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DESIRE chronicles  作者: 縁迎寺
enigmatic DESIRE
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Part.4 探し、捜され

「なあ、これなんかどうだ?」

『いや、これではだめだ。コードを接続する箇所が破損している。』


 そんなわけで私とゴールドはアガルタの一つ上の階層である『廃棄区ゲヘナ』に来ていた。目的はゴールドの新しい素体を見つけるためである。ついでに言うとここはマグナ・バベル全体の廃棄物が集まる場所であると同時に、この階層の支配者たる発明狂の作品が転がる場所でもある。つまり私達回収斑にとっては宝の山でもあるのだ。ゴールドの素体に加えて、新しい回収物が見つかるかもしれない。まあそれは素体を見つけてからの話だ。ここまで急いで来たとはいえ、ゴールドのバッテリーが尽きるまであと40分程だ。全く余裕がない、というわけではないが選り好みしていてはバッテリーが尽きてしまう。この際何でもいいから見つけなければいけない。


「じゃあこのロボットはどうだ?両腕に銃とか剣とか付いてるし。」

『どんな理由だ。そんなもの日常生活を送るのに邪魔なだけだろう。見たところ可変ギミックも付いていない。恐らくこの個体は完全に戦闘向けなのだろうな。』


何かにつけてこのAIが文句を言ってくる。まあ気持ちはわかる。私だってあんなのが付いてたら邪魔に思う。でもカッコいいじゃん。武器付きの腕とかロマンあるじゃん。


『別に人型でなくても良いのだぞ?そうこうしているうちにあと30分程だ。少し急いだほうがいいんじゃないか?…ん?おいステラ、足元のそれは何だ?』


ゴールドに言われて私は足元を見た。周りの景色と同じように瓦礫が広がっている。しかしよく見ると瓦礫の中に何かが埋まっているのが見える。少し掘ってみると何かが出てきた。


「これ…ドローンか?こんなところに捨てられてる物にしては随分綺麗だな。」

『ほう…、少し汚れているが破損個所は見当たらないな。コードの接続箇所も無事だ。よし!これならいけるぞ!早速コードを繋げろ!ほら早く!』


興奮気味なゴールドの要求に応え、タブレットとドローンを繋げる。一瞬の沈黙の後に、ドローンが飛翔した。


『中々悪くないな…。それにこのドローンの動力、電力とは違うようだ。解析を急ぐとするか…。まあエネルギーの残量的に考えれば数日は持ちそうだ。…喋れているということはこのドローンにはスピーカーが付いているのか…。この機体の製造目的は侵入者への警告の為か?おお、これはサーチ機能か?フフフ…楽しくなってきたぞ…。』


飛翔してグルグル回りだしたかと思ったら自分の世界に入ってしまった。こいつってこんな奴だったのか…。


「おーい。話聞いてるか?見つかったんだろ?その辺で物色してるから終わったらこっちに来てくれ。」


何やらブツブツ呟いているゴールドを放っておいて、私はあたりに散らばっている残骸に目を向けた。

 普通に見れば何てことのないゴミの山だが、観察眼を鍛えた私の目には幾つかの宝が映っている。先ほどのロボットだってそうだ。あれほど状態の良いものはそうお目にかかれない。なので新しい戦力とすることもできる。ただしエネルギーを注入できれば、の話だが。このロボットはどういうわけか電力を通しても起動すらしないのだ。なので武器を再利用するか、状態のいい各種パーツを取り出すしか出来ない。何にせよ、このロボットが一機落ちているだけで、かなりの量の資材を回収できるのだ。このロボットを含めて、再利用のできる残骸は結構落ちている。すべて回収するのがベストなのだが、今は私一人しかいない。流石に全てを抱えることはできない。なので持ち帰る物は厳選していかなければいけないのだ。そんなことを考えながら物色していると、現実に意識が戻ったゴールドがこっちに飛んできた。


『戻ったぞステラ。俺の新しい身体の試運転をしていたら少し時間がかかってしまった。いやあ飛行とは良いものだな。新鮮な気分だ。』


興奮気味なゴールドの話を聞き流しながら彼のボディを見てみた。思いのほか大きめのドローンだ。機体の下部にはこれまた大きめの籠のような部分があった。待てよ…、これなら使えそうだな。


「楽しそうだな。ところでお前どれぐらいまでなら運べる?」

『ん?ああ、この籠か。そうだな…、実際にやったことはないが…、40キロまでならいけると思うぞ。』

「良いじゃないか!じゃあ私が見つけた物を運んでくれ!」

『おお?何だかよくわからないが、俺が役に立てることがあるのなら引き受けよう。』


そんなわけで私は物色を再開した。先程までと違うことは多少持っていけるものが増えたということだ。なので軽そうなものは極力積み込むことにした。探せば探すほど様々な物が出てくる。まだ使えそうなロボットの武器パーツや弾薬などが殆どだが、残骸の中に気になるものを見つけた。拾ってみるとそれはブレスレットだった。しかしブレスレットにしては妙に大きい。試しに付けてみたところぴったりだった。


「ちょっと重いけど…、ゴツくて良い感じだな。お前はどう思う?」

『到底洒落ているとは思えんな。君のセンスを疑うぞ。』


こうもハッキリ言われると少し傷つく。でも私はこのブレスレット、というより腕輪を付け続けることにした。


『そう言えば君のことを聞いてなかったな。探しながらでいいから聞かせてくれないか。』


 色々見つけてはゴールドの籠に積み込んでいると、ゴールドが突然聞いてきた。


「突然だな。…まあ良いけど、大したものじゃないぞ。」

『大したことのない過去などあるものか。いいから話せ。』

「全く仕方ないな…。本当に大したことないってのに…。」


 通り屋に入る前、私はアガルタでならず者を束ねてヤンチャしていた。欲しいものは奪い取り、歯向かうやつは叩きのめした。私は少しばかり腕っ節に自身があった。私は当たり前のように力を行使していたが、周りのやつらは私のことを異様に持ち上げていた。当時の私は調子に乗っていたと思う、というか調子に乗っていた。私に敵う奴なんて絶対にいない。私はアガルタで、いやマグナ・バベル最強であると思い込んでいたこともあった。立派な黒歴史であるが、今では昔あった笑い話と割り切ってしまっている。とにかく調子に乗りまくって有頂天だった私は、当時の通り屋戦闘班の班長に無謀にも喧嘩を売った、そしてものの見事に負けた。今思えば無理もない。当時の班長は通り屋最強とされるほどの強者である。一応私よりも強い現班長のヴァーミリオンなど足元に及ばないほどなのだ。負けた私を見て皆は、私を見捨てて逃げて行った。自分たちも半殺しにされるとでも思ったんだろう。見捨てられた私を、彼女は通り屋に勧誘した。何もかもをなくした私は縋り付くような思いで通り屋に居場所を見出した。最初は戦闘班所属だったが、観察眼に優れていた私は回収班に回され、すぐに班長になった。


「まあこんなところだな。別に大したことのない過去だっただろ?」

『いや、面白い話を聞かせてもらった。しかしなぁ…。』


ゴールドは少し間を置いてから続ける。


『君の幼少期の話を聞いてないぞ。それに君が使うアームズアーツはいつ習得したんだ?』

「ああ…、そのことか…。」


聞かれるとは思ったが、いざ聞かれてしまうと何を言っていいのか困ってしまう。


『どうした?言いたくないのならいいんだぞ?』

「いや、言っておくわ。すぐに済むことだし。」


私は言葉を整理してから、口を開いた。


「私もお前と同じで何も覚えていないんだ。気づいたらアガルタにいた。そしたらすぐに囲まれて、そいつらに抵抗してるうちにアームズアーツが使えることを思い出したんだ。まあ感覚で使ってただけだから色々と滅茶苦茶だったんだけどな。それからはお前に話した通りだよ。」

『そう、だったのか…。君は、過去を思い出そうとはしないのか?』

「まあ出来れば知りたいよ。でも自分から真相を探るほどのことでもないと思ってる。昔のことなんかよりも今が大事だし。」

『そうか…。君は強いな。』

「おお、お前から褒められるのは新鮮だな…。ええい!やめだ、やめ!そんな話してると折角の成果が錆びちまう。」


私は空気を変えるべく、再び残骸の山に目を向ける。私はその山に、黄色い粘液が入った透明なタンクを見つけた。何度もここに来ているが、こんなもの見たことがない。


「なあゴールド、確かサーチ機能がどうとか言ってたよな。これが何かわかるか?」

『俺の独り言を聞いてたのか…。あるぞ。ちょっと待っていてくれ。』


ゴールドがそう言うと、ドローンの前面に付いているライトから水色の光が照射された。タンクに光が数秒照射された後、ゴールドは結果を述べた。


『解析完了だ。これが何かは不明だが、ドローンのエネルギーと同じ物質らしい。このドローンだけではなく、このあたりに散らばっているロボットのエネルギーポットにもこの物質の痕跡が見られた。この結果から推察すると…、ここの支配者とやらの発明品は全てこれをエネルギーとしているのだろう。』

「…なんだかよくわからないけど、つまり回収したロボットたちもこれを使えば動くようになるのか!」


まさに革命である。今まで資材にしかならなかったロボットをそのまま戦力にできるのだ。これさえあれば通り屋は優位に立てる。


「しかしどうして今まで見つからなかったんだ?残骸をひっくり返しても見たことないのに…。」

『それはまた追々考えるとしよう。ではそろそろ帰らないか?ああそうだ。俺が入っていたタブレットは好きにしてくれ。』


そう言ってゴールドはアガルタへと下る階段に向かって飛んで行った。私はタブレットを手に取り、それをカバンに入れて直してからゴールドに続いた。その後ろで私たちを見ているゴールドと同型のドローンに、私は気付かなかった。


 ゲヘナからの帰り道で、ゴールドが私にこんな質問をしてきた。


『なあステラ、この階層は廃棄区と呼ばれているのだろう?それにしては使える物が多く落ちている気がするんだが。』

「ああそのことか。単純な話だよ。ここで色々作ってる奴は飽きっぽい奴でな。作って飽きてはすぐに捨てるってことを繰り返してるんだ。」

『それは…、良くも悪くも発明家、という印象だな。…もしかして俺の身体のドローンもそいつが作ったのか?』

「多分そうだろうな。よく見たら機体の側面に24って刻んであるな。折角だからお前の名前を24に変えるか?」

『何故そうなる。ゴールドでいい。24と呼ばれ続けるのは囚人のようでいい気分ではない。』


そんなことを話し合いながら私たちは拠点へと帰っていく。


ごきげんよう。縁迎寺(エンゲイジ) (ムスビ)です。まずは第4話をご覧いただきありがとうございます。さて今回は、第4話の舞台にもなった『廃棄区ゲヘナ』について解説していきたいと思います。マグナ・バベルの第2階層でもあるこの階層には、全ての階層から出る廃棄物が集います。その多くは利用価値のないような本当のゴミですが、中には間違えて捨てられてしまった『使える物』も存在します。もっとも、それらに価値を見出す者次第で事情は変わってきますが。短いですが今回はここで締めさせていただきます。それでは、また次回お会いしましょう。

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