表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/35

神様扱い

 神様。

 唐突に言われたそんな言葉に、ラルフは眉を寄せる。


「神様……ってどういうことだ?」


「へ? ラルフさ、神様さばさま言うてべ。アウリアリアの神様さ化身て」


「……ちょ、ちょっと、待ってくれ」


「へぇ」


 アウリアリア。

 それは、何度かタリアからも老婆からも聞いたことだ。ラルフはその意味を聞いて、タリアが「アウリアリア、強い。すごく強い。すごくすごく強い」と言われたことを覚えている。だから、純粋に強い戦士を指す言葉なのだと、そう思っていた。

 思っていた、のだが――。


「神様って……アウリアリアが?」


「せだべ。ラルフさ、知らねだか?」


「あ、ああ……ずっと、アウリアリアって何なんだろうって」


「アウリアリアさ、ひがすの一族さ伝わん神様だべ。戦士さ守護すん神様だ」


「……マジかよ」


 タリアからも、老婆からも、聞かれたことがある。

 お前はアウリアリアなのか、と。断片的に単語が分かるだけのラルフでも、それを聞き取れたことがあるのだ。

 その時点でラルフは、アウリアリアとは強い戦士を指す言葉なのだと考えて、頷いた。そうだと言ったのだ。

 まさか、それが神様などとは思わず――。


白い肌の女エティフゥ・ニクス・ナモゥ、ラルフ、何故落ち込んでいるィフゥ・クニス?」


東の女ツサェ・ナモゥ私はジュリ。

 ラルフの妻だエフィゥ白い肌の女ではないエティフゥ・ニクス・ナモゥ・オン


私は青い目のイ・エゥルブ・エィエタリア。

 お前は二人目とゥオィ・オゥトいうことを忘れるなヤス・グニフト・テグロフ・オン

 それよりタフト・モルフ質問に答えろノイトセウク・レゥスナ


「……ラルフ、アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ

 それは間違いないのかタフト・ニアトレク?」


何を言っているタフゥ・ヤス

 ラルフの武勇は神のそれだィレヴァルブ・ドグ・グノルスツ

 鼻長の群れを倒しエソン・グノル・ィナム・ンウォド背に乗る戦士だクキャブ・エディル・レイドロス

 人には持てないナムフ・エヴァフ・オン石の棍棒でエノトス・ブルク鼻長を一撃で倒すエソン・グノル・ウォルブ・ンウォド

 まさしくィルニアトレクアウリアリア神の所業だろうドグ・ツカ・ッリゥ


 タリアとジュリが、そう会話を交わす。

 その会話の中に、何度も「アウリアリア」が出てきたことから、恐らくラルフが本当に神様なのかどうか確認しているのだろう。

 神様とかではないのだけれど――。


「タリアさ、ラルフさ神様でん言うてべ」


「……何故」


「エソン・グノルの群れさひといで倒しで、背中さ乗っだん神様さおごないらしべ」


「……いや、別にそんなに強くなかったけど」


「……本気さ言うでだか? エソン・グノルさ一匹で集落壊すべ。戦士さ何人行っでもおっ死ぬだけだべ。人にさ殺せん」


「……」


 ラルフは、自分が強い自信はある。

 だけれど、それが人間を凌駕したものであるかと問われると、よく分からない。何せずっと戦場にいたものだから、強さの比較対象がいないのだ。大体の奴は、ラルフの目の前に現れたら殺していたし。


「大体、俺が使った棍棒だって、この集落で借りたものだ。あれだって使える奴がいるってことだろ?」


「どさ?」


「ああ、あれだが――」


「……あがいなん、持でるべか? ありえね」


 集落の入り口に立てかけておいた、エソン・グノルの群れを倒した棍棒。

 それを示すと共に、うげぇ、とジュリが眉を寄せた。

 うぅん、とそこでジュリが腕を組み、考えるように顎に手をやる。


「ラルフさ、神様でねぇだんな?」


「ああ、俺は人間だよ。帝国生まれの軍人だ。ずっと戦場で戦ってた」


「でんも、神様さごどすんとええやん知らん」


「……へ?」


 後半はよく分からない。

 本気で通訳の通訳が欲しい――そう思ってしまう。


「わすらさ、ひがすの一族さ嫌われでんべ」


「そう……なのか? いまいち、それがよく分からないが」


「づんつぁさ、昔ひがすの一族がら、よんめごさ奪っだべ。わすのばんばぁだんべが、そんときとづぎさ決まっでだべ」


「……よんめごを、奪った?」


 よんめごとは、つまり世話係だ。

 なるほど――そこで、繋がる。ゲイルが「まんだ、レドレさ許しでぐれでねだな」と言っていたのは、ゲイルが来たばかりの頃、世話係を東の一族から奪ったことなのだろう。

 だから、東の獅子一族からすれば、白い肌の一族は人攫いの印象があるのだ。


「でんも、ラルフさ神様だでごどすんと、神様さ言うごどだべ。ひがすの一族に、づんつぁさ許しでもらえんしらん」


「……なるほど。今も許してない婆さんに、俺が神様ってことにして、許してもらうってことか?」


「んだ。神様ん言うごど、ひがすの一族さ従うべ」


「……」


 確かに、妙な感じではあった。

 エソン・グノルを倒したときに、ラルフはまるで神様みたいな扱いを受けた――そういう印象だったのだ。あれが新しい部族の一員を歓迎する儀式のようなものなのだろう、と思ってはいたけれど、実は神様として崇められていたのだろう。

 ということはつまり、今の時点でラルフは彼らから、神様だと信じられている。


「……つっても、俺は別に大したことができるわけじゃないぞ?」


「何さでぎんべ?」


「そりゃ、エソン・グノルを倒したりとか」


「十分だべ。ひがすの一族さ、強ぇおんさ偉ぇ。ありえね強ぇおんさ神様だべ」


「……そんな単純でいいのか?」


 強ければ偉い。

 確かに原始的な集落だし、そういう考えも分からないでもないが――。


長老レドレ! 族長エビルト・レダエル

 大変だエルビッレト!」


 唐突に、そう東の獅子一族の若者が、叫ぶ声が聞こえた。

 当然ながら、何を言っているのかは分からない。


「ん……何かあったのか?」


「ラルフさ、呼んでんべ」


「俺を?」


「なんぞあっだみでぇだべ。大変さ言どる」


「ん……?」


 はぁ、はぁ、と息を切らせながら、若者が老婆のところへ行く。

 そして、老婆とラルフを交互に見て。


川向こうにレヴィル・エレフト牙虎が大勢いるグナフ・レギト・ィナム・エブ

 群れでこの集落をィナム・タフト・エガッリヴ襲ってくるつもりだクカッタ・エカム・ノイトネトニ!」


牙虎だってグナフ・レギト

 ジャックは一体どうしたんだいエレフゥ・エブ


「ジャックは今ウォン草を食わせに離れてるッサルグ・タェ・エヴァエル

 村の若者が連れてったエガッリヴ・グノオィ・ツォ・エカト

 ウォン、ジャックは集落の近くにいないエガッリヴ・ラェン・オン!」


本当かいィッラエル……参ったねネタェブ


 はぁ、と溜息を吐く老婆。

 だけれど、ジュリは何か企みでもあるかのように、にんまりと笑みを浮かべていた。


「ラルフさ、エソン・グノルさ倒せんべ?」


「……ん? ああ、倒せるが」


「グナフ・レギトは倒せんべか?」


「それは何だ?」


「でけぇ虎だべ。おっかねぇ牙あんべ」


 ふむ、と想像する。

 虎ならば、昔ジャングルでゲリラ戦を行ったとき、何度か倒したことがある。もっとも、倒したあとに解体して食べようとしたけれど、肉が臭くて食べれたもんじゃなかった。


「まぁ、倒せるだろうな」


「なんら、話さ早ぇべ」


 ばっ、とジュリが右手を掲げる。

 背の小さなジュリが手を上げても、それほど目立つわけではないが。


ッラ聞けラエフ

 族長でありエビルト・レダエルアウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ、ラルフ!

 これよりツサブ牙虎を倒すグナフ・レギト・ンウォド

 神の御業を見るがいいドグ・ラヴォフ・エェス・ドォグ!」


おぉ!!」


族長エビルト・レダエル!!」


「アウリアリア!!」


族長エビルト・レダエルっ!!」


「……」


 ジュリの宣言で、何やら盛り上がっていたが。

 とりあえず、ラルフが『おっかねぇ牙を持つ虎』を倒すことは、決定したらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] すとーりーはとてもいい [気になる点] 見知らぬ土地で言語も通じない人達相手に元々単なる一般人が戦争に参加し、無双の強さを誇ったとしても短期間でアタ新しい言語を覚えれる知恵があるは違和感だ…
[一言] おっかねぇ牙持つ虎… いわゆる『サーベルタイガー』ですかね? ジャックが村から離れた隙にやってくるとは知恵がまわりますね… まあ、村にはエソン・グノルよりもおっそろしいアウリアリアの化身が居…
[一言] 猫逃げてー!? そらドラゴンころしのようなネタ武器持てたら神扱いもやむなしかとwww
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ