りんけーじ68 雌雄決す!
りんけーじ68 雌雄決す!
一瞬海面にその姿を現したテラ・ゴストムは、着水する水飛沫と共に再び海中に姿を消した。
「くうっ!」その瞬間猛烈なGがえるの両腕を襲った。
巨大なその魚が、口に刺さった釣り針を外そうと急速潜航を始めたからだ。
えるは逃すまいと、竿を握った両手に力を込めた。
釣り竿はまるで虹の様にしなり、釣り糸はギューンと奇妙な悲鳴を上げる。
「糸よ耐えて…」えるは思いっきり己の体重を竿と反対側に掛けて踏ん張った。
なおも、巨大な魚は針を外そうと顔を左右に振って暴れた。
その動きのまま、えるの持った釣り竿もイヤイヤをするように穂先を激しく左右に振る。
竿を持つえるの手が震える。
しばらく、えると魚の死闘は続いた。
「頑張るのじゃ!える!」凜は握りこぶしを胸に当て、えるに声援を送った。
「は…いっ!」えるは、片方の目を閉じ必死にこらえながら、答える。
しかし、魚は徐々に疲れてきたのか、釣り竿が暴れなくなってきた。
えるが釣り竿を引っ張り上げると、巨大な魚は引き寄せられてきた。
海面にゆら~っとその巨大な魚影が現れた。
「テラ・ゴストムは釣り上げられそうになると、最後の一暴れをしますから、気を付けて!」
ヴァールが心配そうにえると魚のやり取りも見つめた。
「もう少しよ!」固唾をのんで見守っていた鈴乃も応援した。
あと少し、えるは歯を食いしばり竿を上げた。
ぷはっと魚が顔を出した。
「危ないっ!」あかねが叫んだ。
バシュ!次の瞬間、巨大な魚は捕まるまいと最後の力を振り絞って、もう一度潜航を試みた。
「あぁっ!」えるの手から釣り竿が滑り落ちそうなり、危うく海中に持って行かれそうになった。
しかし、えるもほどけたかかった指に力を込め、咄嗟に握り直した。
「負けない!」えるは釣り竿を握る両手に再度力を込めた。
えるの握力も限界を迎えつつあった。
「また、潜られたら再度引き寄せる力は残っていない、次が勝負だ!」えるは、釣り竿を引き上げた。
再び、巨大な魚が引き寄せられてきた。
―――潜られる前にっ!―――
「うぉーっ!!」えるは、倒れんばかりに全体重を、後方に掛け釣り竿を振り上げた。
ああ、青空が見える。雲が浮かんでいてきれいな景色だな…ふと、えるの頭にそんな考えが一瞬よぎった。
スローモーションに流れる風景の中、えるの上を巨大な影が通り過ぎて行った。
夕立の様に水飛沫を上げながら、まるで空を飛ぶ飛行船の様だ…
ズサッと、えるが後方に倒れ込んだ後、頭上からズズ~ン!と振動が伝わってきた。
「よくやったの!える!」青と白の視界の中に瞳に涙を湛えた凜の顔が現れたかと思うとひっしと抱き着いてきた。
「!?」えるは状況が理解できなかった。
「える?大丈夫」心配そうに見つめる鈴乃やあかねの顔も現れた。
勿論ヴァールと俺も駆け寄った。
「うぇーん、うぇーん、ついに、テラ・ゴストムを釣り上げたのじゃよ!」凜が泣きじゃくりながら、頭の上を指差した。
その方向を見ると、巨大な魚が尾びれをバタつかせていた。
「やっぱり、凄いですえるさん!」あかねも瞳をうるうるしながら、えるの手を取った
「ついに、やったわねっ!さすがだわっ!」鈴乃は拳を握りしめた。
「えるなら大丈夫と思っていたわ!」ヴァールもえるを見つめた。
「やるなっ!える!」俺も声を掛けた。
ふーっ、そうか釣り上げたのか..
状況を把握したえるは左手で額を拭いギラギラと光る日差しを遮った。
やっぱり、堤防はアツイな…
「あわわわ」状況を見ていた目が白丸二つになったマリスがいた。
「な、」
「な、」
「何で、海の神であるわらわが、負けるんや、海竜やで!海の神さんやで!」マリスは
服の袖を噛んで悔し涙を流しながら地団駄を踏んた。
「ま、まあマリスのよく頑張ったと思うよ。最初にテラ・ゴストムが掛かったのもマリスだし、あのタコの化け物も釣り上げたじゃん!」俺はマリスをフォローした。
「クスン、ほんまにそう思う?」袖で目を押えたマリスがチラッと俺を見た。
「あ、ああ惜しかったなー!な、なあ~鈴乃!」俺は鈴乃に視線を送った。
鈴乃は一瞬えっ!?と言う顔をしたが「そ、そうね~、マリスもよく頑張ったわ~、
勝負は時の運とも言うし、今回はちょっと、えるの方が運がよかっただけよ!」
マリスはしばし俯いて黙っていたが「…さよか、ほしたら、しゃあないねんな!悔しいねやけど、わらわの負けやね..わらわも神や!えるはん煮るなり焼くなり好きにしたってや!」と、寂しそうに微笑んだ。
ふうっと、えるは、一呼吸置き「別に、私は元々あなたとは、揉め事を起こすつもりは
ありませんでした。あなたが、食ってかかってきたから、その場の勢いでこうなっただけで…」
「ほしたら、わらわはどないしたらよいなんか?」マリスは鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をした。
「別に、何もしなくてもいいです」えるが答えた。
「ほんなら、ウチが困ります」マリスは駄々を捏ねた。
「何ぞ、言ってください」マリスはなおも食い下がる。
「そうや、わらわはあんたはんの子分になるんやった!それでええね?」マリスはえる
の手を取った。
「別に、今まで通り仲良くしてくれればいいです」えるはマリスに断った。
「いやいや、これは、わらわが決めたことやから、そうさせてもらいます!これからは、わらわは、あんたはんを親分と言います」マリスは納得した様に頷いた。そしてニッコリとほほ笑んだ「なあ、える親分!」
えるはやれやれと言った顔でマリスも見た。




