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地獄  作者: 烏籠
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1.死神

「はじめまして。私は死神です。突然ですがあなたは今日死にます」



夕闇に包まれた公園のブランコに揺られながらぼーっとしていた俺に声をかけてきたのは、死神だった。


「え、マジっすか」


「正真正銘本物の死神です」


そっちじゃない、アンタの正体より俺の寿命の方が重要だ。

大体、死神どころか神様すら信じていない俺にはどこからどう見てもただの人間にしか見えない。

レースだらけの黒いドレスと腰まである黒髪が異様な雰囲気を醸し出してはいるが、それでも人間の域を越えてはいない、ただのゴスロリさんだ。


さてどうしたもんか……自称死神と宣うくらいだから、ありとあらゆる意味でただ者ではないのは間違いない。ただ、こういう電波受信型の人間と対面するのは初めてなものだから、正直どうしたらいいかわからない。

いっそ隣のパンダのオブジェに座っている高校生風の少年に助けを求めようかと思ったが、かれこれ一時間もブランコの後ろに佇む桜の木との睨めっこに情熱を傾けている姿を目の当たりにしている手前、気安く声をかけて良いものか判断に困って、結局やめた。



「……悪いけど、俺いま忙しいんだ」


「ただぼーっとしているだけに見えますが」


「死神さん死ぬの教えてくれてありがとさよならまたいつか。これでいい?」


「私を疑っていますね」


「そりゃ疑いますよ」


「信じる信じないはあなたの勝手ですが、あなたが死ぬのは本当です。今日あなたは死にます」


「……ご忠告どうも」


ここまで付き合ってあげたらもう十分だろう。

変に関わって纏わり付かれても困るしさっきと帰ろう。


亡霊にのしかかられているかのように重い体を鞭打ってブランコからのっそり立ち上がる。

じりじりと何かを感じて視線を横にずらすと、相変わらずパンダの上に居座ったままの少年がこっちを見ているのが目に入った。

瞬き一つせず目を見開いて注がれる視線に薄ら寒いものを感じたが、どうやら少年が見ていたものはブランコのようで、俺が退いたあともきぃきぃと揺れるそれを食い入るように見つめている。


自称死神女は呪われた人形程度の視線を俺に送り続けてはいるものの、特に動きがない所を見る限りではどうやら後を着けて来たりするような心配はなさそうだ。

という事で遠慮なく帰らせていただくことにしよう。

しばらく歩いてから振り返ると女の姿はすでになく、さっきまで俺が座っていた空席のブランコがあるだけだった。

死神的力で消えたのかはたまた人間的な移動手段のどちらを取ったのか、今となっては知る術などない。


さぁっ、と風が吹いた。


ブランコが風に煽られて小さく揺れている。

いつの間にかパンダ少年の視線は体ごとブランコの背景へと移っていた。


立派に枝を広げた満開の桜の木……その内の一本へ。

それは何故だか異様な存在感を持っていて、同じように並んだ他の桜の木とは全く違うものに見えた。

この公園には何度も来たことがあるのに、そんなふうに思ったのは初めてだった。


何か、変だ。

どこかおかしい……。


ふと、ちらちらと雪のように降りしきる花びらの中に、何かを見つけたような気がした――――――ぎぃぎぃと踊る、黒い影を。



ぶるりと肌寒さに震える体を半回転させて歩き出す。

さっさとこの公園から出て行きたかった。

幽霊がいるなら、死神がいてもおかしくはない。

馬鹿らしいとは思うが、ここが自殺した女子高生の霊が出ると噂の場所である以上、その可能性は捨て切れないわけだ。

ちなみにオレは自分の目で見たもの以外信じない。


そんなわけでオレは全力で安全地帯である自宅へと走った。

それだけの話。





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