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DESIRE chronicles  作者: 縁迎寺
enigmatic DESIRE
10/17

Part.10 亡クコト、無カレ

あれからしばらく経ち、私は王国と通り屋の支配領域の境界線に来ていた。私に与えられた選択、その答えを示すためだ。しばらく待っていると、白服を引き連れたエゼキエルがやってきた。


「ごきげんようステラ。ここに来た、ということは…。」


そう言いかけて、エゼキエルは視線を私の横に逸らす。


「…どうして『彼』がここにいるんだ?」

「当然だろう。これは最早彼女だけの問題ではない。通り屋を率いる僕が来るのは当然だろう。」


私の横には、通り屋頭目である男、ムーンがいる。溢れ出るカリスマと強者の風格を湛える、しかし私とさほど歳の変わらないように見える青年は、さも当然のようにこの場にいる。


「…まあいいだろう。貴方がいてもいなくてもやることは変わらない。ステラ、答えを聞こう。」


頭目に促され、私はエゼキエルに言葉を言い放った。


「私は通り屋回収班班長だ。過去の自分が何であれ私はそうあり続ける。つまりどーいうことかって言うと…、誰がお前らなんかに従うか!寝言は寝て言っとけクソ野郎!!」


きっぱりと言い放ってやった。エゼキエルは想定通り、しかし残念というような表情を浮かべた。


「…つまりそれは、通り屋の壊滅を望む、ということでいいのか?ステラを一人差し出せば通り屋は助かるのだぞ?」

「君の認識を改めておこう。何故君たちは僕らに勝てると思っているんだ?僕たち通り屋は支配しか能がない王国には屈しない。そっちの愚王に伝えておけ。僕らを侮るなってね。」

「もう知らないぞ。グリークさんには確かに伝えておこう。…残されたささやかな安寧を過ごすがいい。」


そう言うと、エゼキエルと白服たちは引き上げていった。少なくとも今日は戦う気は無いようだ。


「私は始末してもらった方が楽だったんですけど…。何で私を罰さないんですか?」

「罰さない?僕は君を罰しているつもりなんだけどね。少なくとも事が終わるまで君が死に逃げるのは許さない。しばらくは生きて事を見届けてもらう。それが僕が課した罰だ。事が済んだら好きにすると良い。」


頭目は酷い人だ。『死にたい』なんて気持ちはゴールドの停止と共に全部怒りに変わってしまった。自身の真相すら満足に理解できず散った彼を見て、真実を知って絶望するしかなかった私に対して、これまでにない怒りが湧いた。だからもう私には、死ぬ気などこれっぽっちも無いというのに…。


 私は自室のベッドの上で横になっていた。あの後拠点に王国の使者が来た。4日後、王国の全戦力を持って通り屋を潰しにかかる、と。頭目は残された日々を好きに生きてほしい、この際戦いから逃げるのも構わない。と言っていたが、逃げ出す者は誰一人としていなかった。皆いつも通りの日々を過ごしている。いつも通りでないのは私だけだろう。ふとベッドサイドのテーブルを見ると、そこに置いてあるカバンの中に光るものが入っていた。気になって取り出すと、それはかつてゴールドが入っていた趣味の悪い金ピカのタブレットだった。とうに空っぽのそれは、しかし最初と一切変わらない輝きを放っている。そういえばハカセからこれの充電器を受け取っていたことを思い出した。することも無いからタブレットでも弄って時間を潰そう。そう思って私は充電器を接続した。驚くべきことに僅か5分で充電は完了した。ゴールドがいなくても普通にすごい物じゃないかと思いながら、私はタブレットを起動した。こういったタイプのタブレットは、起動すればホーム画面に移動するはずだ。しかし起動して出てきたのは黒い画面に白色の字で『再誕』と表示されていた。最初はそういったホーム画面かと思ったが、何処を触っても動くことが無かった。しばらくすると文字は消え、見たことのない男が浮かび上がった。


『…初めまして。いや、久しぶりと言うべきか…。』

「お前…、誰だよ…。」

『このネットワーク上の存在である姿を見せるのは初めてだから初めましてでいいのか。しかし俺は面識があるはずだからな…。ここは久しぶりで、しかしそれを言うほど時間は経っていないのか…。』

「いや、お前、まさか…。」

『ん?何をしているんだ?君らしくもない。もしや俺のことを忘れてしまったのか?』


信じられなかった。私は彼を見たことがない。しかしその声は、その話し方は、私の記憶にしっかりと焼き付いていた。


「お前こそっ…、何やってんだよゴールド!!」

『ゴールド、か…。その名前にもすっかり慣れたな。…ただいま、ステラ。』

「ハハハ…。ただいまもクソもねえだろ…。おかえり…。」


泣きながら言葉を紡ぐ私に、ゴールドは優しい口調で語りかけていた。


「どうして、生きてるんだ?」

『あの時、ドローンとこのタブレットが接続したとき、このタブレットにも俺の意識が残っていたらしい。それらは同一の存在だったらしい。タブレットが再起動したとき、セキュリティ解除で解禁された情報と、停止前までの記憶が一気に入って来てな。だから再起動から実際の動作まで時間がかかってしまった。大丈夫だ。俺はお前の知っているゴールドだ。』


よくわからないけど、彼が戻ってきたのなら何でもいい。


『そうだ。君に話したいことがある。…俺の記憶についてだ。』

「そうだ!記憶は無事なのか!?」

『ああ。少しあやふやだが、ある程度は覚えている。だがおかしな点がいくつかある。』


ゴールドは少し間を置いて、話し始めた。


『まず思い出した俺の名。その名をネットワークで検索したんだが…、どうやら300年ほど前に死んでいる人物らしい。そして思い出した記憶、おぼろげではあるが一つ知っている顔があった。そう、あの顔は、研究師(ジーニアス)・キスタ=ドラード。奴の顔だった。』

「はぁ!?あのいけ好かない野郎が記憶にあった!?待てよ!あいつはそんなジジイじゃなかったぞ!!」

『それ以外にもおかしな点が多すぎる。だから君に話すことで、はっきりさせていこうと思う。だから聞いてほしい。俺の、ティガーナ=イーシャの記憶を。』


そうしてゴールド、ティガーナ=イーシャは永き過去を語る…。


皆さまご機嫌麗しゅう。縁迎寺(エンゲイジ) (ムスビ)でございます。さて、これで物語の始まりであるenigmatic DESIREは終幕を迎えました。このままゴールドの過去へと進みたいところですが、その前に行方不明となっていた通り屋の鍵師、ラプサ=ブラックが裏で何をしていたのかを語っていきたいと思います。それでは次回から新章『infected DESIRE』をお楽しみに!

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