りんけーじ184 ホラー映画と鈴乃
りんけーじ184 ホラー映画と鈴乃
座席は前から9列目で真ん中の島に左から、鈴乃、俺、マリス、える、凛、あかね、リア、ヴァールの順で座ることになった。
シートに座ると、程なく周りが暗くなり、CMが始まった。おなじみの盗撮マンのCMが流れ出した。
―――その時だった、シートのひじ掛けに置いた俺の左手にひんやりと柔らかく、湿っているものが、ペトッと乗っかってきた。
俺は思わず叫び声を揚げそうになったが、右手で自分の口を必死に抑えた。
俺は恐怖に堪えながら、左手に乗っかった物の正体を確かめるべく、恐る恐る首をそちらに向けた。
そこには、震える白い手があった。
しかも、手汗を掻いているようでしっとりと濡れていた。
それは鈴乃の手だった。
手首を辿って、視線を肩から首筋、顔に向けた時、俺は再び叫びそうになった。
鈴乃は、まだ始まってもいないホラー映画に、恐怖のあまり全身が硬直し、顔面がものすごい形相で強張っていた。
「鈴乃さん!あなた、ホラー映画そんなに嫌いなら、無理して観なくてもよかったんじゃないの?」とヤレヤレと思いながら、映画に集中することにした。
やがて、新作映画の予告が終わると、映画館が一段と暗くなり、本編が始まった。
映画は歴史もののホラー映画らしく、中世の田舎の村が舞台となっている様だった。
最初の内は静かな感じでシーンが展開されていたが、やがて、犯人役のピエロが暴れだした。
すると、鈴乃は「キャツ!」と小さく叫んで目を瞑り俺の左手に自分の両腕を絡ませてきた。
その瞬間腕に何か柔らかいものを感じた。
それは鈴乃の胸だった。
「す、鈴乃さん!?」俺は鈴乃に向かって小声で囁いた。
「うるさい、こっち見んな!」鈴乃はそう言うと俺の左肩に顔をうずめていた。
恐怖シーンは音と、映像でびっくりさせられたが、それ以上に、鈴乃が強く抱き着いてくるので、鈴乃は髪の毛から漂う良い香りと、荒い吐息、伝わってくる鼓動が気になって、
段々映画どころでは無くなってきた。
何となく流れる音と画面、それより、深く感じる鈴乃の存在…一瞬このまま、時間が止まればいいのにと言う考えが頭を過った。
俺は、自分の鼓動が高鳴るのを感じた。
そんな映画の内容とはかけ離れたフウフワとした感覚でいると、いつのまにか、映画はエンドロールになっていた。




