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運命的な嘘

 底抜けに明るい礼子とは対照に、健太は未だ気が動転していた。バッドタイミングでやってきたと思っていた。


『ごめんなさい。あまり時間もなくて、扉開けてもらえませんでしょうか』


 そう言う礼子に、健太は時間稼ぎをしようと画策した。


「あ、今ちょっと部屋汚れてて、少しだけお時間ください」


 本当は部屋は礼子の部屋以上に綺麗だが、今は迷惑な客をどこかに隠さねばとそれだけしか健太は考えていなかった。


『ふふっ。岩瀬さん、意外とだらしないんですね』


 呑気な声が、インターホンから聞こえた。


「おいっ、隠れてろ」


 健太はインターホンを切ると、慌てた口調で優へと向けて言った。


「どうして?」


 しかし、健太の意思とは反して、優は玄関へと向けて歩き出した。


「おいっ」


「彼女が来たなら丁度いいじゃないですか。今、さっきの話を決めてしまいましょう」


 善は急げと言いたげな彼女に、健太は顔を青くした。慌てて優を追いかけて、玄関で健太は優の腕を鷲掴みにした。


「わーっ、待て待てっ。今この状態で会話するのは良くないっ!」


「ちょっと、この期に及んで臆病風に吹かれるんですか?」


「違う。そうじゃないー!」


 健太は、珍しく声を荒げて続けた。


「俺達、今日まで一切顔を合わせたことがなかったんだぞっ。そんな俺の部屋にあんたがいて、あんた彼女にこの部屋にいる理由をなんて説明するつもりなんだっ!」


「……そりゃあ、吉田さんの将来のため、この人を説得しに来たって」


「彼女はそうは捉えないぞ。あんたのこと、彼女がいない間に俺の元に勝手に出向いて、勝手に仲を引き裂いてって、恨むに決まってるだろ……! これからも仕事仲間であるあんたが憎まれ役を買ってどうする!」


 優は、確かに、と目を丸くしていた。


「この場ではあんたは出ず、後々楽屋ででもゆっくりと諭すようにあんたが吉田さんに話してさっきの話は結論付けるべきなんだっ! 彼女、以前にも増して人間不信になるぞっ」


 さっきまで凛としていた優が、顔を見る見る青くさせた。


「早く隠れろ」


 と、健太は言った。

 優は目をパチクリさせて頷いて、リビングの方へ引き上げようとするが……。


 ガチャリ


 扉が開いた。

 健太は自分を呪った。不用心にも、先ほど優を家に上げた時、彼は自宅の鍵を掛け忘れていたのだ。


「なーんだ」


 礼子の声が、室内に響いた。


「鍵、開いてるじゃ……ないですか」


 廊下と玄関で、健太と礼子は目を合わせた。次いで礼子の視線は、隠れ損ねた優へと向いた。


 健太の心臓は喧しいくらいに高鳴っていた。

 冷や汗が止まらない中、健太は考えた。脳細胞をフルで活用し、考えていた。


 どうする。

 どうする……。




 どうする……!?




「兄です」


「は?」




「兄です」




 素っ頓狂な声を、健太は上げた。

 するりと健太の腕に自らの腕を這わせた優に、呆れ以外の感情が沸いてこなかった。


 ……さすがに。


 さすがに、それは……信じないだろ?


 冷や汗を溜めながら、健太は恐る恐る礼子を見た。


 礼子は……。




「えーっ、そうだったんですかー!?」




 信じた。

兄妹だったなら仕方ない。

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