りんけーじ53 朝の職員室
りんけーじ53 朝の職員室
早朝の陽光でキラキラと輝く電線の上で、すずめがチュンチュンと鳴いている。坂の向こう側から、ガラガラと響いてくる。
「はぁ、はぁ」あかねは息を切らしながら、駄々をこねる大きなキャスターバックを、引っ張っていた。
さぁっと沸き上がる朝の匂いを纏ったそよ風が、額に浮かんだ汗を頬まで追い立てる。あかねは左腕で拭った「みんな喜んでくれるかなぁ、ふふっ♡」。
あかねは、再び体を45度に前傾しながら歩いた。
何とか、校舎に辿り着くとあかねは教室には向かわず、部室に向かった。
部室の扉を引っ張てみたが、ガタッと施錠されていてそれ以上は開かない、
「ありゃりゃ!?鍵を借りてこなくっちゃ!」
キャスターバックを部室の前に置き去りにして、あかねは職員室に向かうと、職員室のドアをノックし、恐る恐る開け隙間から覗き込み岸町京子を探した。
岸町京子は自分の机でカップからコーヒーの香りと湯気を漂わせて、今日の授業の準備に追われている。
「失礼しまーす」岸町京子を見つけたあかねは、緊張した面持ちで、まるで忍びの様にさささっと、岸町京子のところにやって来た。
「おはようございまーす。岸町先生」あかねは、ほっとした表情を浮かべ岸町京子に囁く様に言った。
「ああ、おはよう。小谷場か、何だ?」岸町京子は、机からあかねに視線を移す。
あかねは躊躇した「すみません、部室の鍵をお借りしたいんですが?」
「何だ、朝から部活動か?」岸町京子はペンを置いた。
「ちょっと、部室に荷物を搬入したくて、鍵をお借りしたいんです」あかねは、要件を告げた。
「部室の鍵か。ちょっと、待ってろ」岸町京子は職員室の奥のキーボックスを開け、部室の鍵を掬い上げ、あかねの元まで持ってくるとあかねにひょいっと、鍵を渡した。
「これだ。終わったら施錠して戻すようにな!」
あかねに一通りの事を言い終わると、岸町京子は再び、机の上の資料と格闘し始めた。
「あ、ありがとうございますっ!」あかねは一礼すると、そそくさと出口に向かった。ドアを開けるとくるっと振り向き「失礼しましたっ!」とぺこりとお辞儀をした。
岸町京子はそれに答える様に、机の資料に向かったまま右手でコーヒーカップを啜り、ペンを持った左手を掲げた。
「これでよしっ!えへへ、みんなの反応が楽しみ~♪」部室に何とかキャスターバックを押入れ、岸町京子に鍵を戻すと、あかねはハミングしながら両手を広げぴょんぴょんと跳ねて行った。




