真相と闇と
お久しぶりです。
いつもありがとうございます。
続きです。
気がつくと
二週間も過ぎていました。
三十人ほどが入ることができる大きさの
窓がない石造りの部屋の中は静まりかえり
魔道具の明かりは消され
二十人ほどの男たちが
映像を記録する宝珠が
スクリーンに映し出す
驚愕の光景を見ていた。
12歳から14歳くらいの少女が
傷ついた金髪の
二十代後半と見られる青年にすがりつき
胸に開いた傷を啜っている。
少女の背中には黒い羽があり
尻の尾は青年の首に巻きつき
その先端は皮膚を突き破り
体内にまで達している。
青年の
胸にある深い傷からは
黒い霧状のものが吸い出され
代わりに
少女の尾の先から
何かが体内に注入される度
青年の苦悶していた表情は和らぎ
体中の傷はみるみる癒え
若返って行く。
青年の黒い霧が取り除かれ
十代後半まで若返った所で
完全武装した兵隊が部屋に突入して
映像は途切れた。
この場に集まっている
誰一人、言葉を発する事はなく
静まり返っている。
私は
確認する様に
王に目線で合図を送り
一拍置いてから
重々しく
口を開いた。
「事前に報告があった情報と
映像の内容に相違が見られる……
副首相、君の意見を聞きたい」
「は、宰相殿、本映像は
私の受けた情報とも
相違があります。
報告された映像の両方、もしくは一方が
意図的に編集または改変されているのでと考えます」
表情一つ変えず
副首相が答える。
「ふむ、貴殿が『得た』情報はどの様にしてもたらされ
どの様な内容だったのかな? 」
「は、恐れながら、本日、深夜を回った頃
『砦の守備隊長の使い』を名乗る者から
緊急事態で見せたいものがあると
私の秘書に連絡がありました。
秘書に指示し、『通信』による再映画像を『映像』宝珠を使い記録させた後
私が確認しましたが、淫魔の少女が青年に取り憑き、黒い霧を体に注入して
尻尾より何かを吸い取る映像でした」
「ほう、さっきの映像とは真逆の状況という訳だな」
「はい、少女が青年を害しているとしか見えないものです
そして、映像宝珠には
『ロングゴート砦が襲われ
隠魔の少女がラビリンスシードを撒いた模様』
との報告が付されていました
また、『淫魔の少女は逃走して不明』との事でありました」
「なるほど、それで貴殿は王国全土にわたる
捜査を指示したと」
「はい、当然、映像の信憑性については
秘書を確認させました。
送り主には砦の守備隊長の署名もあり
王家にも同じ情報が行っているとの報告もありましたので
緊急事態と判断し行動いたしました」
集まった者達の顔を眺めながら
考える。
彼は
『自身は偽の情報を掴まされた
今般の騒動はその情報に従い
正しく対応した結果であり
責任はない』
と言いたいのだろう
確かに彼の主張には矛盾した点は無い……
が、彼が、一番初めに手にした情報自体
主張通りの物か怪しい。
自分に都合のいい様に報告内容を改変したり
映像の編集を行う事はできるのだ。
「副首相、君が見た記録を
我々にも見せていただく事はできないだろうか?
先の説明だけでは
私を含め
他の者達も君言葉を鵜呑みにし
信用する事はできんのだが」
「は、それであれば、映像宝珠をお見せしましょう」
と、彼は
予め準備していたであろう
映像宝珠を取り出し
係のものがそれを受け取り
再生する。
ノイズの嵐の後
唐突に始まった映像の
画質はかなり悪い物であったが
人物の顔や状況を確認するには
十分すぎるものであり
先ほど彼が説明した通りの
内容であった。
「……この映像の中身が、その、『通信』による
第一報でもたらされた物である証拠はあるのか? 」
「いえ、録画は秘書がしており
私はその場に立ち会ったわけではなく、
通信も見ていません。したがって
偽物……秘書が都合よく編集した物だとおっしゃるのであれば
それを証明する術はありません」
ふむ
開き直りとも取れる
回答が返って来たが……
「……そうか、では、これら二つの映像を見て
どちらが本物だと思う? 」
「……それは……
確証はありませんが、画質と記録時間から見れば
少女が青年を助けた映像が本物である可能性が高いかと」
「そう、だな。
私もその可能性が極めて高いと考える
であるならば、淫魔の少女のは犯人では無く、
ひとまず捕縛も中止すべきでは無いのか」
「しかし、淫魔の少女が犯人ではないという証拠も無い。
であれば、安全のため
現状を維持するべきでは? 」
すました顔をしながら
あくまで副首相は
淫魔の少女はラビリンスシードを持ち込んだ
可能性があるため捕縛を続行する様主張する。
私は
そんな彼を
若干冷めた目で見ながら
ある人物を呼んだ。
「ふむ、では最初に流した
映像宝珠を持ち込んでくれた
当事者に話を聞こう。
ウラキ殿、状況の報告を頼んだ」
「は! 」
王の後ろでフードを被り
控えていた近衛兵の一人が
頭の覆いを下ろしながら
スクリーンの前に進み出て来る。
会議場の何名かが
息を飲む気配がした。
照明の前、顕になった
その人物の顔は
先ほどの映像宝珠に写っていた
青年であった。
私は青年を確認する。
「初めに流した映像宝珠はオリジナルか? 」
「はい、ロングコート砦の監視カメラのものです」
「編集等は一切行なっていないな? 」
「はい、画質を見ていただければ
コピーとの違いは一目瞭然かと」
そうなのだ
映像宝珠は
記録内容を別の宝珠に転写できるのだが
劣化が激しく
5回も転写すると
画像の判別が難しくなる。
さて、
どうすると?
副首相の気配を探るが
能面のように表情を貼り付けた顔に
かけらほども動揺は浮かんでおらず
眉一つ動かす事はなかった。
くそタヌキめ。
忌々しい思いとともに
黒い感情が湧き上がってくるが
すぐ抑える。
ウラキ副隊長は
事件後すぐに伝令のため
ロングコトート砦を立ち
夜通し移動して
つい先ほど
王都にある城に到着し
近衛兵に扮し会議室入りしていた。
彼には
王都に至るまでの間
数度の襲撃があり
それらは
密かに彼を護衛していた者達が
全て撃退し、襲撃者数名を捕縛済みである。
首謀者は
間違いなく副首相派の手の者と推察されるのだが
使い捨ての
襲撃者を尋問したとしても
犯人まで繋がる証拠を得るのは
難しいだろう。
今回、大きな騒動となったが
彼の対応は
表面上、治安維持のために
正い行動をしていると認められるため
この件で
副首相を追い詰める事は
難しいだろう。
悔しい事だが
私は
この場でこれ以上
彼の罪を追求するのを
諦めることにした。
不正や罪を問うには
今はまだ
証拠が少なすぎる。
なに、
叩けばホコリが出てくる身
そのうち必ず追い詰めてやる。
その後
ウラキからもたらされた報告内容は
一番初めに放映された
映像に沿った物であり、
淫魔の少女の嫌疑は完全に晴らされ
その日の午後に
副首相による捕縛命令は
停止されたのだった。
今回は
会議室(見えない場所)で起きている
内容です。
ちょっと堅苦しいです。
次回から
やんわりふんわりな
お話をかければいいなあと
思ったりしています。




