りんけーじ80 海の女神マリスの力
りんけーじ80 海の女神マリスの力
「えーっ、何はともあれスフフシェルを探しに行く運びとなったわけだ」俺は、瞳を閉じてみんなに言った。
「左目の周りに青あざを作って何かっこつけてんねん」マリスがケケケと笑いながらおれを指差した。
「コホン」と、俺は咳払いした「これから海の中に入ってく訳だが、当然俺たちは海の中では息ができない」
「そうですよ、おぼれて死んでしまいます」ヴァールが言った。
「普通の人間はそうじゃが、ヴァールお主は幽霊じゃろ」凜が突っ込んだ。
「あっ!」ヴァールはたじろいだ。「そ、そうでした。わたしは死んでいるんですよね、皆さんとは違うんですよね」「人間の皆さんと普通に生活しているうちに自分が幽霊であることなど、すっかり忘れていました」と言うと、うっすら瞳に涙を浮かべた。
「どうせ、わたしは幽霊なんですっ!皆さんとはちがうんですっ」ヴァールは泣きじゃくって言った。
「そ、そんなこと無いわよね~、私だってヴァールが幽霊だってこと忘れてたもん!ね、円正寺君!」俺の左目の周りに見事に右ストレートを喰らわせて青あざを作った張本人が言った。
「そ、そうだなー、俺たちもヴァールが幽霊だったなんて忘れていたし、普通の女の子と変わらなかったよ」俺はヴァールを慰める様に言った。
「ほ、ほんとに?」しゃくり上げていたヴァールがちらりと俺の方を見た。
「ほ、本当だよ、かわいい普通の女子高生だよ」俺は、力を込めた。
ヴァール「はーっ」と、深く息を吐くと、「そうですか」と、言って涙の溢れている瞳でニコッと笑った。
「でも、最近ときどき思うんです。生身の人間に戻れたらなぁ..って」ヴァールは右手を胸に押し付けながら苦しそうに言った。
「人間の戻るかあ…」そんなことは無理なんじゃないか?俺は心の中で呟いた。
「アハハ!無理ですよね」ヴァルハ寂しそうな微笑みを浮かべた。
「う~ん、できんこともないなあ」
その時誰かが言った。
「!?」俺とヴァールはきょろきょろと辺りを見回し、誰が言ったのか探した。と、言ってもイントネーションで察しが付いていたのだが。
「何とかなるのか?マリス」俺はマリスに問い質した。
「まあ」マリスは答えた。
「どうすれば?」ヴァールはマリスにすがり着いた「どうすれば、人間にもどれりんですか?」
「それは、スフフシェルを見つけてからの話にしとこか」マリスは、ヴァールの頭をなでた。
「わ、わかりました」ヴァールの瞳を希望に輝いた。
「それでは、話を戻すとしよう。えっと、水中で息ができないと言うところだったな。
「どうやって、探すんですか?」あかねが心配そうに言った。
「海の女神であり海竜であるマリスに、海でも呼吸ができる様に、してもらう」俺は言った。「具体的には、マリスの力で、水中から酸素を取り込めるエラを付けてもらうんだ」
「エラって、魚に着いているあれですか?」あかねがパタパタと魚の真似をした。
俺は頷いた「マリスに、一時的にエラを着けてもらうんだ」
「そんなことできるんですか?」あかねはキョトンとした表情を浮かべた。
「まあ、わらわならできるで」マリスは、自慢げに言った。
「へーっ、興味深いわね」鈴乃が人差し指を顎に当てた。
「われも、改造人間半魚人の仲間入りじゃな」凜が嬉しそうに瞳を輝かした。
「ほな、皆に術を掛けるやさかい、近う寄ってや」マリスは皆に手招きした。
みんなが近くに寄るとマリスは両手を組み呪文を詠唱し始めた「古の青き海の神々よ…」
マリスが呟き始めると、穏やかだった、夏のあさの海は急にどこからともなく黒雲が湧き始め、太陽は遮られ、冷たい風が吹き始めた。
マリスは更に続ける「わらわに力を与え給え…この者たちに海で生きる術を与え給え...」黒雲が空を覆いゴロゴロと雷鳴が轟始めた。
そんな中マリスの詠唱だけが響いた。
暗くなった空にごうごうと突風が強く吹き荒れ、稲妻の閃光が雲間を駆け抜けた。
「…アスペクタス!」マリスがそう叫ぶと一瞬周囲が目が眩むほど輝くと共に「ドオオン!」と激しい音がして、俺たちは凪飛ばされた。
「ううう…」気が付くと俺は砂浜に倒れていた。
暫く気を失っていた様だ。ふらふらと立ち上がり周りを見回すと、何もなかったような夏の朝の海辺で、鈴乃たちも、意識を取り戻した様だった。
「どや?」マリスが近付いてきて俺に尋ねた。
「どうって!?」俺はマリスに聞き返した。
マリスは自分の耳の下をなぞってみせた。
俺も自分の耳の下をなぞった「ん!?」何か違和感を感じる。
何というか小さい穴が開いている様だった。
「あっ」起き上がって髪をかき上げた鈴乃の耳の下を見てみると小さなエラができていた。
閉じているので目立たないが、魚の様に開閉できるらしく、確かにエラだった。
「はぁ~」起き上がったあかねも鈴乃のエラを見て、自分のエラを触って確認していた。
「やったぞ!これでわれも改造人間エライダーじゃ」凜が両手を腰に当てて、自慢げに言った。「われはエライダー1号じゃ!えるはエライダー2号じゃな!」凜はえるのエラを擦った。
「そうですね」えるは凜に答えた。
「どやあ、凄いやろ!わらわの力は」マリスがドヤ顔を浮かべて、ニンマリ笑った。




