第二話 同じ境遇の先輩
翌朝、昨日が一週間始めの月曜日なので今日は火曜日。
「よし、他の人に迷惑かけないよう・・・」
と、心がけて行ったが、そう上手くいかなかった。
「どうやら、薬は飲めなかったみたいだね」
「はい」
現在、櫛は昨日と同じように風紀委員もとい風紀委員長の茜菜那の前にいる。
「やっぱり、余裕が無かったというか何というか」
「そうか」
櫛は吸血衝動で薬を飲もうとしたが、理性が吹っ飛んで、体が言う事を聞かない。
それを聞いて、悩む菜那。
「とりあえずは一週間、頑張ってくれ。一番良いのはお前自身が対処する事だ」
菜那が言う通りにもしも誰かが一々、加入しなければならないというのは良くない。
なので、自分自身が対処するのが一番良い。
「わかりました」
櫛は了解し、一週間頑張る事にした。
そして、金曜日になって櫛はというと・・・
「う〜ん、ダメか〜」
そう言うのは風紀委員長こと茜菜那である。
「なら、お前と同じ境遇の人、つまりは前に話したお前にとっての先輩にアドバイスを貰え、私から放課後に会えるように言っておく。それまでとその後の対策ができるまでは丁度お前と同じクラスの咲間透がもしお前が吸血衝動になっても薬を口に入れるから頑張って飲めよ」
「よろしく」
菜那に紹介されたのは咲間透と呼ばれた男子生徒。
透はそこまでチャラさは感じないが、風紀委員らしい堅苦しさがある訳でもない(風紀委員長である菜那もそこまで堅苦しさがある訳でもないが)。
「では、これで。透、あとは頼んだ」
「はい、わかりました」
菜那は透以外の風紀委員を連れて、部屋を出て行った。
「櫛、教室に戻るぞ」
「あ、あぁ、わかった」
櫛は透を付いて行き、教室に戻る。
放課後、櫛と同じ立場にある先輩に会いに行くのだが・・・。
「そういえば、俺は何処で先輩に会えばいいんだ?」
風紀委員長の菜那からは放課後に会うという事だけで場所を聞いてない。
「櫛君、君に用がある人が来てるよ」
教室の入り口近くにいた女子生徒がそう言う。
櫛は「誰なんだろう」と思いながら、入り口に向かう。
「櫛君、この人が君に用があるって」
女子生徒に紹介されたその人は男子生徒だった。
「やぁ、僕は君の一つ上の三年生で河州静樹だ。簡単に言えば、この学校で君と同じ存在ということだ」
「も、もしかして」
その男子生徒はイケメンとはいかなくても好青年という感じだった。
男子生徒を紹介した女子生徒は元々いた場所に戻った。
「あぁ、君が想像している通りだ。話があるから付いて来てくれ」
と、言われて櫛は静樹に付いて行く。
連れて来られたのは屋上。
屋上は金網で囲まれており、金網の材質はダイヤモンドに近い強度を持つ。
何故ここまでの強度を持つのは櫛や静樹のような存在が暴れても壊れたような強度が必要だからだ。
「それでは話をしよう。と、言っても僕の事が分かれば、想像もできるだろう?」
「はい、薬についてですよね」
「そうだ」
「やはり」と思うのと会う方法を知らなかったから「よかった」とも思う櫛。
「まずは自己紹介をしよう。僕は先程言った通り、君の一つ上の三年生の河州静樹だ」
「俺は佐多櫛です」
「あぁ、知ってるよ。風紀委員長に聞いたからね」
「まぁ、知ってるよね」と思う櫛ではあるが、自己紹介をするのは礼儀だ。
しかし、「俺は」というのは合っているのかどうか。
「僕は《豹人化》する、つまりは豹になるんだ。一応は人型だから豹人と言っているけど、厄介なのは狩猟衝動なんだ。豹は肉食だから人も食べる。豹がいるジャングルと違ってここは人が住む街だから余計に狩って食べようとする。だから苦労はわかるよ」
豹はジャングルに生息する肉食動物なのだが、吸血鬼との共通点と言えば、活動が夜である事や人を襲うという事だ。違う点と言えば、豹はネコ科で四足歩行、人を食用とする事であり、吸血鬼は人と同じ霊長類のヒト科で二足歩行、人を血を栄養源とする事。
まぁ、静樹の場合は豹は豹でも豹人なので四足歩行ではなくて二足歩行であるが。
「それでは俺よりも酷いんじゃ・・・」
櫛が心配してるのは襲った結果である。
吸血鬼の場合は血を限界まで吸われれば死ぬかもしれないが、救える可能性事態が無い訳ではない。
しかし、豹は食用として人を襲うのでほとんど死に直結するため、救えない。
「あぁ、その心配ないよ。だって豹って食用のために狩猟するだけであって、お腹すいていなかったらそんな事は起きない。僕のは豹が人を含んだ食用とされる動物を襲い、肉を噛む事が狩猟衝動となるのではないかと思う。だから君の吸血鬼の吸血衝動と比べればマシで、意外と被害も少ない」
静樹の狩猟衝動というのは生きるための狩猟衝動ではなく、狩猟という豹にとって大事な技術であり、肉食動物の狩猟はどのようにして獲物を捕らえるかという事である。
まぁ、静樹の場合はわざわざ隠れたり、何処か高い所に登る訳でもなく、ただ動物の肉を噛むという衝動である。
なので、被害が大きい訳でもない。
「まぁ、意外と薬入りの肉でどうにかなったりするけどね」
生物を噛むって言うのは死前でも死後でも動物の肉だったら対処は可能。
「で、問題なのは君の衝動だね」
「はい、それで俺は来ているから」
静樹は自分の説明が終わり、本来の目的に戻る。
「君の衝動は人間の血を飲む事だよね」
「はい、そうだと思います」
「それなら人間の血を飲めばいいんじゃないかな」
「えっ?」
櫛の吸血衝動が人間の血を飲む事であれば、人間の血を飲めばいい。
それなら、そもそも吸血衝動は起きない。
「何?」
「に、人間の血を飲むんですか?」
「だってそうでしょ。人間の血を飲む事が君の衝動であるなら」
「まぁ、そうですけど」
櫛が心配しているのは血を飲む事である。
やっぱり、血を飲むのは抵抗がある(騒動で何回もしているが、それは無意識に近いからである)。
「まぁ、確かに飲むたくはない。さらに病気になる可能性もある」
「なら…」
「君の場合は覚醒した方が楽かもしれないね」
「覚醒?」
「あぁ。まぁ、おおよそ分かるんじゃないか?目覚めるってことだから」
「まさか…」
櫛が予想するのは正に…
「吸血鬼になれってことですか?」
「そうだ。僕達…変異者と言われているが、その変異者は二つの状態になる」
「二つの状態?」
「そのまま呑み込まれる方と完全に克服する方がある。もし、僕達が呑み込まれたら、殺処分される可能性もあるから」
「えぇ!?」
櫛は驚いている。
というか、自分がそんな危険な状態にあるんだと気づく。
「そのためにここがある」
「そもそも朝花岳学園はどういうところですか?」
「君が知っているようにここは学外から優等生学校
と言われている。それは間違っていない。だけど、本来は僕達、変異者を最低限生きていけるようにするための学校。とはいえ、ほぼ変異する時期は今くらいの高校生。だから、転校という急な場合がある」
転校という点は櫛自身が体験している。
本当なら今も以前の学校にいたはず。
それが今では優等生学校の朝花岳学園にいる。
「俺は何をすれば?」
「菜那さんが言ってたと思いますが、特に何かすることはない。あえて言うなら、それを克服することかな」
「本当にそんなことでいいんですか?」
「でも、マシになるまでは大変だと思う」
何をしないなら楽だが、現状を考えるとそれはそれで大変。
「とりあえず話はこれくらいか。あまりアドバイスになっていないかもしれないけど」
「いえ、ありがとうございます」
「一つ言えるのは血を飲めるようになるのが一番だと思う」
「か、考えておきます」
「無理だけはしないでください」
期待した通りのアドバイスとは言えないが、それでも同じ境遇にいたというだけで、櫛にとっては軽くなった。
「それと一年生にも僕達と同じ人がいるから挨拶しといて」
「一年生にもいるんですか?」
「えぇ。少し扱いづらいところはありますが、あれはあれで大変ですよ」
櫛はどんな人なんだろうと思いながら、静樹と別れた。