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俺は元々人と群れることが嫌いだった。
なぜ他人に気を使ってまで生きないといけないのか分からない。
人とは自分の為に生きているのだ。
他人の言うことに賛同している人生は、自分の人生とは言えない。
俺は己の道を突き進む。
孤独こそが、人生で一番の道。
俺は本気でそう思っていた。
「あれ、ここは、どこだ?」
俺は気付けば知らない場所にいた。
本当に知らなかった。
白い部屋に白い調度品の数々。
俺はこんなに悪趣味ではない。
知るわけなかった。
「うむ、目覚めたかの少年」
そしていつの間にか、目の前に一人の老人が出現していた。
白いヒゲを蓄えた、いかにもという人物だ。
「あの、あなたは……それにここはどこなんでしょうか……」
「うむ、薙田陽太くんと言ったかな。ワシはお主をここへ召喚した神張本人じゃ」
「神……様? 意味が分からない。絶対ふざけているでしょう」
「ふざけてなぞおらん。ワシは神で、ここは天界じゃ。天界は物凄いのじゃぞ」
そんなことを言われても凄さなんて伝わってくるわけなかった。
「まぁいいでしょう。とても寛容な僕が全てを一旦受け入れるとして、どうして僕はこんなところにいるんですか? 普通の日常を送っていたはずですが」
「うむ、それがじゃな、お主は死んだのじゃ」
「え、死んだ? 意味が分からないですよ。僕はこうやって生きているじゃありませんか」
「それが事実なのじゃよ。確かに死ぬ直前のお主は至って健康だった。しかし突然の心臓発作で死亡したのじゃ」
「そんなバカなことが……」
反論の一つや二つしてやろう、と思った俺だったが、自分の体がおかしいことに気づいた。
なぜか下半身から下が、先細りになって妖しくなっているのだ。
これではまるで幽霊じゃないかと、目を丸くしてしまう。
「え、こ、これって……」
「まぁ辛うじて魂を繋ぎ止めておる状態じゃからな。ワシのさじ加減一つで、お主の魂は輪廻へと回され再循環されることじゃろう。すなわちお主の記憶の喪失じゃな」
こんな非現実的な光景あるわけない。
いや、実際にあるから見えているのか?
そういえば俺図書館で本を読んでたんだよな……あ、なんか思い出してきたかも。そうだ、なんか急に心臓が痛みだしたかと思ったら、その痛みが全然止まらなくて、そのままのたうち回って……
「流石に思い出したかの」
「……ちょっとだけ思い出したかもしれません。というか完璧に思い出しました。確かに僕は死んだかもしれません」
「そうじゃろう」
神様は満足げな顔だった。
その表情を変えてやりたいという思いが走ったが、バレないように苦笑でごまかした。
「でもなぜ僕はこうやって呼び出されてるんですか? もしかして死んだ人は全員こういったことになるんですか?」
「いや、お主だけ特別じゃよ。なぜなら此度お主に頼みたいことがあるからの」
「頼みたいこと?」
「うむ、所謂魔王討伐というやつじゃな」
「魔王討伐?」
話を聞いてみると、どうやら地球ではない異世界で、近年魔王という強力な存在が誕生したらしい。魔王は非常に協力で、過去にも類を見ないほどの力を持っているのだとか。そしてその魔王率いる魔族軍が、次々と人間陣営の領土に侵攻を開始し、このままでは押し切られてしまう可能性が高いそうだ。
現地の勇者という存在たちもなんとか抑えてはいるが、このままではやばい。
ということで俺が異世界に転生し、その魔王を討伐して欲しいということだった。
「まぁ事情は分かりましたが、なぜ俺なんですか? 剣と魔法の世界なんでしょ? 多分普通に瞬殺されますよ」
「大丈夫じゃ、お主には素晴らしい適性が備わっておる。ワシら、神の力を受け入れられる素質がの」
「神の力?」
「うむ、神のエネルギーというのはなかなか人間にあわんくての。力を与えたとしても持て余してだめになってしまうことが殆どじゃ。じゃが少数ではあるがその神の力をも受け入れられる人材がおる。それがお主じゃ」
「そんなたまじゃないと思いますけど……」
「いいや、そんなたまじゃ。たまたまじゃ。それにただ受け入れられるというだけではない。お主の神のエネルギーとの親和性はかつて類を見ないほどのものじゃ。正直ワシもお主を初めて確認した際久しぶりに震えたわい」
そんなレベルなのか……神様が震えてしまうって。マジで一体どんな力なんだ?
「ワシは確信しとる。お主であれば、魔王を討伐し、必ずその世界を救うことができると」
「そう言われましても実感が全然ないんだよなぁ」
「まぁそれは行ってみれば分かる。それでどうじゃ? この任務引き受けてはくれんか? もちろん魔王を討伐したあとはお主の好きなように生きて良い。神の力を宿すことにより生命力も飛躍的に上昇するじゃろうから寿命も格段に伸びるじゃろう。このまま訳の分からない死に方で終わるより、もう一花咲かせようとは思わんかの?」
うーん、まぁ別に嫌ってわけではないしなぁ。実感が湧いてないというだけで、転生自体は別に全然ウェルカムだ。寧ろ最強の存在としてファンタジー世界に転生できるんだ。自然と胸も高鳴るというものだろう。
「そうですね、どうせ死んだ人生だったんです。おまけと思って、馴れない世界でも生きてみようと思います。その任務引き受けさせて貰ってもいいですか?」
「うむ、お主であればそう言うと思っておったぞ。さすが過去一の神エネルギー適正者じゃ。応援しとるから頑張るのじゃぞ」
そうして俺は神様に力を貰い、異世界に転生することになった。
いきなりの話でちょっと戸惑うけど……まぁなんとかしてみようと思う。できればだけど。