遭遇
続きです。
この世界の熊が
森の熊さんの歌の世界の様に
優しければ良かったのだろうが
現実は残酷で
目の前には総毛を逆立て唸りを上げる
大きな熊がいる。
真っ黒い体毛に
胸の辺りに白い模様
君はツキノワなお友達なんだね?
なんて、言っている場合ではない。
油断してしまった。
少し前に
食料とトイレ用のフキを調達に
群生地をよく確認しないで
不用意に入ったのが悪かった。
沢山の糞が落ちているのを見つけて
すぐに離れようとしたら
ばったり
ご飯を探している熊と遭遇してしまった。
熊と遭遇した時は
慌てず、騒がず、背中を見せて逃げないで
目を逸らさないで動かない事が必要だ。
・・・・・バイトの先輩に教わった事。
でも、これは本当に勇気がいる。
今すぐにでも逃げ出したい心を押さえ込み
できるだけ体を大きく見せるようにして
ブルブル震えながら熊と対峙している。
僕の持っている武器は
石器の槍が一本
ヒノキの棒よりはましだが
熊の前に攻撃力は無いに等しく
防御は腰蓑だけ
はっきり言って防御力ゼロだ。
「う、つう、ふ、ふぅ〜・・・・・・」
呼吸が勝手に早くなってきて
苦しい。
心臓の音が響いてきて
煩い。
冷静に、冷静に
熊の目を睨みつけたまま
ジリジリと後退する。
その間も
熊は「ゴワ〜」とも「ガー」と
聞き取れる唸り声を上げ
目を見開き、口角から白い涎を垂らし
毛を逆立てて
飛びかかる隙を伺っている。
「ふう〜、ふう〜、はっ、はあ〜」
自分の呼吸する音がうるさい。
熊と遭遇して
何分経ったのだろう
十分か、一時間か
恐怖と緊張で
時間の感覚が麻痺してしまっている。
『目を離したら負ける』
という言葉が良くあるが
今がまさにその状態だ。
僕は目を合わせながらも
ジリジリと後退して
最初に遭遇した所から移動し
フキの林からは抜け出している。
僕も熊も
とっくに集中力の限界に達していて
いつ緊張の糸が切れるか・・・・・・
いや、とっくに限界だった。
「ガア〜、ガア〜、ガア〜」
森の中、唐突に響き渡った
濁ったカラスの鳴き声に
意識をとられ
その均衡が崩れる。
ガサガサガサガサ・・・・・・
一瞬の隙をついて
熊は僕に背を向け全速力で逃走した。
全身の力が抜けると同時に
ぴちゃぴちゃと
川の流れとは違う水音が聞こえた。
それが
内股から太ももにかけて生暖かく濡らし
足先で冷たさを感じる頃
何なのかに気がついた。
・・・・・・
物心ついてからは
一度もした事がない
お漏らしをしていた。
宜しくお願いします。




