第三話 一年の変異者と変異研究会
月曜日
櫛は一年生にいるという自分と同じ変異者に会いに行く。
事前に静樹さんに聞いた名前で教室にいる男子生徒に聞いた。
「あの、西木野さんいますか?」
「西木野さんならあそこに」
「な、何を…」
そこには一人の女子高生が周りにいる女子高生に遊んでる?甘えてる?じゃれあっている?
とにかく異様な光景がそこにあった。
櫛は話をしようと近づこうとしたら…
「待って下さい」
男子生徒に止められた。
「今は女の園だから、男は入ってはいけない」
「はぁ?だったら、いつ終わるんだ?」
「多分この時間は無理だと思う」
「じゃあ、また来る」
「あんた、二年の転校生だろ?」
「何で…って俺らのことは知れ渡ってのか」
「まぁ、そういうこと」
櫛に限らず、変異者のことは全生徒に知れ渡っている。
その理由はいつでも対策できるようにするためだ。
「休みの時間じゃなくて、放課後の方がいいと思いますよ。五分くらいの話じゃないでしょ」
「まぁ、確かに」
「話はしとくんで、待ってくれたらそっちに行くと思います。後輩なんで」
「別に俺から行ってもいいんだが?」
「先輩後輩は大事だと思いますよ」
「わかった」
櫛は教室に戻った。
放課後、教室で待っていると
「貴方が佐多先輩ですか?」
名前を呼ばれ、声のする方を向けるとそこにはさきほど見た女子生徒がいた。
西木野さんだ。
「はい」
「少し移動する」
「どこに?」
「話しながらにしよう」
櫛はよく分からずに西木野さんについて行く。
先ほどとは全く違う雰囲気をしており、櫛は別人じゃないのかすら思っていた。
「既に知っていると思うが、私は西木野羽衣だ。貴方と同じ変異者」
「俺は佐多櫛」
「知ってる。変異者の情報は全生徒に知られている」
歩く先はどうやら教室で行わない特別室が並ぶ特別棟の方に行っている。
「私達は決まったところでしか会うことができない。誰か別の生徒が居れば別だが」
「決まったところ?」
「昨日、静樹先輩に会うのに屋上に行っただろう?」
「何故それを?」
「そこが決まったところだからだ」
「じゃあ、今から行くのは?」
「私達が活動する場所だ」
「活動する場所?」
「あーも、質問が多いな」
「すまん」
確かに質問攻めだ(文字としても?が多い)。
「その件は後で話す」
「分かった」
質問攻めも悪いと思いし、着いた後の方が話しやすいだろう。
「それにしても休みの時間にあった時とは違うなぁ」
「見てたのか」
そこで先ほど会ったのと違うことを言う。
そうすると、羽衣は顔に片手で隠すように置き、どこか照れたような、恥ずかしそうにも見えた。
「一つ言っておくと、あれは私ではない。変異によるものだ」
「まぁ、そうじゃないと普通やらないだろう」
「子どもでも中々しねぇよ」
子どもが甘える行為をしても、囲まれるほどの相手がいるとは限らない。
それだけ先ほどの光景は異常だ。
「私は《猫化》を持っている」
「だからか」
「だからかってなんだよ。猫だからって色んな猫がいる」
「でも、ペットの猫だろ?」
「基本的にそうなだけに暴れることはある。静樹先輩ほど難しくはないと思うが」
猫っていうのは今では犬同様ペットというイメージを持つが、同じように野良というイメージもある。
それにネコ科という扱いなら、ライオンや虎もその類に入る。
そういう点で言うと、静樹と羽衣は同じネコ科ということになる。
「元々人に縋るのが嫌いなんだ」
「確かに全身全霊他の人に預けてた」
「否定はせん。私達にとっては暴走した時ほど恥ずかしく、そして人を頼らないといけない。そういう場合は慣れるというより慣れないと生きていないと言った方が正しい」
「厄介なものを持ってしまったんだな」
「そういうことだ」
能力を持っているから特別な人間ということにはなるが、だからと言って今までよりも良いことがあるとは限らない。
二人が話していると
「ここだ」
あるドアの前で止まる。
羽衣がそのドアを開けた。
その部屋は◯◯準備室と同じくらいの広さで、周りに棚があり、そこにファイルが収められていた。
「静樹先輩?」
「やぁ、来たようだね」
そして、そこには静樹さんがいた。
「自己紹介は終わってるかい?」
「あぁ」
「では、変異研究会を始める」
その言葉とともに羽衣は静樹の向かい側に座る。
「変異研究会?」
「僕達が活動する部活。因みに変異者は強制的に所属しないといけないから」
「他の部活には?」
「やれないこともないけど、そんな時間はない。大会に出るってこともできないからね」
もし、部活で大会に出る場合注意する点は暴走する可能性があるからである。
たとえそれをしなかったとしても、変異研究会での活動の方が優先されるため、他の部活に時間を使えるは分からない。
「他にしたい部活でもあるのかな?」
「いえ、聞いただけです」
櫛は以前の学校で部活はしていたものの、別にしたくてやっていた訳じゃないため、ここでは部活はしないつもりだった。
「ではまぁ、変異研究会について説明しようか」
櫛は静樹の横に座る。
「変異研究会はその言葉通りに変異を研究する部活。活動内容は一日の自分の変異の状況を記録すること」
「それだけですか?」
「ないこともないですが、基本的に毎日行うのはそれだけです」
簡単に言えば、日記のようなものを書く。
その内容が暴走したかどうか、薬はちゃんと効いているかなど、その日による変異に関することを記録する。
「それとこれ」
「ん?アンケートみたいですけど?」
「まぁ、そんな感じかな。日記帳か普通のノートに状況を、これに状態を書く。その二つを自分専用のファイルに挟む。ファイルはあそこの棚に入れといて」
そこにはここに入る時に一度見た棚。
しかし、ここにいる人数よりも多く収められていた。
「既にいくつかありますけど、あれは?」
「ここにいた先輩達だよ。正直、いつから先輩達がファイルを収めるようにしたか知らないけど、とりあえずここにいた変異者は在学中の記録はここにある」
棚には数えるほどのファイルがある。
つまりはそれほど変異者がいなかったか、それ以前にもいたが記録してなかったかは分からない。
それでもこれは先輩達の研究成果であり、櫛達にとっての研究資料である。
「まぁ、とりあえず書いてみようか」
櫛は静樹に貰った紙を見る。
そこには簡単に言えば、健康状態を確認するアンケート。
特に変異に関することは書かれていないが、健康状態によって暴走する場合もあるからということだろう。
櫛は一つずつチェックしていく。
だるさや疲労はあるものの、病気や怪我はないため、至って健康だ。
そして次に
「終わった?」
「はい」
「じゃあ、変異の状況を見ましょうか?」
「何をするんですか?」
「例えば僕や羽衣さんは獣の類。体毛や爪、歯もあるかな。それが変異によって変化している可能性があるため、それを確認する」
変異者は変異による身体的変化が起こる。
それは通常の暴走とは違い、日々過ごすと自然と起こり、次第にその変異へと完全になってしまう。
そうならないために確認と報告をし、それを抑える薬を飲むか塗って、変異を遅らせる。
「と言っても男女ではできないと思いますが?」
「そうだね」
「でも、ここには他に女の人はいませんけど?」
「まぁ、いなければ一人で確認して貰うしかありませんが、問題ありません。女性はいますから」
「誰かを呼ぶんですか?」
「いえ」
そう言うと静樹さんは立ち上がり、異様に横に大きいロッカーの前に立ち、ノックした。