りんけーじ64 異世界の海釣り
りんけーじ64 異世界の海釣り
海の家?で釣り道具一式を調達した俺たちは、店の下のある堤防に向かった。
じりじりする日差しがビキニの水着の上にシャツとパレオを着ていたが、そこから剥き出しとなった肌に突き刺さる。ぼうっとしてくる。
でも、日焼け止めを塗ったから安心だ。
「ひゃー、真夏の堤防は暑いわね~っ」鈴乃が額の汗を手で拭いながら呟いた。
「ほんとですね~、何かクラクラしてくる」あかねが帽子のつばの両端を手で押さえながら答えた。
堤防に到着すると、ヴァールが何やら袋からガサガサと不気味な茶色の物体を取り出した。
「これは、海の神に対して、安全と豊漁を祈願するための、ミトガエルの干物です」
ヴァールが手に持っている物は、ブサイクな顔をしたカエルがカラカラにしたものだった。
「見た目は悪いですが、これが食べたら結構イケるんですよ!このカエル」
ヴァールは続ける「海の家の店員に教わったのですが、海の神は女神で自分より美しい物に嫉妬するそうです。海の女神が嫉妬すると海が荒れ狂い、釣りどころでは無くなり、命も危険になるそうです」
「ほー、じゃあ、われは海の神に嫉妬されてしまうの!のう、えるよ」凜がペロッと舌を出した。
「そうですね、きっと嫉妬されて、どんな危険な目に会うかも知れません、でもわたしがたとえ神であろうと、マスターを命に代えてもお守りします」えるが、凜の両手を取った。
「でもその危険を避ける手段として、神が嫉妬しない様に醜いものを神に供物として捧げるのです」ヴァールはミトガエルの干物を両手で抱え上げた。
「神よ、おお海の神よ、これから我らはこの地にて漁撈を行うなり。それに先立ちこの供物をかしこみ、かしこみ捧げ奉るなり」ヴァールは唱え終わるとカエルの干物を海にぽちゃんと、投げ入れた。
「さあ、これで一通りの儀式は終わりです。釣りを始めても大丈夫です」ヴァールはこちらを向いてニコッと笑った。
「釣りを始めるのもいいが、これは何だ?」俺は巨大な車輪の着いた箱に目を遣った。
その箱は優に自動車ほどの大きさの物だった。
「これに、釣りをするための道具一式が入っていますので、開けてみましょう」と、ヴァールは言うとギギギと箱に付いた扉を開けた。そして中から、2メートル程ある、物干し竿の様なもの取り出した。
「!?」一同があっけにとられる中、ヴァールは「えいっ」と言うと手の取った物干し竿を振り下ろした。
すると、シャキーンと言う音と共に物干し竿が伸びた。
長さは10メートル程になった。
「こ、これで何を釣るの?」鈴乃がたじろいだ。
「テラ・ゴストムと言う魚を釣るための竿です」ヴァールは竿を持ち上げた。
「そして、この竿に糸を付けてこのカゴを付けます」ロープに鳥籠の様な物を取り付けた。
「次に」と言うと、ヴァールは水の入った水がめをゴトゴトと引き摺り出した。
「この甕には生きたデーモン・クリルが入っています、これがテラ・ゴストムのエサです」と言うと、ヴァールは網を持ち出し甕に突っ込みぐるぐる回した。
「あっ、いた!これです!」網を持ち上げると人の腕ほどある巨大な車海老の様な物が
中でビチビチと暴れていた。
「これを、カゴに入れて」ヴァールは暴れまわるエビの様な物をカゴにドサドサと入れたフタを閉じた。
「そして、最後に釣り針とオモリの付いた仕掛けを付ければ、完成です」
針は人の顔ぐらいの大きさでオモリはボーリング玉の様だった。
「ああ、最後にデーモン・クリルを…おりゃ! 針に付けて」ヴァールはビチビチと暴れる紫色のおどろおどろしいエビの様な物を針に付けた。
針に付けると紫色の液がデーモン・クリルから流れた。
「あの、ヴァールさん?」あかねの顔が引きつった。
「はい?」ヴァールは微笑む
「これは、誰が投げるんですか?」あかねも微笑む。
「決まってるじゃないですか~みんなで、釣りするんですよ」ヴァールは
「こ、こんなもん投げられるわけないじゃないですか!」あかねが><必死に反論する。
「えっ、これ位軽いですよ」と言うと、ヴァールは徐に仕掛けの付いた釣り竿をひょいっと、持ち上げた。
「ほら」ヴァールはあかねに竿を手渡した。
ヴァールの様子を見ていたあかねは、「な~んだ、ホントは軽いんですかっ..うわぁ!.」と言って、竿を受け取った。
いや正確には受け取ろうとした。
竿を持った瞬間、あかねはバランスを崩して前のめりになり、転びそうになった。
「なっ、何これ、やっぱり重い!!!」あかねはあわてて、両手で竿を持ち直し、必死になって顔を赤くしながら、内股になり、竿をブルブル震える手で握り、持ちこたえた。
「も、もうダメ~」あかねは汗を拭き出し、ますます真っ赤になった。
「しょうがないですね~あかねちゃん」ヴァールは再び、ひょいっとあかねから竿を取り上げた。
その瞬間、あかねはへなへなと地面にヘタリ込んでしまった。
その間もヴァールは事も無げに竿を振っていた。
「ヴァ、ヴァールさんって、ホントは怪力!?」ヴァールの様子を見ながら、あかねは訊ねた。




