りんけーじ38 高原の寒い朝と朝食
りんけーじ38 高原の寒い朝と朝食
「ああ…、こんな中で眠れるわけないじゃないか!」俺は呟き、ほかのテントからシュラフを持ってきて、女子たちをシュラフに入れることにした。グランピング用のテントは、女子4人だったら何とか寝れる広さだった。
俺は、「あかね、凜、える」用のテントで眠るとして、問題は、シュラフの数が足りない。岸町京子が寝ているテントから1個持ってこなくてはいけない…。
岸町京子の寝ているテントに近づき、岸町京子が起きていれば、シュラフを取ってもらおうと思い、声を掛けてみた「せんせー、岸町せんせー、起きてますかー?」
返事がない。もう一度声を掛けてみたが同じだった。
やれやれと思いつつ、静かにテントのジッパーを開け、中を覗いてみた。
暗くて良く見えなかったが、しばらくすると、眼が慣れてきたので、岸町京子が寝息を立てて寝ているのが見えた。入り口から岸町京子を挟んで奥に、鈴乃用のシュラフが転がっているのがわかった。何でこんな取りにくいところに、あるんだ!と心の中で叫び、そっと目標に向かって、そっとテントの中を進んだ。と、突然何かに躓き、よろけた。「うわっ!」と心の中で叫び、岸町京子に覆い被さる様に倒れてしまった。
眼を開くと岸町京子の寝顔が目の前にあった。正確には、岸町京子の眠っているシュラフには接触はせず、開脚した腕立て伏せの様な姿勢で静止していた。かなり無理な体制であり、体の筋肉がプルプルしていた。
これで、岸町京子が目を覚ましたら、弁解のしようのないシチュエーションに陥っていることが把握できた。
幸い、岸松京子はすーすーと寝息を立てていた。引き攣る筋肉に何とか動かし、岸町京子から離れ様として、シュラフ側に体を移動した瞬間、―――ふくらはぎの筋肉が攣った―――寝ている岸町京子の横で、地獄の様な苦しみに、サイレントで痛みに堪えなければならない、俺は何をやっているんだ、と痛みに耐えながら涙がでできた。
数分痛みに苦しみ、ようやく動けるようになり、鈴乃用のシュラフをそっと取り上げ、
慎重に岸町京子を跨いで出口に手を掛けたところ、突然京子がむくっと、上半身を起こし、フラフラしながら「お前、何やっているんだ?」と呟いた。
「ひぃっ!」と俺は、心の中で叫び、心臓が凍り付き動けなくなってしまった。
暫く沈黙が続き、岸町京子は、ぱたっと倒れると、またスースーと眠ってしまった。寝ぼけていたようだ。
ほーっと、できるだけ静かにため息を着き、音を立てない様にテントから何とか抜け出した。4人分のシュラフを揃え、何とか眠っている女子たちをそっとシュラフに1人ずつ入れた。
「う~っ、さびぃ!」ほとんど眠れないまま空が薄明るくなってきた、山の稜線を見ながら焚火を起こし、賑やかになってきた、野鳥たちの囀りを聴きながら、湯を沸かしてコーヒーを飲んでいると、「ふわぁ~」とあくびをしながら鈴乃がテントから出てきた。
俺は鈴乃をチラッと見て「おはよう」と、声を掛けた。「おはよう、寒いわね」と、鈴乃はボサボサの頭で、眠い眼を擦っていた。
コーヒーを淹れ差し出すと、「ありがと、わたしたち、何でこっちのテントで寝てたんだろ?」と寝ぼけながら呟いていた。
コーヒーを啜ると、だんだん記憶が戻って来たらしく、「え~っと、トランプをやっていて眠くなっちゃって、そのまま皆で眠っちゃったのね…」
鈴乃は俺をちらりと一瞥して「円正寺、変なことしてないでしょうね!?」と言った。
「す、する訳ないじゃん!」と俺が昨夜の悪戦苦闘を思い出しながら、全力で否定すると、
「うふふ、冗談よ!アリガトネ!」と悪戯っぽく鈴乃がコーヒーを飲みながら答えた。
やがて岸町京子がテントから出てきた。
「おはようございます。岸町先生!」岸町京子声を掛けると、「ああ、おはよう。やはり山の朝は寒いな…。おっコーヒー淹れているのか、私にも一杯くれないか?」と、寝起きで物憂げな声が返ってきた。
「はい」ポットからコーヒをコッヘルに注ぎ「どうぞ」岸町京子に手渡した。
「ありがとう」と言って、岸町京子はカップで両手を温め、その片手を頬に当てコッヘルを口へ持って行った。
ほーっと一息つき「私は、君たちを信頼しているからな」と俺と鈴乃を交互に見て岸町京子は呟いた。
「や、やだな~、俺と、大谷の間で何かある訳ないじゃなですか!」俺が、慌てて取り繕い鈴乃の方も見ると、鈴乃は、一瞬ピクリとし、「そ、そうですよ!こんな円正寺なんか、何とも思っていませんから!」と言い、俺を一瞬見るとぷいっと、横を向いた。
「そうか…、ならば良し」と目を閉じ岸町京子はコーヒーを啜った。
ほかの女子たちも起きたらしく、わいわいとテントから出てきた。
「まったく、昨日はえるちゃん魔法使ったでしょ!」あかねが、えるに言うと、えるは緑色の瞳で「いいえ、使っていません。マスターに誓って!」とみつめた。
あかねは、凜を見て言った「う~でも悔しい!またやりましょうね!!!凜せんぱい!」
「オケ―。望むところじゃ!」凜は親指を上げ答えた。
「そろそろ、朝食にしましょう!冷蔵庫にパンと卵とベーコンと野菜があったから、皆でトーストとベーコンエッグとサラダを作りましょう」鈴乃は冷蔵庫に材料を取りに行った。
賑やかに朝食が出来上がると「いただきまーす!」とみんなの声がテーブルに響き渡った。
「ベーコン美味しい!」「卵も美味しいです!産みたてらしいですよ」「サラダもトマトとレタスも朝採れで美味じゃ!」「ベーコンそのまま食べたい…」などど賑やかだった。
朝日が山の稜線を越え、光の矢となって冷えた体に差し込み、じわじわと冷気を溶かして行った。