Part.6 奮い、振るわれ
朝っぱらから激しく鳴り響く警報で目を覚ました。朝から戦いに駆り出されることは何度かあったのだが、警報まで鳴らされるのは初めてだ。手早く動きやすい姿に着替える。何となく、数日前に拾った腕輪が目に入った。せっかくだから、と思った私はその腕輪を付けることにした。相変わらず私の腕にジャストフィットする腕輪だ。
『みんな、朝早くからすまない!だが緊急事態なんだ!動ける者は全員1階のホールに集合してくれ!』
警報に混じってヴァーミリオンの放送が聞こえる。その声色からただ事ではないと察した私はすぐに1階に向かった。
1階のホールに着くと、眠そうなヴィシャス、何やら戸惑っている戦闘班の面々、緊張の面持ちで銃を背負ったヴァーミリオン、そして平然と浮遊しているゴールドがいた。
「ふぁああ…。あっ、ステラさんも来たんですね。」
「やっと来たかステラ。緊急事態だから今いるメンバーだけで話を進めるぞ。」
突然の事態に私も戸惑いを隠せなかった。
「おい、どういうことなんだ?一体何が…?」
「王国の奴らが攻めてきたんだ。しかも結構な数でな。」
「攻めてきた?結構な数ってどれぐらいなんだよ?」
私が訪ねると、ヴァーミリオンは少し黙った後で口を開いた。
「…伝令の奴らからの情報では、約3千.それで今ここにいるメンバーは200人程度。数では圧倒的に不利だ。」
絶句した。想定外が過ぎる。少数の先遣部隊が何度か襲来した後に大隊を送り込んでくる、というのが王国のやり方だったはずだ。
「…おかしいです。奴らの今までのやり方とはまるっきり違う。」
「不意を突いたんだろう。同じやり方を繰り返した後で全く別のやり方に切り替える。まったく、なんて単純な手に掛かっちまったんだ…。」
「どうすりゃいいんだ!こんな人数じゃ勝てるわけがない!」
「じゃあ戦わずに同志たちを見殺しにしろっていうのか!?彼らは戦えないんだぞ!」
「だからって戦ったら俺たちが死んじまう!」
「何もしないよりはマシだ!」
「ああ…、負けたら…私の家族が…。」
戦闘班の面々から様々な声が漏れ出る。騒ぎが大きくなってきたころに、突如銃声が鳴り響いた。皆が驚き銃声の聞こえた方を振り向くと、そこには煙の出ているリボルバーを天井に向けたヴァーミリオンがいた。
「そういうこと、してる場合ではないと思うのだが?」
ヴァーミリオンは銃を懐に収め、私たちの方に向き直った。
「今すべきことはなんだ?戦う、戦わないを議論するときか?違う。自らの命を惜しむときか?それも違う。負けたときのことを憂うことか?大間違いだ!いいか?今すべきことはな…。」
そう言うとヴァーミリオンは背負っていた大型銃を構え、出口の方を向いた。
「今すぐ戦場に出向いて、奴らに勝つことだ!!今こんなことをしてる間にも奴らはここに向かって進んでいる。被害が出る前にそいつらを止めるのが今すべきことではないのか!?」
ヴァーミリオンは出口の扉に手をかけ、私たちの方を見た。
「これ以上喋っていたいならここに残ってろ。それ以外は全員来い。」
そう言ったヴァーミリオンは出て行った。
ヴァーミリオンが出て行った後のホールは沈黙に包まれていた。彼の言葉が胸に響いている。200対3000。まともにやれば勝てる戦ではない。勝てる可能性もかなり低いだろう。しかし私たちがやらなければ、戦えない人たちが死んでしまうことになる。こうなれば、やることは一つしかない。私は前に出た。
「…私は戦うよ。可能性が低くたって、やらないよりはマシなんだよ!お前ら戦闘班だろ!?戦うべきお前たちが何で怯えてるんだよ!お前たちが戦わなきゃ誰がやるってんだ!?立てよ!覚悟決めろよ!」
「…俺も、戦うっす。やる前から諦めるのは、やっぱり違うと思う。…ホラ、戦えない俺でも覚悟決めれたんだ。戦えるお前らが覚悟決めないと、戦闘班の肩書が泣くっすよ…。」
「そうだ…そうだよ!やらない前に諦めてどうすんだ!」
「俺たちは戦闘班だ!戦わなくてどうするんだ!」
「負けたらどうしよう、じゃない!勝つんだ!俺たちは勝つんだ!」
「戦う、戦わないじゃない!みんなで戦って、みんなで勝つんだよ!」
「回収班なんかに負けてたまるかよ!俺たちが戦わなきゃダメなんだ!」
「みんな行くぞ!王国なんか捻りつぶしてやれ!!」
私とヴィシャスの放った言葉に、黙りこくっていた戦闘班は覚悟の言葉を口にしていた。彼らの紡ぐ覚悟の言葉は、やがて覚悟を吼える咆哮となり、それは彼らを戦場へ駆り立てるには十分すぎるものであった。
「よし!みんな行くぞ!!私たちがこの街を守るんだ!!」
私の叫びと共に、彼らは拠点から出て行った。そして拠点に残っているのは、私とヴィシャス、ゴールドだけだった。
「…ああ言った以上、俺たちも行くしかないっすよね?」
「当然だろ?あそこまで言っておいて行かないとか、ダサすぎるにも程があるだろ?」
『だがステラ、勝率は本当に低いぞ。例え勝ってもこちら側に大きな犠牲が出るだろう。それでも行くのか?』
「何度も言わせんなよ…。当然だ!私たちも行くぞ!!」
私達は戦場へと向かった。もう迷いなど無かったし、早くいかなければいけない、という思いが私達にはあった。
大振りな斧を振りかぶって向かってくる敵を、散弾銃で吹き飛ばす。遠方からこちらに狙いを定めている狙撃手を、撃たれる前に狙撃する。気付いたら取り囲まれていたが、手にした二丁のリボルバーで包囲を突破する。
「アイツやばいぞ!どんだけ銃持って________!?」
「アイツさっきからずっと撃ってるよな!?何で弾が________!?」
銃で無双するヴァーミリオンを見て絶句する王国の構成員が叫んだ。叫びが終わらないうちに、彼らの脳天は見事に撃ち抜かれた。
「…俺のトリガー・ハッピーは伊達じゃないぜ?いくらでも撃ち続けてやるよ!!」
彼もまたデザイアに覚醒しているのだ。『トリガー・ハッピー』という彼のデザイアは、彼の『延々と銃を撃ち続けていたい』という欲望を元に発現したデザイアである。彼が望んだ銃をその場で精製し、弾も無限に精製し続ける。しかし彼はその代償として、銃以外の武器を振るうことができなくなっている。無理に使おうとすれば彼の身体に大きな負荷がかかってしまうのだ。しかし近距離での銃戦闘を極めている彼にとっては大した問題ではない。
「やった!敵がどんどん減っていくぞ!」
「流石はヴァーミリオンさんだ!これなら勝てるかも!」
ヴァーミリオンが来る前から戦っていた戦闘班のメンバーが歓喜の声を上げる。
「このままいけば勝てる!勝て___グッ!」
「何だ!?おい!大丈夫____ギャッ!」
希望を顔に浮かべた彼らは、しかし次の瞬間には苦悶に顔を歪ませていた。敵陣の最前線にから飛んできた弾丸にやられたようだ。
「グハハハハ!!良いのう!やっぱり戦場は最高じゃ!!壊しがいのある的が向こうから来るから楽しくて仕方ないわい!!」
敵陣からこちらにも聞こえるほどの声で笑う、大量の大型銃を背負った大男が二丁の機関銃をこちらに向けている。
「もう来たのか…。もう少し身体を温めてから相手したかったんだがなぁ!!」
ヴァーミリオンは突撃銃を精製し、敵陣に突貫していく。途中で立ち塞がる敵を全て正確に一撃で仕留め、大男との距離を着実に詰めていった。
「おお!噂をすれば本当にやってきたか!!久しいのう!ヴァーミリオン!!今日こそキサマをぶっ壊してやるわ!!」
「俺は会いたくなかった!お前の相手もいい加減疲れるんだよ!!今日こそ死に晒せや!エレミヤ!!」
近づき、ゼロ距離での射撃を試みるヴァーミリオンを、エレミヤと呼ばれた大男は手にした機関銃をフルスイングして薙ぎ払った。機関銃が壊れるほどのフルスイングを受け、ヴァーミリオンは吹き飛んだ。背負っていた突撃銃を手に取り、エレミヤが叫ぶ。
「さあ!存分に壊し合おうぞ!!弾はまだまだ有り余っておるわい!!」
「壊れんのはお前だけだ!!蜂の巣にしてやるよデカブツ!!」
彼らの咆哮に呼応するように、両陣営の戦士たちが突撃していく。戦闘は更に激化していくのであった。
どうも皆さま。縁迎寺 結でございます。まずは第6話をご覧いただきありがとうございます。やはりまだ不慣れな点などもございますが、今後ともよろしくお願いいたします。さて今回は通り屋戦闘班の班長であるヴァーミリオンについて解説していきたいと思います。フルネームは『ヴァーミリオン=ノーティア』、デザイア『トリガー・ハッピー』の覚醒者です。彼のデザイアの発現した元となる欲望を見ていただければわかるように、彼もかなりの戦闘狂です。デザイアのデメリットとして銃以外の武器が使えませんが、彼は銃以外での戦闘術を習得しています。それが、ステラが体得している『アームズアーツ』です。実は通り屋の構成員は全員がアームズアーツの使い手であり、ヴァーミリオンはステラに並ぶほどの使い手なのです。それだけではなく、彼は銃を使った近距離戦闘にも対応しており、流石は戦闘班班長を名乗っているだけのことはあります。さて今回はこの辺りで締めさせていただきます。次回から本格的に戦闘を展開していきます。それではまた次回お会いいたしましょう。