表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DESIRE chronicles  作者: 縁迎寺
infected DESIRE
14/17

Part.4 廃喰境界

 今度こそ終わった。ああ寒い。ひょっとしてここが俗に言う『あの世』というやつなのだろうか。ゆっくりと目を開けると、そこは妙に薄暗いところだった。明らかにさっきまでいたブロセリアンドとは違う、文明的な場所だった。


「ここは…。もしかして、またどこかに移動したのか…?」


しかし今回は辺りを見渡しても、ラプサがいない。もしかして彼女は別の場所に転移してしまったというのか。あるいは転移できずに爆発に巻き込まれて…。嫌な想像が駆け巡ったが、とにかく動かないことには何も始まらない。よく見るとここはどこかの路地裏らしい。少し先にうっすらと光が見えたので、進んでみることにした。しかしその判断で、俺は後悔することになった。


「な、何なんだここは…!」


虚ろな表情で佇む人々、正気を失ったかのように何かを貪っている人々、強烈な腐臭、そして、その腐臭の発生源であろう死体の山。齧られた跡があるそれには、正気を失った人々が食らいついていた。一体何なのだここは。アガルタにしたってもう少し秩序がある。それに、この空間に強烈な違和感がある。まるでここだけ切り取られたかのような、そんな違和感だ。ああ気分が悪い。死体を見たことがないわけではないが、山になった死体、それにそれを貪る人というのをセットで見るのは初めてのことだ。胃の中の物が出てしまいそうだ。ふと、視界がぐにゃりと歪んだ。


「ア…ラさん!アトラさん!」


気付くと俺は路地裏に倒れていた。しかし先程のような寒さは感じない。そしてさっきと違うのは、俺の顔を覗き込むラプサがいることだ。俺がさっきまで抱えていた角のあるウサギを抱えている。


「アトラさん!よかった!目を覚ました!」

「ああ…。ラプサ、俺たちはどうなったんだ…。」

「あの後、また転移が起こってここに飛んできたの。でもアトラさんが気絶したままだったから心配で…。」


どうやらさっきまで見ていた光景は夢だったようだ。しかし夢にしては妙に現実味があったのが気になるが。それよりもここは何処なのだろう。


「安心して!さっきよりはよっぽどいいところだから!」


俺の心を読んだかのようにラプサが答えた。確かに違和感や妙な寒気はない。


「取り敢えず、ここから移動するか。」


俺とラプサは取り敢えずここから動くことにした。

 路地裏から出ると、そこは活気のある場所だった。多くの人々が行きかうこの場所は、夢で見たあの光景とは正反対だった。それに俺はこの場所に覚えがあった。


「ここは、イラプセルか!」


ここは繁華区イラプセル。マグナ・バベルの娯楽が集う階層だ。アガルタの危険地帯、ブロセリアンドと来て、やっとマトモな場所に転移できた。そして、俺は確信を抱いた。


(もしかして俺の転移、命の危険が迫った時に発動しているのか?)


しかし、ならば何故普通に歩いていただけの俺がアガルタに転移してしまったのだろうか。その点が、俺の予測に曇りを生じさせた。取り敢えずこのことは一旦置いておこう。命の危機に2回も晒されてしまったので、少し一息入れたいところだ。


「なあラプサ。ちょっと一息入れないか?お前も流石に疲れたと思うし。」

「え!?いいの!?よかった。私も一息入れたかったんだ!」


ラプサも一息入れたいようなので、俺たちは近くにあった飲食店に入った。そこで俺はひとまずコーヒーを注文した。ラプサもコーヒーを注文していたが、念を押すように「薄く」と注文していた。注文してからすぐにコーヒーは運ばれてきた。ただしその一つは水でも足したかのように薄かった。また、コーヒーと一緒に頼んだ覚えのない豆のようなものが運ばれてきた。いつの間にかラプサが注文していたらしい。ウサギ用だそうだ。ラプサは薄いコーヒーを一口飲み、不満そうな表情を浮かべた。ウサギは黙々と豆を食べていた。


「うーん…。なんというか、コーヒーにしては味に深みが無いような…。」

「薄いのに味わかってんのか?それにコーヒーってのはこういうもんだろ。」

「分かってないなぁ。私がいつも飲んでるコーヒーはもっと味に深みがあるよ?なんたって『本物』を使ってるからね。」

「アガルタにそんな上等なコーヒーがあるとは信じがたいな…。それに本物だと?もっとあり得ないな。本物のコーヒーなどザナドゥでも中々お目に掛かれないんだぞ?」

「だったら私がごちそうするよ。またアガルタに転移できたらね。」


ラプサとの会話が弾んできた辺りで、周りがざわついていることに気付いた。皆が窓の外を見ている。何事かと思い、俺たちも窓の外を見てみた。


「まだか!まだ来ないのか!」

「もうすぐなはずだ!しかし今日は幸運な日だな!」

「あっ!見えてきた!」

「来るぞ!ティル様だ!」


窓に張り付いている者達の歓声が起こる。人が集まりすぎて窓の外が見えなくなってしまったので、俺たちは会計を済ませて店の外に出た。一応豆は持ち帰らせてもらった。


「これは…、パレードか?すごい群衆だな…。」

「あ!向こうから何か来るよ!」


そうしてラプサが指をさした方向から、一台の車が来た。よく見るとその車の後部に、サングラスをかけた上品そうな女性がいた。群衆の視線はその女性に注がれている。


「あれは…、大宴主(フェスティバルズ)ティル=ノーグか!」

「うわぁ…。綺麗な人…。でも何か…。」


車の中にいるティルがこちらに視線を向けた。その視線に俺は思わず息を呑んだ。しかしそれと同時に、強烈な寒気を感じた。その寒気は、夢で見たあの地獄絵図、そこで感じたあの寒気と同じだった。思わず胃の中のものを全て吐いてしまった。


「うわっ!ちょっとアトラさん!何してるのさ!ねえ!大丈夫!?」


ラプサが一歩下がった。しかし群衆は気付いていないのか、何も反応を示さない。


「ラプサ…、ここから離れよう…。これ以上ここにいたくない…。」


気付けば俺は走っていた。この場から一刻も早く逃げたいという思いでいっぱいだった。自分でもわからない。何故、ティルにあの夢と同じ寒気を感じたのか。何故、夢に過ぎないあの光景が頭から焼き付いて離れないのか。…何故、俺はあの光景に懐かしさを感じたのか。俺にはわからなかった。


ごきげんよう。縁迎寺です。第4話をご覧いただきありがとうございます。アトラが垣間見たあの光景は夢で終わるのでしょうか。さて今回は繁華区イラプセルについてお話します。マグナ・バベルの第7階層であるここは、マグナ・バベルの娯楽や物流の中心地となっています。特にここの管理者である大宴主(フェスティバルズ)ティル=ノーグがオーナーを務める施設『マグメル』は、『思いつく限りの全てがある場所』と言われるだけあって、イラプセルでも最大規模の娯楽施設となっています。中にはレベルA以上の市民だけが入ることができる店もあるのだとか…。それでは今回はこの辺りで締めさせていただきます。それではまた次回お会いいたしましょう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ