16話
工場棟は並んで三棟建っているが、光点の中心があるのは真ん中のやつ。
しかも奥の方。
電気は通っていないようで周囲は月明かり以外なく真っ暗。まともな光源って言えば俺のゴツい懐中電灯の光のみ。
「本当にこんなところにいるのかよ?」
幽霊だの怪異などに縁はないが、虫の声と時たま吹く風の音しかしない真っ暗闇は不気味としか言いようがない。
それでも進むけどな。
仮にミユキを連れ去ったやつというのがいるのならば俺はそいつを許さない。
いると仮定したならばそいつは今、俺のことも監視しているのだろうか?
どうでもいいや。
「ミユキを連れて帰る。そんだけだ」
棟の前に来た。ドアは閉まっているが、その横の窓は割れていて、どうやらそこから中に入れる。
「よいしょっと」
ご丁寧に踏み台まで用意してあったので簡単に中に入れた。
「ふむ……」
蒸し暑いことには変わりはないが外よりはやや涼しい。工場建屋は断熱が効いているようだし、割れ窓からの通気もある。
ライトを当ててみると床はホコリを被っているが複数の足跡がある。やはり何らか人の出入りはあるようだ。
一階は特筆すべきことは何もないが、煙草の吸殻が大量に捨ててあったので不良共の溜まり場っていうのは間違いなさそう。
階段を見つけたので上がることにする。こちらは足跡が少ない。
「っ‼」
二階に上がる踊り場にバッグが落ちていた。
「これ、ミユキのだよな」
中を検めるとミユキのスマートフォンが出てきた。当たりだ。
バッテリーの残量は一六パーセント。危なかった。
バッグを拾い上げたらそのまま階段を上る。
二階。ドアを開けて中を確かめるが何もないがらんどう。広い空間に太い柱が何本か立っていて落書きが酷い。
「次が最上階……」
この棟の三階が事務所になっていたはず。そんな話を聞いた覚えがある。
三階。明らかに下の階とは構造が違う。長い廊下といくつもあるトビラ。
「ひとつひとつ検めていくしかないか……」
一つ目、いきなりだが鍵がかかっていて開かない。
二つ目、すごく狭い空間。書庫か。
三つ目、これも鍵がかかっている。
鍵がかかっている扉のノブはホコリも被っているので、内から鍵が掛けられたわけでもなさそう。
――繰り返しとうとう七つ目の扉の前までやってきた。
窓から入ってくる秋風は涼しいが、緊張からか嫌な汗が止まらない。
「やっぱりミユキが自分からこんなところに来るわけないな。誰か拉致したやつがいると考えたほうが合理的だな」
ならば犯人(仮)もここにいる可能性が高い。
七つ目の扉のノブはホコリが被っていない。使われている証拠。
ノブに手をかけて、押し開けた。




