りんけーじ86 深海へ
りんけーじ86 深海へ
見渡す限りの大海原に、ポツンと影を落とし飛ぶものがいる。
それは、ちっぽけに見えたが、近づくとかなりの巨体である。
えるは、竜の眼で見た、鈴乃たちの残像を頼りに、翼を羽ばたかせる。
「しかし、鈴乃たちとはずいぶん離れたものじゃな」凜が風にツインテールをなびかせる。
「そうですねぇ、えるちゃんの速度でもこんなに、かかるんですね」あかねが、水平線を眩しそうに見つめる。
「わたしが見た、鈴乃たちのいる場所はもうすぐですよ」えるが首を傾けた。
「ほお、そうか、えるよろしく頼むぞ」凜がえるに答えた。
「あれ、見て下さい凜さん。あそこ、何か海の感じか違う」あかねが遠くの方を指差した。「なんじゃ、あかね」凜はあかねが示す方に目をやった。確かに、海の流れがある場所を境に綺麗に分かれている。
「ほお、あれは潮目じゃな」凜は海の流れを見た。
「しおめ?」あかねが怪訝そうな顔をした。
凜はあかねに説明した「うむ、いかにも。異なる方向に流れる潮のぶつかり合う潮の境目のことじゃ」
「へー、海の波って一つの方向に動いてるわけじゃないんですね」あかねは凜の博識に感銘した。
「うん、あそこだ」えるも潮目を認識した「あの流れのぶつかる下の深い場所に鈴乃さんたちがいます。これから、海に潜りますよ!」そう言うと、えるは、体を90度傾けた。
えるは海に向かってぐんぐんスピードを上げて行く。
「ひええ、え、えるソフトに頼むぞ」凜は涙目で、えるにしがみ付いた。
「す、凄いスピード~えるちゃ~ん!大丈夫!?」あかねもえるに頬を押し付けた。
「大丈夫です!我が魔力で2人ともお守りします」えるは、楽しそうだった。
水面が間近に迫った瞬間、凄い衝撃音が鳴り響き、やがて静かになった。
「2人とも平気ですか?」えるが確認した。
ホントに、体は大丈夫だ。えるの力で守られていたらしい。あかねは眼を開いた。えるは、静かに海底に向かって進んでいく。
凜の方に目をやると、凜は目を回していた。
「わ、わたしは、大丈夫、凜さんは、気を失っているみたい」あかねはえるに答えた。
「あれ、ますたーには、刺激が強すぎた様ですね、目を覚ましたら謝らないと」
えるは頭を竜の爪で掻いた。
海の中も最初は明るく、魚が気持ちよさそうに泳いでいるのが見えた。
更にえるが潜っていくと、徐々に日の光が届かなくなり、やがて広大な漆黒の空間が広がりだした。
あかねは得体のしれない不気味さを感じぶるっと身震いした。
「そう言えば、深海って、宇宙に行くより困難だって、どこかで見たな」
あかねは、そう考えながら深淵に目を凝らした。
「?」暗闇に中に時々光るものがあった「あれ、何だろう?」
ようやく、眼を覚ました凜がむっくりと起き上がった「なんじゃ、何かあったのか?ここはどこじゃ?」
「ああ、凜さん。今は海の中です」あかねは、凜の方を見た。
「おお、えるの背中じゃったのう」凜は眠た気に目を擦った。
「ますたー、起きられましたか、すみません驚かせてしまって」えるは、凜に謝った。
「ちょ、ちょっと、ハードじゃったのう、このじゃじゃ馬のえるめ!」凜はぷくっと頬っぺたを膨らませ、軽くぺちっとえるの体を叩いた。
「えへへへ」えるはポリポリと爪で頭を掻いた。
「海の中か、しかし真っ暗じゃのう。まるでわれの心の中と同じ漆黒の暗闇じゃ」凜が左手を顔に当てて、格好を付けた。
「でも、時々何かが光るんですよ」あかねは下を覗き込んだ。
「な、何かいるのか?」凜はビクっとして、あかねの後ろに隠れ肩にしがみ付いた。
確かに、暗闇の中で時折フラッシュの様な光が煌めいた。
「深海には、何がいるのか、わかりません。何か発光する生物でしょうが、得体は知れません」えるは警戒した。
「むむむ」凜は、あかねの肩を掴む力が強くなった。
「!!」その時だった。突然、えるの体が激しく左側に付き飛ばされた。
「きゃあぁ」凜とあかねは悲鳴を上げた
「何?」えるは、態勢を立て直そうとした。
が、更に激しく下から突き上げられた「グハッ」えるは、コントロールを失い、海の底に沈んで行った。
「ますたー、あかね…」薄れゆく意識の中、背中の2人を心配した。




