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変異者  作者: 龍血
第一章 変異者と朝花岳学園
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第五話 吸血鬼の暴走

 

 それから一週間。

 櫛はクラスメイトと普通に話をし、まだ暴走に悩まされながらも楽しいスクールライフを過ごしていた。


 変異者同士は静樹とは変異について相談したり、勉強の方でも教え貰ってしたりしていたが、静樹自身は成績を気にするらしく、静樹から話をすることはあまりなかった。


 朱莉先生とは変異研究会でしか会うことなかったため、仲があまり良くなったとは思えなかった。

 って言っても、先生と生徒の関係ではこのくらいでも十分だろう。


 最後に羽衣とはちょっかいかける感じで話しかけていた。

 元々、羽衣の暴走についてはルールが一つある。

 それは暴走時は女子生徒以外は近づいてはいけないというもの。

 これは暴走時の無防備な状態になるからである。


 しかし、このルールには例外があり、それは変異者の限りではない。

 その理由は変異者だけしかいないところで暴走時を抑えるのは変異者しかいない。

 かろうじて朱莉先生がいても、それは変異研究会だけ。

 それ以外だとどうしても男子生徒の静樹さんか櫛しかいない。

 だから、例外として許されている。


 因みに許されている理由をはっきりすると、静樹は内面が大丈夫だから、櫛はそもそも羽衣に勝てないと思っているから。


 勝てないという理由は羽衣自身が答えている。


「はぁ、舐めんな。私は元々力はあるんだ。この前も舐めた生徒がいたから返り討ちにしてやったぞ」


 前に言っていた変異者に対して暴力を払おうとしていた者を逆に返り討ちにしたらしい。


 羽衣は暴走時に脅威はないけど、自衛する力があるということ。


 それともう一つ、羽衣についてあるとしたら、それは変異の発見時期である。


 基本的に高校二年くらいに発見される。

 つまりは高校一年に発現していると予想されている。


 しかし、羽衣は高校一年に発見された。

 入学とほぼ同時に転校することになった。


 転校が櫛よりも早いのは単純に検査が早かっただけ。


 まぁ簡単に言えば、羽衣と櫛の差はそれほど広くはない。

 なので、相談し合うこともある。


「暴走する時、何かの拍子でってことがあるのか?」

「ほとんど突然だが?」

「羽衣は水とか毛糸とかでなりそう」

「はぁ、なる訳ねぇだろ!」

「暴走したら、尻尾を振ってるように尻を振ってたりして」

「女に何言ってんだ!」


 羽衣が櫛を殴る。


「殴る代わりにその顔が見られればいいさ」

「コイツ…」


 羽衣は顔を真っ赤にしている。


「真面目に考えろ!」

「はいはい、分かってるよ」


 このように度々櫛が羽衣に対して冗談を言うことをしばしばあるが、羽衣は櫛を距離を置くことはなかった。



 ある日のこと、櫛はクラスメイトの一人とゴミ捨てをするのにゴミ捨て場に向かった。


 しかし、そこには五人の男子生徒。


「連れてきたぞ」

「おぉ、来たな」


 一人の男子生徒が指を鳴らしながら、櫛に向かってくる。


「おい!櫛ぃ!ここに楽しくやってそうじゃねぇか」

「まぁ、はい」


 櫛は察した。

 これが静樹が言っていたことなのだと。


 ここにいるのはクラスメイトや他のクラスの男子生徒もいた。


 櫛は何としてでも、耐えることを選ぶ。

 いくら相手に非があろうと、殺してしまえばこちらが悪者になってしまう。

 それだけは避けようとした。


「じゃあ、いいご身分ってことだ」


 どんな言いがかりだ。

 実際のところ、変異者は寮生活でほとんどの学費が免除、食堂もあるから食費も浮く。

 そのかわり、学外への移動は禁止となっており、何があろうと外に出ることはできない。


 因みに一般生徒は家からの登校でも寮生活でもOKで、学費自体は他の高校よりも少ない方、食堂は変異者と同様に使用可能。

 修学旅行や学外の行事にも参加可能。


 比べると、変異者は学外を出ない限り、生活の補償をしてくる。

 逆に一般生徒は他の高校生と同じくらいの学校生活を過ごせる。


 つまりは差はない。

 むしろ、楽しく学校生活を過ごせる一般生徒の方が得しているくらいだ。


「それで俺になんか用か?」

「こんな状況でよくそんな強気になれるなぁ」

「ただ話をしているだけでしょ。まぁ、ゴミ捨て場で話すようなことじゃないと思うが」

「あぁ!?こんな状況でやることと言ったらこれだろ」


 一人の男子生徒が櫛を殴った。


「こんなことをしていいと思っているのか?」

「いいんだよ。お前ら抑えてろ」


 その言葉に周りにいた男子生徒達が櫛を囲むように移動し、二人が櫛の腕を掴み、拘束する。


「オラオラオラォ、なんか言ってみろよ」


 顔や腹などを殴ったり、蹴ったりと残酷すぎる正にイジメというべきことが起きた。


(クソッ、こっちは痛いもんは痛んだ。俺に反撃する力がなんてねぇ。でも暴走なんてなりたくはない)


 櫛が考えるのは打開策。

 暴走しなくてもこの場を収める方法を。


 しかし、羽衣のような力はない。

 それに反撃するって言ったって、身動きが取れない。


 あるとするなら、拘束されていない足で反撃するが、軽く躱される。


「はぁはぁ、そんなもんかよ」


 男子生徒は嘲笑い。

 周りの男子生徒達も同じだ。


(やべぇ、血、血が流れて、減っていく)


 櫛が恐れていたことがある。

 それは血の減少で暴走してしまう確率が上がる。


 一度前に体育の時間に怪我をした。

 その時に血が出て、体内の血液量が減り、暴走を引き起こした。


 だけど、その時はまだ吸血衝動だけ。

 もし、それが大量出血なら…


 誠意喪失していた櫛が腕を掴んでいた二人を体を回して吹き飛ばした。


 そして、櫛の手は目の前の殴ってきた男子生徒の首を掴む。


「き、きさまぁ」


 首を掴まれたことで男子生徒は苦しみ出す。


 それを見た残りの二人が櫛に殴りかかるが、足蹴りで吹き飛ばす。


「高貴なる吸血鬼に何という侮辱をしてくれたものだ」

「く、クソッ、はなせ」


 開かれた瞳は鋭く紅い。

 犬歯は長く尖り、爪が伸びた。

 そのほとんどが吸血鬼と一致した。


「ダメですね」


 そう言い、男子生徒を投げ飛ばした。


「血が汚れている。このような者で吸血なんてしない。大人しく殺されてろ」

「ひ、ひぃ」


 櫛は鋭い爪を男子生徒の方を向け、心臓の貫く構えを取る。


 それを見た先程櫛を殴っていた男子生徒は自分は驕り、誤ったと思った。

 そして、悲鳴を上げ、命乞いをする。


「やめなさい」


 そこに風紀委員長の菜那と風紀委員の人が来た。

 早すぎる行動だ。


「女性ですか?いいではありませんか」

「しゃ、喋ってる」

「何を驚いている。我が喋れない訳がないでしょう」


 今までこの完全な暴走をした時、その者は理性を持たない。

 だから、言葉を発することも冷静な判断もできない。


 それが目の前の櫛はできていた。


 菜那は驚きつつも風紀委員に指示を出す。


「例の作戦で行動」

「「「「はっ!」」」」


 他の風紀委員は持ち場に着き、櫛を囲むように待機した。


 菜那は櫛に近づき、力で取り押さえようとする。


「舐めた真似を」


 櫛は菜那の攻撃を躱し、菜那の背後から腕を掴み、口を開け、首筋に噛み付いた。


「くっ、い、今だ!」


 一斉に風紀委員が二人の下に飛び出す。


「は、離さないよ」

「離しなさい」


 菜那は吸血状態のまま、櫛は抱きしめて拘束。


「舐めるんじゃないですよ」


 しかし、櫛は菜那の拘束を振り解き、向かってくる風紀委員を一人ずつ片付けた。


 その隙に菜那が死角から近づき、再度拘束。


 また、振り解かれる前の一瞬に薬を櫛に飲ませた。


「何を飲ませたのですか?」

「元に戻る薬」

「元に戻る薬?そんなものある訳がない」

「既に力がなくなりつつあるはずだ」

「まさか!?そんな」


 菜那はそのまま櫛を取り押さえた。

 見た目はまだ変わらないようだが、櫛が何かしても身動きは取らなかった。



 今回も静樹の時と同様に早期解決となった。

 男子生徒達は怪我をしたものの、致死的事態にはならなかった。


 男子生徒達は治療後に退学、櫛には処分はなかった。

 それは全て男子生徒達の自業自得だからだ。


 櫛は一週間ほど目覚めず、吸血鬼の姿は少しずつ人間に戻っていった。


 目覚めた後も二日休みを取り、検査などを行い、無事に健康状態を取り戻した。


 その翌日、学校に復帰した櫛はクラスメイトと再会する。


 心配する声が多かったが、櫛は何か変だと感じた。


 放課後、変異研究会にてその理由が分かる。


「それは貴方への恐怖ですよ」

「恐怖?」

「慎重に接しなければ、自分達でもやられてしまうというものです。僕も経験しました」


 朝花岳学園の一般的認識は暴走した変異者を止めること。

 それは通常の軽い暴走では問題なく解決することだが、一度大会すればそれで大丈夫だと思ってしまう。


 そこに自分達と同じくらいの生徒がやられたとなれば、それだけで認識は変わり、変異者を慎重に接しようとする。


 それがクラスメイト達の今の櫛に対する接し方である。


「でも、心配はいりません。その内、慣れるでしょう」

「分かりました」


 実際、静樹の時も同じことになっていたが、日にちが経てば、いつも通りに戻っていた。

 多分、特に何かしなければ大丈夫だと気づいたということだろう。


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