺がやったの?」
因果関係を考えれば、完全にそうとしか思えない。
俺はどうやらその場にいた全員を即死させてしまったようだった。
「あー……まぁいっか」
いやだってしょうがないだろ? こんな威力だとは思わなかったもん。てか凄いな魔法。これマジで兵器じゃないか? こんな力あったら社会の秩序もへったくれもないと思うんだが……この世界は一体どうやって成り立ってるんだ? さすがに俺の力がヤバすぎるだけなのかな。
「ちょっと試してみたくなってきたな。強いやつと戦ってみるか」
俺は自分がどこまでやれるのか知りたくなった。
ので、作戦に出ることにした。
「魔法ってんだから色々できるんじゃないか。例えば空を飛ぶ、とか」
俺は空を飛べ! と念じた。
「…………」
しかし何も起こらなかった。
えぇ、なにも反応がない。これは流石に無理なのか? いやしかしさっき魔法を撃ったときみたいな感覚がまるでない……さっきはどうやって魔法を撃ったっけ。確か女の子が撃ってた魔法をイメージして撃ったよな? あれ、もしかして……
俺は自分が空を飛んでいる様子をイメージしてみた。
体が宙に浮いて、そのまますいすいと移動するイメージ……
ふわり。
体が浮いた。
地表から足が離れ、静止したのだ。