Part.7 交わし、躱され
普段より18時投稿としてきましたが、勝手ながら今回より21時投稿に切り替えさせていただきます。何卒宜しくお願い致します。
私達が戦場に着いた時、そこではすでに王国の大隊と戦闘班の大規模な戦闘が繰り広げられていた。しかし双方の戦闘以上に目立つ争いが最前線で繰り広げられていた。
「相変わらずの強さじゃのう!!だがここまで壊れんと少しばかり頭にくる…!」
「こっちのセリフだボケェ!!さっきから何発も当ててんのに何で倒れねえんだ!さっさとくたばれクソ野郎が!」
ヴァーミリオンの放つ銃弾をその身で受けながらも平然と銃を撃ち続けるエレミヤと、エレミヤの放つ銃弾を避けつつ正確にエレミヤや王国の戦闘員に銃弾を撃ち込んでいくヴァーミリオンの二人が最前線で激しい戦闘を繰り広げていた。
「やってんなぁ…。戦場で鉢合わせるといつもこうなんだ。」
『これは中々、すごい光景だな。銃弾を全て躱すヴァーミリオンもだが、全て被弾しても平然としていられるあの大男もかなりのものだ。』
感心したように話すゴールドをよそに、私は二人がいるのとは違う方向を見た。何やら音が聞こえたその方向では、大隊から分かれたであろう王国の小隊がこちらに向かってきていた。どうやら私を狙ってきているようだ。
『お出迎えだぞステラ。軽く相手してやれ。』
「ああ。すぐに終わらせてやるよ。」
「…ステラさん。あいつらなんか変じゃないですか?」
戦闘態勢に入ったところでヴィシャルが指摘をする。
「変?変って何がだ?」
「…よく見てください。奴ら武器を持っていません。」
言われてみると確かに変だった。普通なら王国の戦闘員は何かしらの武器を持って戦闘をするはずだ。しかし目の前にいるやつらは何の武器も持っていない。普段であれば、武器すら支給されなかった下っ端中の下っ端なのだろうと思うところだ。今までにも何人かそういった者を見たことがある。しかしそんな奴は、大隊の中に多少混じっているものだ。しかし目の前には、10人ほどの武器を持っていない戦闘員がいる。そして奴らは、先頭に立っている白衣姿の男を除いて、全員が戦場には不似合いな同じ白服に身を包んでいた。何かがおかしい。私は嫌な予感がした。不意に戦闘の白衣男がヴィシャルに向かって拳を振るってきた。私が反応した時にはもう遅く、不意を突かれたヴィシャルはゴシャッという音を発して吹っ飛んで行った。
「ガハァッ…、え…、これって…、そんなバカな…。」
「ヴィシャル!大丈夫か!?」
私とゴールドはヴィシャルの元に駆け寄った。吹き飛んで行ったゴールドには目もくれず、白衣男は私に向かって前蹴りを放った。咄嗟に私は受け止めたが、受け止めた腕に刺すような痛みが走った。その痛みに私は覚えがあった。
「これは、一体どういうことだ…。」
「…硬いな。流石は熟達者、といったところか。だが次は貫く。」
白衣男は続けざまに前蹴りを放った。私はそれらに対して拳を放って相殺したが、刺すような痛みが拳に伝わっていく。
「ッ…!何でお前がアームズアーツを使ってるんだ!!」
「ほう…、見抜いたか。流石は熟達者だな。それに私の槍脚を相殺するとは、腕も申し分ないようだ。」
槍脚、アームズアーツの蹴り技の一つで、槍のような貫通力を持つ蹴りを放つ技だ。最も基本的な技であるが、それ故使い手の腕が出る技だ。相殺してもダメージが出るということは、この男は私と同等、あるいはそれ以上の使い手かもしれない。
「答えろよ!何でお前がアームズアーツを使ってるんだ!?これは私達にしか使えない技のはずだ!」
「通り屋にしか使えない、か。ならば何故、通り屋に入る前のお前はこの技が使えていた?誰に教えられた?」
「誰って、それは、それは…。」
白衣男の言葉に、私は言葉を詰まらせた。濃霧が立ち込めたかのように、何も思い出せなくなる。過去のことを思い出そうとするといつもこうなってしまう。
『ステラ、あの男、以前スモーキーゴッドにいた白髪の男だ。』
「ほう…。そこのドローンは私のことを記憶していたのか。その通り。私は君たちをあの店で見かけた。しかしまさか、あんなところで出会えるとは思ってもみなかったよ。」
白衣男は攻撃の手を止めて、ゴールドの方を向いた。
『君は、俺のことを知っているのか?』
「君のことは知らないし、興味もない。まあ君ほど完成度の高いAIというのは珍しいがね。だがそこの君、私と同じアームズアーツの使い手である君のことならよく知っている。恐らく君以上に、ね。」
その言葉を聞いて私の頭は真っ白になった。この男は私の失った記憶について何を知っているのか。
「お前…。お前は誰なんだ!私の何を知ってるっていうんだ!」
「教えてやってもいいが、まずは彼らの相手をしてやってくれないか?」
彼がそう言って合図すると、彼の後ろで待機していた白服たちが一斉に飛び掛かってきた。彼らの放つ拳や蹴りを受け止めると、白衣男のものほどではないが、刺すような痛みや、鈍器で殴られたような重圧を感じた。
「こいつら…。全員使い手なのか!?」
「急場仕込みだが、それなりによくできているだろう。」
白衣男の言う通り、練度は高くないとはいえ彼らが使っているのは正真正銘のアームズアーツだ。その拳には鈍器のような重みがあるし、蹴りには鋭い痛みがある。この白衣男が誰かは知らないが、厄介なことをしてくれたものだ。白服たちの攻撃を受け止めていると、不意に白服の一人が横に吹っ飛ばされた。
「…あまり俺のことを舐めないでほしいっす。俺だって使えるんすよ…。」
さっきまで伸びていたヴィシャルが戦線に復帰したようだ。
「…ステラさん、今からブラック・アウト使うんで、ゴーグルの準備をお願いするっす。」
「…わかった。任せたぞ。」
私が懐からゴーグルを出しそれを装着すると同時に、ヴィシャルの目が黄色く光った。それと同時に黒い霧が周囲に広く立ち込めていく。すると、それまで猛攻を仕掛けていた白服たちの動きが止まった。私は動きが止まった隙を突いて、白服たちに拳を叩き込んだ。一撃を入れると白服は吹き飛んだり倒れたりなど、とにかく全員戦闘不能に陥った。
「ハアアアアアアアア!!!」
私はその勢いのまま白衣男の顔を狙いすまして拳を振るった。狙いすました拳は白衣男の顔を捉え、そして__________。
「良い一撃だ。それに厄介なデザイアだ。しかしそれを信用しすぎるのは良くないな。」
拳は空を切った。そしてその勢いで前へ倒れる私の顔に、白衣男の前蹴りが叩き込まれた。
「…嘘だ。どうして俺のデザイアの中で…。」
「動けるのかって?なに、シンプルなことだ。まず何かが飛んでくるときに若干の空気の動きが生じる。それを感じ取っているだけだ。それにこの暗闇の中、自分だけが見えていると思い込んでいる奴は動きが雑になる。そういうものだ。それに…。」
白衣男はそこまで言うと、ヴィシャルの元まで移動し渾身の蹴りを放った。
「この霧の発生源を辿れば、君の居場所もわかるということだ。よく覚えておくがいい。」
蹴りを喰らったヴィシャルは無言で倒れ伏した。
「…下らない。熟達者と言ってもこの程度か。それにアームズアーツの有効性を検証しに来たが、やはり効果があるのは初見時だけか。この程度の練度なら対策されれば終わりだな。」
白衣男はそう言うと、タブレットを取り出したが…。
「…こうも暗いと結果の報告もできないな。仕方ない。霧が晴れるまで待つとするか。」
溜息をついて、白衣男がタブレットを元の位置に戻そうとしたが…。
「…ほう、まだ動けたのか。本気でやったつもりだったがな。」
「ああ。どういう訳かなぁ!」
私の拳が、白衣男のタブレットを砕いていた。そして、霧が晴れた。
「…!お前、その姿はどういうことだ?」
「はぁ?その姿って…な、なんじゃこりゃ!」
霧が晴れた時に見えた私の手は、機械の装甲のようなものに覆われていた。視界が少し狭くなっている。そして私の頭が、身体が、脚部が、しなやかなサイバースーツと装甲に覆われていた。
「クフフ…クハハハハ!!アレだけでやられるとは思ってなかったが、まさかこんな隠し玉を用意していたとはな!!面白い…!実に面白いぞ…!」
「な、何笑ってんだよ…。」
「いや失敬。つい興奮してしまった。だが…、これは良い報告ができそうだ…!」
白衣男が興奮している。体をドローンに変えたときのゴールドのようなテンションである。
「だが、良いだろう。君との約束は果たしてやる。明日、一人でスモーキーゴッドまで来るがいい。そこで君の知りたいことを教えてあげよう。」
白衣男は手に持っているタブレットの破片を投げ捨てると、おもむろに通信機を手に取った。
「…あー、こちらエゼキエル。聞いてるかエレミヤ。こっちは用が済んだから撤収する。君もさっさと切り上げて撤収しろ。」
『エレミヤだ!おうさ!目の前のコイツをぶっ壊したら帰るわい!ヌハハハ!!いい加減ぶっ壊れろぉい!!』
ノイズ混じりのやかましい通信を聞いて白衣男、エゼキエルは通信を切った。
「そういう訳だ。では明日、君が本気で答えを知る気ならまた会おう。」
エゼキエルがそう言うと、私の前から一瞬で消えた。それと同時に倒れていた白服たちも消えた。
「は!?オイ待て!どこ行きやがった!!」
『…信じられんがこの付近に反応がない。恐らく何かのデザイアによって本拠地へ撤収したんだろう。それよりステラ、その姿はどういうことだ?』
「いや、わかんねえけど…。私が一番びっくりしてる。何で急に現れたんだろうな…。」
私は体中をペタペタと触り、確かめていた。
『それじゃあわからんこともあるだろう。後でスキャンしてやるから、一旦装甲を解いてみろ。』
この装甲が何かは気になるが、ひとまずゴールドが言う通り装甲を解こう。
「ところで、これってどうやって解けばいいんだ?」
『どうって、いや俺は知らないぞ。君が展開したんだろう?だったら解けないのか?』
「いや…、その、わかんない…。」
この後私は装甲を展開したまま帰ることになった。拠点に戻った時に見張りから銃を突き付けられたり、手の空いている技術班に好奇の目で見られたりもした。
激戦が繰り広げられている戦場では、王国の戦闘員や戦闘班が倒れ伏していた。そしてその中で、未だにヴァーミリオンとエレミヤが戦い続けていた。
「ヌハハハ!燃えるわい!!やっぱりキサマは楽しい奴じゃ!!」
「俺は全く楽しくねえんだよ!!俺に付きまとってんじゃねえよ!ホモかお前は!」
「何を言っておる!ワシには妻と21になる娘がおるんじゃ!!」
「お前妻子持ちかよ!!よくこんなの選んだなアンタの嫁さん!」
そんなやり取りを繰り返しながら、二人は銃撃戦を繰り返している。しかしその戦いは、唐突に終わりを迎えるのであった。
「ぬう!?これは…、奴の…。おい!まだ終わっとらんぞ!まだコイツをぶっこわ___。」
エレミヤが何か言おうとした途中で、彼はヴァーミリオンの目の前から姿を消した。
「消えただと!?…王国にはそんなデザイアの覚醒者がいるのか…。」
ヴァーミリオンはエレミヤの消えた戦場を見渡した。戦闘班の面々は傷を負いながらも立ち上がり、倒れていた王国の戦闘員たちを捕縛していた。そしてその向こうでは、比較的傷の浅かった戦闘員たちが必死で撤退していく姿が見えた。
「…よくわからんけど、勝ったんだな、俺ら。」
そう呟いたヴァーミリオンは、脱力したかのようにその場に座り込んだ。
こんばんは皆さま、縁迎寺 結でございます。まずは第7話をご覧いただきありがとうございます。さて今回は、通り屋回収班所属のヴィシャルについて解説させていただきます。フルネームは『ヴィシャル=ハダール』、デザイア『ブラック・アウト』の覚醒者です。彼のデザイアは『自身の醜さを徹底的に隠したい』という欲望を元に発現しました。それ故に彼はギリースーツに身を包むのです。また味の付いた物を嫌い、水や白湯、味のないレーションしか口にしません。彼の醜さの秘匿は徹底的であり、誰の前であろうと、ギリースーツを脱ぐことはありません。また彼のデザイアの霧が孕んでいる闇は尋常ではなく、通常の暗視ゴーグルでは何も見ることができません。ブラック・アウトの中で視認するためには、デミア博士の造った特別製の暗視ゴーグルが必要となってきます。今回はここで締めさせていただきます。それではまた次回お会いいたしましょう。