りんけーじ5 異世界を歩いてみる
りんけーじ5 異世界を歩いてみる
しばらく街を進むと、鈴乃のお腹がキュウ~っと鳴り「お腹が空いたわ!わたしの胸を触ったお詫びに、何か食べさせて!」と言い出した。
「は、はい…」俺はそう返答するしかなかった。
街の周囲を見渡すと、通りの中ほどに、食堂らしきところがあった。
「あれって、食堂じゃないかな?」俺は、看板を指差した。
「そうねー、食事ができるところっぽいわね…取り敢えず行ってみましょう」鈴乃は、看板を目指して歩き始めた。
この世界の住人(獣?)とのファーストコンタトだ、言葉は理解できるのであろうか?
不安と期待が入り乱れた食堂の扉をギィっと開け中を覗いてみた。
その瞬間、肉を焼く美味しそうな匂いが、ふわっと鼻に広がる。結構室内は広く、無数のランプが輝く幻想的な雰囲気の中、賑やかな民族音楽が流れ、騎士、魔法使い、半獣人などの話声でガヤガヤと騒がしい。その間をすり抜ける様に、ウェイトレスが忙しそうに飛び回っている。
中を観察しているうちに俺は、ある一点に目を奪われた。
――猫耳と尻尾のある亜人のウェイトレスが料理を運んでいる―――
うおーっ!か、かわいい!!憧れの猫耳尻尾の獣人!!!俺は思わず心の中で叫んだ。
恐る恐る中に入ると。その猫耳のウェイトレスさんがニコッと微笑んだ。
間近で見ると猫耳、尻尾、瞳は猫の様にまん丸…チョーカワイイんですけど!俺は再び心の中で叫んだ。
そんな俺の状況を察してか、鈴乃は俺をギョロッと、睨んだ。
猫耳のウエイトレスさんは「いらっしゃいませにゃ!お二人にゃ?」と、俺たちに尋ねてきた。
あれ?言葉がわかる!これも、指輪のお蔭なのか?と感心していると、ノッシノッシと足音がした。
足音の方を見るとトカゲの顔をした半獣人が立っていた。
「ああ、マスター」ウェイトレスさんは、ペコリと頭を下げあいさつした。
どうやら、トカゲの半獣人はここの店主らしい。
そして俺と、鈴乃は上から下までしげしげと眺めた「見慣れねえ服装だな…おい!兄ちゃんたち、カネはあんのか?」。
「あ、ありますよ!」俺は、慌てて財布を取り出し、紙幣を見せた。
店主はそれを見てガハハハと笑い出した「外国のカネか?ここじゃ、そんなもんは使えねぇよ!悪いが帰った帰った!」と一蹴されてしまった。
猫耳のウエイトレスさんはぴょこんと耳を下げ、気の毒そうにこちらを見た「ごめんにゃ!そのお金は使えないのにゃ」
ここでは、俺たちは一文無しってことだ。
りんけーじ6 現実世界に戻る
仕方なく俺たちは、店を後にした。
鈴乃は店を出ると俺をチラッと一瞥した「お店には入れなかったわね。ちょっと興味があったけど、残念ね…今度は入る方法を考えましょう」
「それにしても、お腹が空いたわ、円正寺君、何とかこの状況を打開しなさい!」と言いながら鈴乃はお腹をさすった。
俺は生きた猫耳獣人に、出会えた満足感を噛みしめていたが、鈴乃の言葉で、現実に引き戻された。
「はあ~」と、俺はため息を吐いた。
ここで、ミーの言葉を思い出した。元の世界に戻ることも出来ることを――。
「じゃあ、元の世界つまり俺たちが日常を過ごしている世界に戻って、何か食べる?」俺は鈴乃に提案してみた。
鈴乃は「う~ん…」と言って、目を瞑り、右手の人差し指を唇に当てて暫く考えていた。
そして、目を開けると「じゃあ、円正寺君、ハンバーガーセットを奢りなさい。それで、あの(・・)一件はチャラにするわ」と言った。
俺はホッとため息を付いた。
そして戻るに当たっての、俺の意見を説明した。「ただ、戻るに当たって何時、何処に戻るのか、それが未だよく分かっていない。仮説だけど俺たちは、ここに来た時の出発点に戻るんじゃないかと思う。きっと、こっちの世界の時間軸と、俺たちが元居た世界の時間軸を結ぶ針の穴の様なもの同士が、この指輪を通して一点で繋がって、行き来できると思うんだ。だから、向こうに戻る座標は決まっていて、戻るのは、向こうを出た時の同じ時間,同じ場所に戻ると思う。」
鈴乃は静かに聞き入った後、口を開いた「もし、円正寺君の仮説が正しいとすれば、わたしがこの世界にやって来た時に、円正寺君は既にこの世界にいた。つまり、あちらの世界に戻った時には、その時間差分だけ戻った時間が異なり、戻る場所も違うと言うことになるわね」
俺は頷いた。
鈴乃は続けた「では、円正寺君は私がこの世界に来る、どれくらい前にやって来たの?」。
「俺がこの世界に入って5分以内に鈴乃は空から降ってきた」と、俺は答えた。
「降ってきたって…じゃあ、向こうの世界に戻る時間は5分位の差があるということになるわね。それで、あなたは、どこからやって来たの?わたしは、学校の中庭よ」と、鈴乃は自分の出発点を説明した。
「俺は、校舎の屋上から来た」俺は答えた。
「じゃあ、円正寺君があっちの世界に戻ったら、校舎の中庭で落ち合いましょう」鈴乃は、ウィンクした。
仮説は本当に正しいのか一抹の不安はあったが、2人とも指輪を投げてみた。
眩い光に全身が包まれ、エレベーターに乗った時の様な、体が浮遊する様な感覚に襲われた後、地面にストンと着地する様な重力が足から伝わった。
恐る恐る、目を開けると、そこは元いた校舎の屋上だった。辺りを見回したが鈴乃は、いない。
校舎の時計を見ると、やはり、もう一つの世界に出て行った時間だ。つまりもう一つの世界に行っている間こちらの世界の時間は止まっている―――
鈴乃と待ち合わせた校舎の中庭を見下ろすと、鈴乃が立っていた。あれは、これからあちらの世界に、行こうとしている鈴乃だ。
そして、右手を上げ振り下ろした。指輪を投げたのだろう。
一瞬閃光が迸り、鈴乃が消失すると同時に鈴乃が現れた。それを見た俺は、「おかえり鈴乃…」とほっとして、思わず呟いた。