それぞれのプロローグ
私は人を好きになれない。
別に何かが欠如してるとかではないと思う。
ただ、周りにいる男子が全員魅力的に見えないだけ。
でも、一人だけ本当に好きな人がいる。
いや、いた。
「彼」はかっこいい。かわいい。天然。イケメン。ギャップが良い。顔の造形。天才。声。
全部ひっくるめて好き。
付き合いたい。
支え合いたい。
でも叶わない。
「彼」は他の人たちにも人気だし。
「彼」のことが好きだなんて友達に言ったら、痛ましい顔をして「諦めな」と言われるか、「いつまでも夢見てるお花畑な子」と陰口を叩かれるだろう。
だから、私は見て見ぬふりをする。
自分の恋心に。
そして、好きな人を作ろうとする。
例え偽りの恋でも。
「す...好きです!付き合ってください!」
ああ、またか...と思いながら、オブラートに包みまくった言葉で断る。
「...私は、君の友達のつもりだよ」
「...」
罪悪感を感じつつも、走り去っていく勇気ある男子の背中を見つめる。ごめん。君の気持ちには応えられないよ。それから、何事もなかったように教室に戻る。
「美亜ー、また告られたの?」
「理恵!いや...またって言っても前回は先月だったし...」
「違うでしょ!三週間前!」
「あれ、そうだっけ?」
「はぁ...それにしても好きな人でもいるの?」
「秘密だよ」
「いっつもそればっかり...まさか俳優とかが好きなの?」
「いやいや...それはないよ」
「というか、断るのも結構神経使うでしょ?毎月の様に告白されて大丈夫?」
「まあいつものことだしね...もう慣れたよ」
「そっか...」
そう、いつものこと。いつものことなのだ。私は顔が整った方だそうで、よく告白されるのだが、興味の無い私は毎回相手をフッてしまい、冗談めかして鉄壁の女ともよばれている。まああまりそういったあだ名などは気にしないだが、私の前で言うと親友の理恵にギロッと睨まれるので、最近はあまり聞くこともなくなった。
パチッいう音とともに電気がつき、私の部屋の全貌が露わになる。壁一面に貼られたポスター、ポスター、ポスター。いっそ自分でも狂気を感じる程の凄まじい量だ。その全てが限りなく白に近い青で癖毛の髪に端正な顔立ち、眠そうにとろんとした大きな瞳、そしてクールでミステリアスな雰囲気を纏う青年のポスターだ。
鏡をみて、思う。私はこれからどうやって生きていくのだろう?ポスターをみつめて、問う。彼はなんで三次元ではなく二次元にいるんだろう?
いつも通りの自問自答を終え、今度は無の時間。ベッドに倒れこみ、天井を見上げる。なんで私はこんなことしてるんだろう。
スマホを取り出し、アプリの検索欄に「二次元に行く方法」と打ち込む。
マイチューブで流れてきたビデオの通りに設定したキーボードのバイブレーション機能つけてからスマホのタイピングが楽しみになったななんて思いながら、検索結果を見る。
もう何千回これを調べただろう。いつも通りオカルト的な結果しか出てこない。オカルトは信じない私だが、藁にも縋る思いで書いてあることを片っ端から試した。全部だめだった。
なんでこんなに好きなのに二次元に行けないんだろう。もしかしたら死んだら二次元にいけるのかな、とかも考える。死ぬのは怖い。けど、彼に会うためだったら死も厭わない。
めぼしい検索結果は全部見終わったみたいだ。もうわかってたけど。
ここ数年こんな生活を毎日続けている。
二次元に行く方法を試しては失敗し、ただ虚しさを胸に学校に行く。たまに告白される。断る。
ホント私、何やってるんだろ...
あーあ、突然推しが三次元にやってきて、うちのクラスに転校してきて...
私の隣の席で...
それで消しゴムとか落としちゃったりして...
それで拾ってくれて...
耳元で
「ドジかわいい」とか囁いてきたり...
「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!!!しぬ!しぬうううううううううううう!!!キュン死!!!!!」
「姉ちゃん五月蝿い!」
「ごめん!!でも落ち着けないいいいむりいいいいいいきゃああああああああ!!!!!!」
「あーもう防音室作らないとダメだこりゃ...」
そのころとある名門高校にて...
「月城君!!いかないでえええええ!!」
「えー...ごめんめんどくさいけどいかなきゃだからバイバイ」
「うぅ...ファンクラブは永遠に不滅です!!一生忘れません!!」
「ねえこれどうリアクションすればいいの?」
「もういいよ無視無視」
「そっか」
「じゃあな」
「うん。またどこかで会おう」
「そうだな」
「バイバイ」
「バイバイ」
続きます!