りんけーじ70 海のごちそう
りんけーじ70 海のごちそう
食材となるタコの化け物とテラ・ゴストムは調理場にゴトゴトと運ばれた。
調理に当たって鈴乃の強い希望で海の家の店員に作り方を教えてもらうことにした。
「ええっと…じゃあ最初は、ポテスト・ポリパスの丸々焼きを作りましょう!」鈴乃がタコの怪物を指差した。
「はい、頑張ります!」ヴァールが嬉しそうに微笑んだ。
このタコの怪物そういう名前なんだ…俺は、張り切るヴァールを見て思った。
「じゃあ、ポテスト・ポリパスを切りますよ~!」ヴァールは調理場にあった体の大きさほどある大剣を取り出すと体の後ろに振りかぶった。
「剣が調理道具?」あかねは訝しんだ。
腰を低くして構えると「えいっ!」と言う叫び声と共にタッと!タコの怪物めがけて飛び上がった。
ヴァールの透き通る体が頭上に舞い上がり、太陽と重なるとギラっとした眩しさで、みんな一瞬目を閉じた。
シュウォーンと言う、剣の金属特有の共鳴音がした。
目が慣れると、ヴァールがタコの化け物の反対側に片膝を立てて着地していた。
「!?」何が起こったのかみんな分からなかった。
次の瞬間、ポテスト・ポリパスがドサドサとぶつ切りになっていた。
「へーっ!ヴァールこんな特技も持っていたのね!?」鈴乃がヴァールの見事な剣裁きに感心した。
「えへへ」ヴァールは照れ笑いした。
「そうしたら、切った食材を塩水で洗うので、手伝ってくれませんか?」ヴァールは、みんなの方を見回した。
「じゃあ、われがやるのじゃ!のう、えるも手伝ってくれるかの?」凜が手を上げた。
「はい」えるが凜に微笑んだ。
「親分がやるなら、わらわもやります!」マリスがえるにとっとっとっと近づいて、腕に絡みついた。
「ぐぬぬ、お主は何じゃ!えるはわれの眷族じゃぞ!放さんか!!」凜がえるのもう片方の腕にしがみ付いた。
「何を言うとる!えるはんは、わらわの親分やさかい!わらわとえるはんはもう、親子の様なもんや!なー親分」マリスは更にえるに密着する。
「何を言っておるのじゃ!えるとわらわは、永久なる暗黒の盟約を契りを交わしたのじゃ、えるは、われの手足じゃ、言わば一心同体じゃ!その穢れた手を放さんか!」凜もえるにしがみ付いた。
えるはヤレヤレと困った顔を見せたそしてマリスに言った「いいですかマリス!凜様は私のマスターです。凜様に逆らうことはこの私が許しません!」
それを聞いた凜はそうじゃろそうじゃろと、喜々とした。
一方マリスは、しゅんと打ちひしがれて涙目になっていた。
えるは続けた「でも、マリスとも主従関係を結びました。これはドラゴン族としての誓
ですからあなたを裏切ることはしません。」
そのことを聞いたマリスはぱああと光が差したように明るい顔になりうるうるした瞳でえるを見つめた。
「マリス、凜様はわたしのマスターなのですから、凜様に逆らってはいけません、わかりましたね?」えるはマリスに微笑んだ。
「了解してん!親分!凜様!凜様は親分の親分や!」マリスは子供の様な屈託のない表情で言った。
「じゃあ、みんなで食材を洗いましょう!」えるが掛け声をかけた。
「おお!」と、凜とマリスが続いた。
俺と鈴乃は他の具材を作ることにした。
「ええっと、このババール麦の粉にロック鳥の卵を入れて、魚のスープを入れて、モレデン芋をすりおろして、塩漬けゾーイ豆の発酵液を適量入れてかき混ぜる」鈴乃に言われ俺は巨大なボウルに材料をドボドボと流し込んで大きなヘラでかき混ぜた。
「フーッ熱い」ヴァールは額の汗を拭いながらあかねと、かまどに火を入れ大鍋で湯を沸かした。
凜たちが戻ってくると、大鍋にタコの化け物のぶつ切りを入れた。
「わあ、綺麗に赤くなる!」あかねが鍋に入ったタコの化け物のぶつ切りを見て言った。
「じゃあ次に、凜たちは、ブラッシカの葉とポルムの根を細かく切って」
「合点じゃ」凜が答えた。
「切るのなら私たちも負けませんよ!」えるは右手だけドラゴンにメタモルフォーゼさせ、鋭い爪をキラリと光らせマリスを見た。
マリスも頷き、同じようにした。そして、あっという間に野菜を切り刻んだ。
茹で上がったポテスト・ポリパスのぶつ切りを俺とあかねは巨大なザルですくい上げた。
次に、頭ぐらいの大きさの半円形の穴がいくつも開いた鉄板に、油を引き熱くなったところで、具材を流し込むと、ジューッといい音がした。
ヴァールはその中に、ゆでたポテスト・ポリパス、細かく切ったブラッシカの葉とポルムの根を入れた。
そのまましばらく置いておくと、鉄板の中の材料からふつふつと泡が立ち始めた。
「じゃあ、ヴァールやって」鈴乃が合図すると、ヴァールは剣を2本持ち、鉄板と具材の間に剣を入れ左右からぐるっとなぞると、2本の剣を器用に使って材料をコロッとひっくり返すした。
カリカリに焼けた丸丸焼が現れた。
「おいしそうだな」俺は、その様子を見てゴクリとヨダレをのみ込んだ。
同じ様に全てをひっくり返すと、またそのまましばらく放置した。
時々ヴァールは食材に剣を刺し中の火の通り具合を確認した。
そして、剣に白い液が付かなくなり火が通ったことが確認できたところで、剣に突き刺し、一つずつ皿に盛った。
そして、ブルガニヨンソースを掛けると一気に良い匂いが立ち込めた。
「うわ~、いいにおい!」あかねが眼を輝かせた。
「お祭りの香りね!」鈴乃が言った。
「オマツリ?」ヴァールが不思議そうに尋ねた。
「お祭り、もう一つの世界の日本で行われるもので、おいしいお店がいっぱい出るのよ」
鈴乃が説明した。
「オマツリ行ってみたいです」ヴァールが想像を膨らませた。
「今度、みんなで行きましょう!」鈴乃はヴァールに微笑んだ。
「これに、乾燥ボニートの削ったものをトッピングして、マヨンネッサを掛けて…一品完成ね!」鈴乃がウィンクした。




