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儀式

 夜の帳が落ち、集落の中央広場に火が焚かれている。

 そんな中を、ラルフは両方に集落の人間たちが頭を下げている道――そんな、どうしようもなく歩きにくい道を、火に向けて歩いていた。

 ラルフの僅かに後ろを、タリアと老婆が続いて歩く。最初はタリアに先に行くように言ったのだが、「ラルフ、ピト行くオグ」とタリアが譲らなかったのだ。

 一体何故、こんな風に崇められるような感じになっているのだろう。


「……もしかして、これが部族に新しく入った人間を歓迎する風習なのか?」


 考えてみるが、当然ラルフに分かるはずがない。

 とりあえずラルフに現状分かるのは、タリア曰く真っ直ぐ火に向けて進むことだけだ。

 焚かれた赤い光の向こうに、大きな毛皮――柵の向こうに見えるそれは、ラルフに従ってくれた象、エソン・グノルだ。

 何か名前でもつけてやった方がいいかなぁ、とは思うが、もしかすると今夜には逃げ出すかもしれないし、特に気にしなくていいかもしれない。

 そう考えながら歩き、ラルフはようやく巨大な焚き火の近くへとやってきた。


「アウリアリアドグ

 あなた様の化身をルム・ゥオィ・ノイタンラクニ連れて参りました・フティゥ・エモク


 火に向けて、厳かにそう告げる老婆。

 当然、ラルフには何を言っているか分からない。だが周りの部族民たちも同じく、「アウリアリア。アウリアリア」と呟いている。

 アウリアリアって結局何なんだろう――そう、ラルフは首を傾げた。


東の獅子一族にツサェ・ノイル・エビルト化身をおノイタンラクニ遣いくださったことノイタゲル・エヴィグ心より感謝いたしますペェド・エドゥティタルグ

 アウリアリア神の加護の下ドグ・エスネフェド・ンウォド我々に鼻長の肉をエゥ・エソン・グノルお与えくださった・タェム・エヴィグことに感謝いたします・グニフト・エドゥティタルグ


感謝いたしますエドゥティタルグ


「アウリアリア神の化身ドグ・ノイタンラクニ、ラルフは今後ノ・ウォン東の獅子一族をツサェ・ノイル・エビルト率いる族長に・ドナッモク・エビルトなっていただきます・レダエル・エモセブ

 アウリアリア神の御心のままにドグ・トラエゥ・ニアメル

 我々の心をエゥ・トラエゥ、アウリアリア神に捧げますドグ・レッフォ


捧げますレッフォ


 老婆に続く言葉は、部族民全員で。

 いつの間にか顔を上げ、ラルフの後ろで集うように両膝をつき、全員で合唱している。どういう風習なのか、まるで理解ができない。

 ラルフもやった方がいいのだろうか――そう思ってタリアを見やると、ゆっくりと首を振られた。

 老婆も、部族民も、タリアも全員両膝をついているのに、ラルフだけが立っている。


我ら東のエゥ・ツサェ・獅子一族の御印をノイル・エビルト・クラムあなた様のルム・ゥオィ・化身に預けますノイタンラクニ・エヴァエル

 どうかエサェルプこれからノ・ウォンも我らにご加護を・エゥ・エスネフェド


ご加護をエスネフェド


ふぅ……」


 老婆が立ち上がり、その頭――額に巻いていた七色の羽飾りを外した。

 そういえば、他の部族民は誰もつけていないのに、老婆だけついているな、とは気になっていた部分だった。

 老婆はそれを、ラルフへ向けて両手で渡してくる。


受け取りなテグ


「……? え、俺?」


ああセイそうさトフギル

 これは族長の証シフト・エビルト・レダエル・フォォルプ本来ィッライトネッセこれを持つべきはシフト・エカム・ドルオゥス部族で一番強い男だエビルト・ネオ・グノルツス・ナム

 こないだイルトネセル死んじまったからエイド・エム・ッセルブ・オス仕方なくあたしがイグニッリゥヌ・イ持っていただけさねエヴァフ・ィルノ

 七色の羽はウォブニアル・グニゥ森の奥でも族長がトセロフ・クキャブ・エビルト・レダエルどこにいるか・ネフゥ・エブ・教えてくれるフキャエト・エヴィグ

 闇夜の中で道標になるクラブ・トゥギン・エディウグ・エモセブ

 獣に見つかってもトサェブ・ドヌオフ・エブ倒せるだけの・ンウォド・ィルノ武勇を持つ者しかイレヴァルブ・エカト・ナムフこの冠を被るタフト・ンウォルクことはできないラエゥ・グニフト・ナク・オン


「……相変わらず、何言ってるか分かんねぇ」


 老婆は早口かつ、言葉の癖が強い。理解できたのは最初の「ああセイそうさトフギル」だけである。

 とりあえず、ラルフに渡すと言うならば受け取るのが礼儀だろう。これが恐らく、新しい部族の一員を歓迎してくれる儀式みたいなものだと思う。

 ラルフが冠を受け取り、自分の頭につける――それと共に、歓声が沸き起こった。


族長エビルト・レダエル万歳レェゥク!」


最強の族長だトソム・グノルスツ・エビルト・レダエル!」


神の化身がドグ・ノイタンラクニ我々の族長だエゥ・エビルト・レダエル!」


「……?」


 意味が分からない盛り上がりに、ラルフは戸惑う。

 そんなラルフの様子がおかしかったのか、老婆がウシャシャ、と笑った。


さぁエレフ宴を始めるよラヴィトセフ・ニゲブ

 お前さんは主役だゥオィ・レトネク、ラルフ。そのあたりに座っとけドヌオラ・ティス

 お前さんにラム・ゥオィ優先的に肉を届けるよトスリフ・タェム・レヴィレドうに言っておくからね・エキル・ヤス・エクニス


「え……」


「ラルフ。ここエレフ座るティス椅子リアゥク


「あ、ああ。座ればいいのか? ありがとうゥオィ・クニフト、タリア」


 老婆の言葉が分からないラルフに、タリアが近くの椅子を示してくれた。

 椅子といっても、草の蔓を編んだものだ。割と作りはしっかりしており、ラルフが腰掛けても壊れる様子はない。

 しかし、何故ラルフだけ椅子に座っているのだろう。他の皆には、特に椅子など用意されていない様子だ。

 新入りだから、歓迎の意味で椅子に座らせてくれているのだろうか。


預言者テフポルプジャリエからエクニス部族の女エビルト・ナモゥ皆に伝えておくッラ・ッレト


「……」


 唐突に、老婆がそう全員を睥睨して告げる。

 それと共に、老婆を見るのは部族の女だけだった。男は特に気にしない、といった様子で肉を切り分けたり、土でできた器に水を入れたりしている。

 タリアもまた、真剣な眼差しで老婆を見ていた。


族長の妻はエビルト・レダエル・エリフ、タリア。

 だがツブ強い男の妻はグノルスツ・ナム・エリフ何人いてもいいウォフ・エブ・ドォグ

 強い戦士のグノルスツ・レイドロス子種を授かり・ドリフク・エヴィグ強い子供をグノルスツ・ディク育むのが女の仕事だ・エシアル・エモゥ・クロゥ

 旦那に先立たれた女はドナブスゥ・エイド・エモゥ、ラルフの妻になれエフィル・エモセブ

 未婚の女はエルグニス・エモゥラルフの妻になれエフィル・エモセブ

 東の獅子一族はツサェ・ノイル・エビルト、ラルフの子を育むことディク・エシアル・を第一とせよトスリフ・オド

 最初にトスリフラルフの子を授かった女をドリフク・エヴィグ・エモゥ族長のエビルト・レダエル・正妻とするトフギル・エフィル・オド


はいセイ!」


「……何度も俺の名前言ってるけど、何て言ってんだ?」


 首を傾げ、タリアを見る。

 タリアの方は、どことなく不機嫌そうに周りの女を見ていた。そして、部族の他の女も同じく、タリアを見て不機嫌そうな素振りをしており、そしてラルフの方を見てにっこりと微笑み、手を振ってきた。

 微笑んでくれるということは、悪い感情を抱かれるようなことを言ったわけではないだろう。とりあえず、ラルフの方も手を振り返しておいた。

 きっ、と何故かタリアがラルフを睨み付ける。


「ラルフ! タリア、いいドォグ言ったヤス!」


「……へ?」


「ラルフの妻はエフィルタリア! 他の女がレフト・エモゥ手を出すのは認めないドナゥ・ツオ・ティムダ・オン

  ラルフの子を授かるのはドリフク・エヴィグ、タリアの仕事クロゥ!」


「……いや、だから早いんだけど」


 タリアの、この興奮すると早口になる癖、どうにかならないものだろうか。

 とりあえず、今のところは理解できないけれど、そのうち分かってくるだろう。どうせこの先、長くこの集落にいることになるのだ。のんびり言葉を覚えていけばいい。

 そう考えているうちに、ラルフの目の前に火で炙られた肉――恐らく象の肉が、巨大な皿に乗せられてやってきた。


族長エビルト・レダエル! 肉焼けたタェム・ンルブ! 食べろタェ!」


「おぉ……!」


大きいギブ! これがシフト鼻長の肉エソン・グノル・タェム!」


 まだ、ぱちぱちと表面で弾ける脂。

 ごくりと、思わず唾を飲み込む。そういえば朝から何も食べていない、と今更ながら思い出した。

 そして同時に、渡される水の入った盃。

 こういうときには酒でもあればいいのだけれど、恐らく酒を飲む文化は今のところないのだろう。


さぁエレフ宴だラヴィトセフ

 食べて飲んでタェ・クニルブ歌って踊って騒ごうグニス・エクナド・エシオン!」


おうセイ!!!」


 そして――夜通しの宴が、始まった。

本日より、『帝国の黒い悪魔、流刑に処された先で原住民たちの神となる~最強過ぎる武勇は、神の御業と区別がつかない~』は火曜、金曜の週2更新とさせていただきます。

これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宴じゃー!!! マンモス肉パーティーやー!!! 主役が理由を理解してませんが(笑) 族長には部族で一番強い男がなる… え?婆さん生き残りで一番強いの?? それとも、代理は別の理屈で就任なん…
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