りんけーじ81 魚の様に
りんけーじ81 魚の様に
「そりゃ!」マリスはそう言うと、どっぽーんと海に飛び込んだ。
一瞬マリスの姿が海中に消えたが、ざばっとマリスが海面から顔を出した。
「ええか、最初は怖いかもしれんけど、水の中に入ったら自分を、まあ、例えて言うなら、魚になったと思うんや。そしたら、水を吸い込む。そして、顎の下のエラからふーっと水を吐き出すんや。これを繰り返すたら息が楽になるさかい。ほな、みんな海の中へ!」マリスはみんなを誘った。
「だ、大丈夫ですかね!?」あかねはちょっと、たじろいだ。
「わらわの、力を信じんか!」マリスはトンと、自分の胸と叩いた。
「それに、溺れるようなことがあったら、わらわが助けるさかい!はよう、はよう」
「ふーむ。じゃあ、われが一番乗りじゃ!える行くぞ!」状況を窺っていた、凜はえるの手を取った。
「はーい、ますたー、行きますか~」と、いつもの様にえるが返事を返すと思ったが、えるは下を向いている「………」。
「どうしたんじゃ、ゆくぞ!える!」凜が確認した。
れるは内股になり、その足はガクガクと震えており、俯いた顔の表情は窺えないが、汗がぽたぽたと地面に滴り落ち、はあーっ、はあーっと肩で息をしていた。
「おぬし!?」凜がえるの表情を確認しようと、心配そうにえるの顔を横から覗き込んだ。
「ま、ますたー…」やっとえるは口を開いた。
「なんじゃ?」凜がえるに優しく答えた。
えるは凜を握る手にぎゅっと力を込め、「はあーっ」と一度深呼吸をした。
えるは、ぎこちなく凜の方に顔を向けると、「じ、実は…、」と続けた。
「言ってみるのじゃ」凜が、促がした。
えるの瞳はうるうるとし、やがて大きな雫が滴り落ちた「地竜である、わたしは水が大の苦手なんです」
「…」一同意外な展開にあっけに取られた。
暫し時が流れた。
やがて凜が「大丈夫じゃ、われが付いているではないか!それにいざと言う時はマリスが助けてくれるんじゃから、以前のおぬしとマリスの間柄では、何があるがわからんが、今はマリスもおぬしを慕っておるのじゃから、信じよう」と言うと、えるの頭を優しく撫でた。
「ま、ますたー」えるは、ぴえーんと号泣し凜にしがみついた。
「では、参るぞ」凜は、えるに確認した。
「はい、ますたー」えるは凜にしがみ着いてまだ少し震えていた。
「ていっ!」と、凜はえると共に海に飛び込んだ。
えるは「きゃあ」えるらしからぬ叫び声を上げた。
ばっしゃーんと、音がして2人は水中に姿を消した。
「や、やっぱり怖い」水中の中では、凜にしがみ着いたえるがジタバタと暴れ出した。
凜も一瞬肺呼吸ができない息苦しさを感じたが、マリスに言われたとおり、恐る恐る水に口を含んだ「普通なら、これで溺れるところじゃ」凜の脳裏に一瞬よぎった。
そして、顎の下のエラから水を吹き出してみた。
「おお」凜はそれまで、息苦しかったのがウソの様に、呼吸が楽になって来るのを感じた。
「える大丈夫じゃ、水を吸い込んで、エラから吐き出してみい」凜はジェスチャーを交えながら、心の中でえるに向かって念じた。
それまで、苦しそうに暴れていたえるは、凜に頷き、水を吸い込むと、エラから水を吐き出した。
「親分はこれで、大丈夫やな…」一連の様子を近くで見守っていたマリスはほっと安堵の表情を浮かべた。
「あれ、全然苦しくない」えるは、驚いた顔をして、凜を見た
えるが落ち着くと、凜はニコッと微笑んで、えるの手を取ると、海面に浮上した。
「皆の衆、大丈夫じゃ!これこの通りわれも、えるも無事に水中で呼吸できるぞ」凜は地上にいる俺たちに手を振った。
「どうやって、こきゅうするんですかあ?」あかねが、口を両手で囲い凜に向かって尋ねた。
「マリスに言われたとおり、口から水を吸い込み、エラから吐くんじゃあ」凜は手を振った。
「わっかりましたー」あかねは答えた。
「じゃあ、後はみんなで一斉に飛び込みますか!」あかねはみんなに言った。
「そうね、行きましょう!ヴァール、円正寺君」鈴乃はあかねとヴァールの手を取った。
「円正寺さんも..」ヴァールは俺の手を取った。
心なしか、ヴァールの横顔を見ると、透き通った頬が少し赤くなっている様だった。
俺はヴァールのガラスの様にひんやりと冷たいが柔らかい手の感触を感じながら、幽霊であることを再認識しつつ、一方で女の子に手を握られて、ちょっとドキドキする複雑な心境になった。
「それじゃあ、1・2の3で行くわよ!」鈴乃が確認する様に言った。
みんな頷いた。
「いち、にーの、さんっ」鈴乃の掛け声と共に一斉に海中に飛び込んだ。
どぼんと海の中に入ると、口の中に息を貯めていたが徐々に苦しくなってきた。
横を見るとヴァールは、早速、水をすうっと、吸い込みエラから泡と共に水を吐き出していた。
俺も恐る恐る、水を口に含ませると、エラから吹き出してみた。
息が…く、苦し...く、あれ、無い?水を吸いこみ、エラから吐き出す一連の動作を繰り返すうちに息苦しさは無くなり、普通に呼吸している様だった。
鈴乃も最初は喉を押えて、片手を上に突き出し、その手を震わせて苦しそうだったが、あかねが、先に順応し、コツを手ほどきして、徐々に慣れている様だった。
凜とえるの2人はもうすっかり慣れた様に、スイスイと水中を泳いでいた。




